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異世界ナンパ師の社会革命  作者: 肉じゃが男爵


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第10話 囁く共鳴石と揺らぐ心


カスティア山脈は、王都とは別世界だった。

吹き下ろす風は鋭く、岩肌は剥き出しで、空はやけに近い。


「うわぁ……高いとこだねぇ……!」

ルゥが足を震わせながらも、嬉しそうに辺りを見渡している。


「風が強いので、気をつけてくださいね」

エリナがマントを押さえながら、慎重に歩を進める。


「山道ってこんなキツいもん? 足がガクガクするよ……」

ミナは荷物を背負いながら文句を言うが、その表情はどこか楽しげだった。


そして――

先頭を歩くカレンは、ひとり静かに杖を突いて進んでいた。


「この奥に“共鳴石”がある。あなたの魔法と同じ、黄金の波動を放つ石よ」

「俺の魔法の起源かもしれないって話だったな」

「ええ。実際に見てみないと分からないけれど……あなたの力は“普通の魅力魔法”とは違う」

カレンがちらりとこちらを見た。

その視線はいつも通り冷静だが――どこか興味を隠していない。


洞窟の入口にたどり着いた瞬間、空気が変わった。

中から、微かに金色の光が滲み出ている。


「これ……ほんとに光ってるんだね」

ルゥが目を丸くする。


「魔力反応が一定じゃないわ。呼吸しているみたいに揺らいでる」

カレンの声はいつもより速い。研究者の顔だ。


「じゃ、入ってみるか」

俺が一歩踏み出すと――


洞窟の奥から、低い唸り声のような振動が響いた。

心臓に直接触れてくるような、不思議な波動。


エリナが眉を寄せる。

「……この魔力、翔太さんの“共鳴”と似ています」

「だよな。なんか、呼ばれてるみたいだ」


ミナが腕を組んだ。

「でもさ、あんた……平気なの? なんかヤバい感じもするけど」

「平気かどうかは、まぁ……行ってみりゃ分かる」

「そういうところだよ、翔太ってさ」

ミナは呆れたように笑った。


洞窟の奥――

そこに“それ”はあった。


巨大な岩の中央部が透けるように光り、

内部で金色の粒子が渦を巻いている。


「……これが、“共鳴石”」

カレンが息を呑む。


近づくほどに、胸の奥が震えた。

まるで、石が俺の心を覗いているようだった。


(……おまえは、何者だ)


耳ではなく、心に直接響く声。

俺は手を伸ばし――触れた。


瞬間、視界が金色に染まった。


──次の瞬間、俺は“どこかの街角”に立っていた。


夜のネオン。

人のざわめき。

そして、見慣れた景色。


「……ここは、俺の元いた世界の……渋谷?」


すると、背後から声がした。


「よ、久しぶり」

振り返ると、そこには“俺”がいた。

転生前の俺。

ナンパしまくって、夜の街を歩いていた頃の。


「おまえさ、忘れたと思ってるだろ?

 “モテることが生きがい”だった理由」


金色の光が渦を巻き、過去の自分が続けた。


「誰かに好かれるってのはさ……

 誰かに“居場所をもらう”ってことだったんだよ」


胸が刺されたように痛む。

俺は答えられない。


「この異世界でモテようとしてるのも、本当は同じかもしれねぇぞ?」


光が強くなり――景色が揺らぐ。


「翔太さんッ!」

エリナの声で俺は我に返った。


気づけば、洞窟の中に倒れ込んでいたらしい。

胸の奥がじんじんと熱い。


「大丈夫!?」

ルゥが心配そうに覗き込む。


ミナは怒ったように眉を寄せる。

「もう! 無茶しないでよ! びびったじゃん!」


カレンは俺の手をそっと握り、低い声で言った。

「……共鳴石が、あなたの“心の根”を揺さぶったのね」


「俺の……心の根?」

「あなたの魅力魔法は“自己肯定”を核心にしている。だからこそ、石はあなたの最も弱い部分を見せてきた」


俺はゆっくりと立ち上がる。

胸の奥に残る金色の余韻。

そして――なぜか、涙が出そうだった。


(……俺は、なんのために“モテよう”としてる?)


答えを出せないまま、俺は拳を握った。


その時――

洞窟が揺れた。


「な、何!?」

ルゥがしがみついてくる。


エリナが杖を構える。

「魔力反応……上昇しています!」


カレンの目が鋭く光る。

「共鳴石に触れたことで、周囲の魔物が刺激された……!」


洞窟の奥から、複数の唸り声。

牙の光。

赤い瞳。


「くるぞ――!」

俺は深く息を吸い、手を前にかざした。


「……今の俺の“魅力指数”がどれだけ伸びたか、試す時だな」


金色の光が、俺の全身から溢れ出した。


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