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第2章 第12話 魔女の烙印とアーデの決起

 翌日、アーデの市場に奇妙な布告が貼られた。

 羊皮紙に大きく刻まれた黒い文字。


『辺境に現れし“神薬師”は、実のところ神の敵である。

彼女の力は人を惑わせる呪いに過ぎず、放置すれば国に災厄を招く。

よって王都は彼女を“魔女”と断定し、討伐を命じる』


 人々のざわめきが広場を揺らした。

「魔女?」「嘘だ!」「アイリス様がそんなはずない!」


 けれど、恐怖の色も混じっていた。

 十年灰雨に怯えて生きてきた人々の心に、王都の言葉は棘のように突き刺さる。


 薬房に戻ると、セリスが憤りに震えていた。

「卑怯だわ! 救ってくれたあなたを、魔女呼ばわりするなんて!」


 バルドは拳を机に叩きつける。

「討伐令……今度こそ軍が本気で来る。王都は民衆の不安を利用してる」


 私はしばらく黙っていた。

 ルゥが膝の上に飛び乗り、頬を舐める。

 その温もりで、言葉がやっと形になる。


「……怖いのは当然よ。毒も薬も、見方ひとつで変わる。

 でも、私が救ってきた命は“事実”としてここにある」


 夕暮れ、広場に人々が集まった。

 布告を見て怯える者もいれば、怒りを隠さない者もいる。


 鍛冶屋の親方が前に進み、声を張り上げた。

「魔女だと? だったら俺は、魔女に命を救われたって胸を張って言うぜ!」


 孤児院の院長サラも続く。

「夜泣きが止まった子どもたちを見ればわかる。あの方が魔女なもんですか!」


 人々の声が次々と広がる。

「薬師様は偽物じゃない!」「俺たちの薬師だ!」


 私は壇上に立ち、集まった人々を見渡した。

 広場は松明の光に照らされ、揺れる瞳が一斉にこちらを見ている。


「王都は私を“魔女”と呼ぶ。恐れるのはわかるわ。

 けれど――あなたたちの隣で薬を渡し、病を癒やし、灰雨を止めたのは、確かに私」


 沈黙の中、私は拳を握った。


「私は魔女じゃない。薬師よ。

 もしそれでも魔女だと呼ぶのなら――“命を救う魔女”として立ち続ける」


 人々が一斉に声を上げた。

「アイリス!」「薬師様!」「俺たちと共に!」


 バルドが剣を掲げ、セリスが涙を浮かべながら頷く。

 ルゥが肩で「きゅ」と鳴いた。


 広場は決意に包まれた。

 王都がどれほどの軍を送ろうと、アーデはもうひとりぼっちではない。


 その夜、王都の大広間では宰相が冷ややかに言葉を吐いていた。


「辺境の街ごと潰せ。民ごと“魔女”に与したと記録すればよい」


 教会司祭が祈りの言葉を唱え、薬師ギルドの女が薄い笑みを浮かべる。


 ――軍靴の音は、確実にアーデへと近づいていた。


(第2章 第12話 完)

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