004 最前線に降る聖雨
――卒業式から二カ月後。人間と魔族の戦争の最前線。
「左翼、魔族に押されているぞ! すぐに体勢を立て直し、押し返せ!」
魔族領と隣接するギルブット共和国の西側にあるパーツム領は、人間と魔族の戦争の最前線となっており、今も戦火に包まれている。
開戦から三年。この戦線が大きく動いたことはなく、両軍は決め手を欠いたまま消耗戦を続けていた。
「セーラ様、申し訳ありませんが、左翼部隊に神の加護をお授けいただけませんか?」
「分かりました。すぐに向かいます。護衛の方々は同行をお願いします」
最前線を指揮するキリストロニフ聖王国の大将軍ゼビウスは、聖女セーラのもとに直接赴き、地面に片膝をついて臣下の礼をとると、劣勢となっている左翼への支援を要請した。
小さく頷いたセーラは、ゼビウスを立ち上がらせると、護衛の騎士たちを引き連れて、左翼部隊が展開しているカオス平野へと向かう。
広大なその平野では、人間と魔族が激しくぶつかり合い、無数の死骸が転がる戦場。甲冑を叩く蠅の羽音と、乾いた金属臭。まさに地獄絵図と化していた。
激しい死臭が漂う中、彼女は一切表情を変えることなく視線を戦場へと向けると、両手を天に掲げ、静かに魔法を発動する。
「聖母神の慈雨」
セーラが天に祈りを捧げると、雲ひとつない晴天から、前触れもなく温かな雨が降り注ぎ始めた。
それは戦場の騎士たちを癒し、身体に聖なる力を与える一方で、魔族には激痛と恐怖をもたらし、その戦意を容赦なく削っていった。
セーラが放った魔法は、それまで劣勢だった騎士たちを、まるで嘘のように態勢を立て直し、戦況を一挙に逆転させた。
ゼビウスは自らの要請によるものとはいえ、聖女セーラが放つ規格外の魔法の威力に、改めて圧倒される。
そして、敵であるはずの魔族たちに、わずかながら同情の念を抱かずにはいられなかった。
◆
私が特級魔法を放ち、戦線が持ち直したことを確認すると、自らの判断が正しかったことに安堵する。
視線を下げて右手に刻まれた聖女の紋章を見つめて、薄く笑う。
私は転生する前、この世界の管理者から、少しばかり融通を利かせてもらい、魔法の才能と、微妙な「恵まれた地位」を頂いた。
本当にどうでもいい地位の話はさておき、管理者は私に全属性魔法の才能を授けると言っていた――
はずだが、右手に刻まれていたのは「聖魔法の才能」を示す紋章だった。
正直、最初は管理者が何か間違えたのだろうと思っていた。だが、五歳の時に気づいた――
間違っているのは、この世界の方だと。
よく考えれば、転生前に渡された予備知識は、あくまで「人間側」から見た情報であって、管理者自身が持っている知識ではなかった。
その時、ようやくその事実に思い至ったのだった。
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