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20)太陽と月

なんとか期限までにup

あとは年賀状をなんとかしないと笑”

過ぎ行く景色を過去の出来事に思いを馳せながら眺めていたけれど、見知った風景を見つけて前を向く。

抜け出そうとして失敗したのが馬鹿みたいにあっさりとスラムと街の境目まで来て拍子抜けした。

時間にしたらとても短いけれど、ここまでの道のりで心の整理はできた。

あとは私が行動するだけ。

縛り付けられていた枷が解かれたように開放感で満たされ、これまで恐怖に竦んでできなかったことが今ならできる気がした。

ライは速度を落としてゆっくりと歩く。

あぁ、ライともお別れなんだな。

殺されかけて罵られつつも、自分を見つめなおす機会をくれたのはライだった。

きっとあのままアマンダの傍にいても私は前に進めなかった。


「ここらへんでよろしいかしら、お姫様?」


目立たない建物の陰で千鶴を降ろして、からかい口調でライが尋ねてくる。

ここから家まで十分歩いていける距離だ。


「ええ」

「そう――」


ライは別れの言葉を口にしようとして途中で止まった。ある一点を凝視して盛大に顔を顰める。

固定されている視線の先を探すと、人混みの中から黒縁の猫が器用に人を避けてこちらに向かっているのが見えた。


「……ヨモギ??」


間違いない、あれはヨモギだ。

暫くあってなかったせいか懐かしく感じる。


「あんた、あの猫知ってるの?」

「知ってるけど…ライも知ってるの?」

「一部じゃ有名な猫よ。忌々しい……慈悲深い悪魔」

「なにそれ?」


自嘲気味に笑ったライが耳元で囁く。


「詳しいことは王子に聞くことね。これから大変だろうけど精々頑張るがいいわ。運が悪ければまた会いましょう」


冷たい言葉とは裏腹に小さな子供にするような優しい手つきで頭を撫でる感触を残してライは音もなく視界から消えた。


「ナァーゥ」

「迎えにきてくれたの?ありがとう」


足元に擦り寄ってくる頭を撫でると気持ちよさそうにヨモギは目を細めた。

千鶴は下腹に力を入れて思いっ切り息を吸い、気合いをいれる。


「さ、行こうか」

「ナァー」


ヨモギの鳴き声を合図に帰り道を歩く。

誘拐される前と今と、当たり前だけれど風景が全く変わらない。

それが深い安心感をもたらすのに気がついたのは家が見えた頃だった。

ちょうどミリクが家から出てきるところで潔く千鶴に気がつき、固い表情で足速にかけてくる。


「サラ!!」


慌てた様子でミリクが千鶴の肩をつかむ。

力の加減ができてなくて痛かったけれど、震えた手からどのくらい心配をかけたかが分かって千鶴は顔を顰めた。


「心配かけてごめん」

「謝るな。俺がちゃんと守ってやればこんなことにはならなかったんだ」

「ううん、ミリクは悪くない。だから責任とか感じなくていいから。……お母さんは、どうしてる?」

「アマンダおばさんなら家の中で寝てる」

「そう――」


辛そうに眉を寄せているミリクの後ろにはアマンダの部屋がある。

今は薄いレースがかかっていて中が窺えない。

きっとアマンダは心配しすぎて倒れたのだろう。

早く会って安心させてあげたい。

そして娘の――サラの亡霊から解き放ってあげたい。

今まで縛り付けてきた立場なのに都合が良すぎかもしれないが、今までの関係に終止符をうつと決めたのだ。

終焉しかみえない不毛な関係ではなく、もっと別の形を作っていきたいと強く思う。


「私は大丈夫。どこも怪我とかしてないし、ひどいめにもあってないわ。だから早くお母さんに無事な姿を見せて安心させてあげないと」

「怪我してないって……その足はどうした」

「ああ、これ?たいしたことないわ。ちょっとぶつけただけ」


いまだに力を緩ませず肩を掴むミリクの手に自分の手をそっと重ねる。

俯く顔が上がるのをまって安心させるように笑う。

するとミリクは多少強張った、困ったような微笑を浮かべた。


「なんかちょっと見ないうちに変わったな」

「そう?」

「ああ」


苦笑を漏らしたミリクに視線で促され家に戻る。

少し疲れたようなアリアさんに無言でぎゅっと抱きしめられた。


いっぱい、いっぱい心配をかけた。

心を痛めて私を心配してくれた。


そして心の底から心配してくれる人がいることに胸が熱くなり、涙腺がゆるゆると緩んでいく。


「――ありがとう」


言うべき言葉がそれしか見つからない。


***


ベットに眠るアマンダの手をそっと握る。

静かに眠るアマンダの顔色はあまりよくない。

アリアさんから聞いたところによると心労で倒れたらしい。

命に別状はないけれど暫く安静にしないといけないとのことだった。


繋いだ手から温かいぬくもりを感じる。


アマンダの実の娘、サラ。

私であって私じゃないもの。

今でもそれを考えると水の中で溺れて沈んでいくように息苦しい。

そして針で刺されたかのような痛みさえ感じる。


けれど私は私。

他の何者にもなれない。

私はサラにはなれない。


握った手がピクリと動いて反射的に力をこめた。


「お母さん」


ゆっくりと瞼が開かれる。

膝をついてぼうっとした様子のアマンダに顔が見えるように身体を動かすと、はっとしたようにアマンダは勢い良く上半身を起こした。


「……サラ?」


信じられないものを見るかのように目をしばたたかせているアマンダの手を両手で包みこむ。


「うん、私よ。ただいま」

「サラ!!」


感極まって涙を流しながら力一杯抱きしめてくるアマンダの背中に手をまわす。

その背中は震えていて、いつもより小さく見えた。


「心配かけてごめんなさい」

「無事に帰ってきてくれて、よかった。心配したんだよ」

「うん……ごめんなさい。このとおり無事に帰ってきたわ」


よかった、と何度も繰り返しアマンダは言う。

宥めるように小さな背中をさすり落ち着くまでずっとそうしていた。


「私はずっとここにいるから安心して寝てて」


心配そうに見るアマンダを無理矢理寝かせて、手を握りながら規則正しい寝息が聞こえるのを待ってアリアさんとミリクがいる部屋まで戻る。


部屋のドアを開けるとミリクの姿はなく、代わりにメラが窓際の椅子に所在なげに座っていた。

その隣ではヨモギがまるで猫の人形ように座っている。


「アマンダはどうだった?」

「今はぐっすり寝てます」

「そうかい。サラ、あんたにお客さんだよ」


アリアさんの言葉を受けてメラが椅子から立ち上がる。


「サラさん……ごめんなさい」


今にも泣きそうに顔を歪めて震えた声でメラが切り出した。


「サラさんの誘拐を指図した犯人は私の父です。こんなことになってしまってごめんなさい」


耐え切れなくなった水滴はメラの頬を通って床に染みを作る。


「ごめんなさい」

「……あの子、あんたのこと心配してたんだよ」


こっそりとアリアさんが教えてくれた。

誘拐した犯人はライであり、その目的をしってる身をしてはメラの父親を責めるつもりはない。

むしろメラの父親を失脚させるために利用されたのだから私の方がメラに謝りたい。


「メラには何の責任もないのだから謝らないで。私の方こそ心配させてごめんなさい」


本格的に泣きすぎてしゃべれないメラを抱き締める。

帰ってきてから謝ってばっかりだなと思って思わず苦笑がもれた。


心配する皆に大丈夫だからと説得して家に帰ってもらった。

皆、私がいなくなってから心休まる暇がなかったのだろう。

疲労が溜まっているのは一目瞭然だった。


今日はアマンダのベットの横で寝ることにした。

アマンダは良く眠っている。

寝ようとして布団にもぐるとヨモギが邪魔をした。

顔にひげがあたってちょっとくすぐったい。

みじろぎをするとヨモギは大きな目を外に向け、窓の縁に飛び乗ると外に出してというように窓をひっかく。

窓を開けてやるとヨモギは外に出て行った。

今日は曇りのため月明かりが届かず外は暗い。

暗闇に慣れると、やっとぼんやりと辺りの様子がわかる程度だ。

ヨモギが行く方向を目で追っていると人影があるのに気がついた。

男の人ほど身長は高くなく、小柄なのが見て取れる。

雲の切れ間から時折もれる月明かりがちょうど人影にふりそそぐ。


「――エブァン?」


月明かりを含んだ光が銀色に光った。


えー…エブァンが出てきません。

出来れば年内にエブァンを登場させたい。

エブァンの登場を心待ちにしてくださってる方はすみません…

次回こそは!!

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