第7話 王都の風と3人のヒロイン
王都セレノアの門をくぐると、空気の密度が変わった気がした。
人の数、建物の高さ、香り……すべてが地方の街とは違う。
さすが王都、モテの競争率も高そうだな。
「わぁ……すごいね、翔太!」
ルゥが目を輝かせて、あちこちを見回している。銀髪のフードが風に揺れ、ドラゴンの血を感じさせる瞳がきらめいた。
「王都はいつも賑やかです。でも……今日は少し、人の気が張っているように感じます」
エリナが静かに言った。相変わらず冷静で、言葉も丁寧だ。
「ま、警戒しておくに越したことはないな」
俺は歩きながら周囲を観察する。人の表情、歩調、声のトーン――すべてが心理のヒントだ。
そんなとき、聞き覚えのある声が響いた。
「おーい、翔太!」
手を振りながら走ってくる少女。茶色の髪を揺らし、陽に焼けた笑顔。
ミナだった。下層市場で雑貨を売っていたあの子だ。
「お前も王都に?」
「うん。市場が開かれるって聞いて、仕入れに来たんだ。……それより、その子たちは?」
「ルゥと、エリナだ。旅の仲間になった」
「ふーん、ずいぶん華があるパーティじゃん」
ミナがにやっと笑う。相変わらず庶民らしいストレートな言葉。
「華やかというより、賑やかですね」
エリナが苦笑混じりに言うと、ルゥが首をかしげた。
「えへへ、わたしは楽しいけどな!」
ミナに案内されて市場の一角へ。
果物や香草、布、宝石……どの露店も人でいっぱいだった。
「この香草、倍の値段つけられてるよ。王都の商人、ほんと容赦ないなぁ」
ミナが唇を尖らせる。
「ちょっと貸してみな。交渉ってのは、心理戦なんだ」
俺は軽く笑い、香草商人の前に立った。
「旦那、この香草、香りがすごいな。王都でも一級品だろ?」
「おお? そうさ、うちのは最高品質だ」
「でもさ、この風だと、香りがすぐ飛ぶだろ? もったいない。
俺なら“風に負けない香り”ってキャッチで売るね。二束まとめ売りで倍の客がつく」
商人が目を細める。
「……ほう、客寄せか」
「人間の心理って単純でさ。“限定”“特別”“今だけ”って言葉に弱いんだ。
――惹かれる要素を作ってやれば、向こうから寄ってくる」
沈黙。次の瞬間、商人が笑った。
「面白い奴だ。よし、特別に半値でいい」
ミナが目を丸くした。
「ちょ、ほんとに値下げさせた!?」
「心理の基本、“相手を認めてから提案する”だよ」
「……へぇ。ナンパだけじゃなくて、商売にも使えるんだね」
「ナンパ術って言うな。これは“魅力交渉学”だ」
ルゥがくすっと笑う。
「でも翔太、やってることは同じだよね?」
「ぐっ……まぁ、言葉の使い方は似てるけどな」
「素直に認めた」
エリナまで小さく吹き出した。
夕暮れ、荷をまとめ終えた市場の端。
沈む夕陽が石畳をオレンジに染めていた。
ミナが空を見上げながら言う。
「ねぇ翔太、なんでそんなに“モテること”にこだわるの?」
「理由は単純だよ」
俺は空を見上げた。
「この世界じゃ、“モテる”=“魔力を持つ”ことだろ?
でも本当の“モテ”ってのは、人を笑顔にできる力のことなんだ。
誰かの心を救えたら、それだけで十分強い」
ルゥが小さくうなずく。
「翔太、かっこいいこと言うね」
エリナが穏やかに微笑む。
「……あなたらしくて、嫌いじゃありません」
ミナが口元を緩める。
「まったく、調子いい人だね。でも、嫌いじゃないよ」
そのとき――王都の中心部から、鐘の音が鳴り響いた。
低く重たい警鐘。ギルド塔の方角だ。
「ギルドが動いた?」
「魔物……かもしれません」
エリナの声が一瞬で引き締まる。
俺は軽く息を吐いた。
「ま、どんな相手でも関係ねぇさ。
惚れさせるか、ぶっ飛ばすか。それだけだ」
三人が同時に俺を見た。
ルゥはわくわくと、エリナは呆れながら、ミナは苦笑しながら。
こうして俺たちは、“王都事件”へと踏み出すことになった。
――最強のモテ魔導士チームとして。




