表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

22)騙し討ち

あけましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします。

「驚いた?」


超絶美青年は悪戯が成功した子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。

その笑顔に頭の中にある警報機がけたたましく鳴り響く。


「もしかしなくても、もしかして、エブァン……だったりしないわよね?」


動揺しすぎて変な日本語になる。


お願い!!否定して!


「エブァンだよ」


そんな!!事もなげにあっさりと!!


「なんで大きくなってるの!?」

「その理由を説明しようとすると国家機密になるんだけど……」


――エブァンは私のことが嫌いなのかしら。ちょっと傷つくんだけど。


「へー……」

「あれ、理由聞かないの?」

「国家機密なんでしょう?」

「まあ、国民に広がったら王家の存在が危ないくらいには」


予想外の展開すぎて勝手に手が出る。

叩いた額からは小気味良いくらいの音がした。


「あほかぁ!!」

「いった」

「一般庶民になんてこと言うの!!そんな重要な事、簡単に言っちゃ駄目」


強い口調で叱るとエブァンは目に見えてしゅんと肩を落とした。

その姿が小さい時の姿と重なって見えて、大きくなってもエブァンはエブァンなんだなと妙に納得してしまう。

それと同時に抱き上げられてる態勢が気恥ずかしくてドキドキと心臓が高鳴る。


「……うん、ごめん。けれどチズに関係あることだから聞いてもらいたいんだ」


先程とうって変わって真剣に訴えてくる眼差しに自然と背筋が伸びた。

まるで面接にでも受けているような緊張感がする。

千鶴が聴く態勢になったのがわかったのか、エブァンはローブを脱いで下に敷き、座るように促した。

二人で家の壁に縋るように座る。


「私が少年の姿のままだった訳は王家の祖先に起因する。文献でも憶測の域を出ない程の昔、魔物が存在していた頃の話だ」


物騒な単語が出てきてびくりと肩が揺れた。

魔物に対していい印象はなく、むしろ人を害する恐ろしい存在であり、そんなものが現実にいたら大変な騒ぎになる。


「今では魔物は物語の中で語られているにすぎないが、遙か昔は存在していた。魔物は人にない力を操り、それを行使して生きていたそうだ。王家の始祖はとても稀な魔物と人間のハーフだった。証拠に王家には力が使える者が生まれることがある」


エブァンが掌を上に向けると、いきなり人魂のような炎が灯った。


「え!?」

「こんな感じにね」


エブァンが人魂を掴むような仕草をすると人魂は手の中に消えていった。


「魔物の血も時間が経つほどに薄れていって、昔ほど力を使える者はいない。使える力もだんだん小さくなっていってる。その中で私は人の身に余るほどの力を持って生まれた。そのせいで身体の成長が途中で止まってしまったんだ」


内容が衝撃的すぎてあきらかに千鶴の許容範囲を超えている。


えーと、王家は魔物の血を引いているのは分かった。

そのおかげで力を使えるのも理解できる。

だから王子であるエブァンは民衆に姿を見せず隠れて暮らしていたんだ。

エブァンが美形なのは魔物の血を引いているせいなのかしら。

人と魔物のハーフであればわかる気がするわ。そもそも人とは思えないほど美形すぎるもの。

あれよね、欧米人と日本人のハーフに美人が多いのと同じ原理よね。

私も同じ学校にハーフの子がいた時、憧れてたなぁー。


膝を立てて、いわゆる体操座りのまま話を整理していると、いつの間にか考えが脱線していた。


「チズ?大丈夫??」

「はいっ!?」


裏返った声を出すとますますエブァンの顔が心配そうに眉が下がっていく。

取り繕うように大丈夫よ、と言いながらさりげなく肩を押す。

顔が近い。近いから。


「そういえばヨモギって慈悲深い悪魔って呼ばれてるの?ずいぶんひどい名前ね」

「それ、誰から聞いた?」

「誰って人が言ってたのを偶然耳にしたんだけど……」


言ってる傍からエブァンの表情がなくなっていくのを感じて慌てて話題を変えた。


「話はわかったわ。でも、なんで今の話と私が関係あるの?」


エブァンの顔に表情が戻ってそっと息をはいた。

ちょっと強引だったけれど話題を変えることに成功したらしい。

顔が整っている人の無表情はきつすぎる。


「前にチズは違う世界から来たって話してくれた時、還れないって言ってたのが還りたいっていう叫びに聞こえた。本当はとても還りたいけれど必死で諦めようとしているんだろう?」

「……」

「チズ?」


再び甘やかすような声音で名前を呼ばれる。

その話を蒸し返すなんてエブァンはひどい。そしてずるい。

そんな甘い声で言われたら憎めないじゃないか。


「……うん」


消え入りそうな声だったけれども、すぐ傍にいたエブァンには聞こえたみたいで、愛しむような目で見られる。


「望まない未来を見ているけれど、それはしてほしくないんだ。自分の未来は自分で作っていくものであってほしい。そして、その先に後悔がないようにしてあげたい。だからこの力でチズの手助けをさせて欲しいって言いたかった」


嬉しすぎるその言葉に胸がいっぱいになって涙が出てこようとする。

でも、泣いたらいけないと叱咤して感情を覆い隠し、今できる精一杯の笑顔を浮かべた。


「ありがとう。でも、もう大丈夫なの。アマンダとの関係を清算したら、自分の力で元の世界に返るってきめたから。エブァンには見守っておいてほしい」


放っておいてほしいという意味を込めたことが伝わったのだろう。

エブァンのなんとも形容しがたい表情を見て苦笑してしまった。


アマンダの関係を清算すると決めたときに元の世界に戻るときめたのだ。

ずるずると後悔を引きずっていくことはもう二度とごめんだ。

私はエブァンの事が好き。

けれど、そのことは自分の中でもう決着をつけた。

これ以上エブァンの傍にいたら元の世界に返れなくなってしまうのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ