小話02)ナイトの忘れモノ
初連続投稿。
本編は執筆中ですので少々お待ちください!!
アマンダが焼いたパンが入ったバケットを片手に、空いた方の手でドアを2回ノックする。
するとすぐにアリアさんの返事があった。
「サラなの?今ちょっと手が話せないから入ってきてちょうだいー」
ドアの向こう側からアリアさんの声が聞こえ、お邪魔しますと言いながらドアを開けた。
台所の方からガサガサという音がしたのでそちらに行くと、アリアさんがオーブンに火を焚いているところだった。
「パイでも焼くんですか?」
「そうなのよ。常連さんに頼まれて昼過ぎに渡すの。今から焼かないと間に合わないんだけど……。んーちょっと炭が足らなかったかしら?」
「とってきますよ。どこにあるんですか?」
「裏庭の倉庫の中よ。お願いできるかしら?」
「はい」と返事をして炭をとりに行ったはいいけれど、きっとミリクの物だろうと思われる短剣と勲章を発見した。
きっと薪割りしてる時に置いたままにしたんだろうな。
仮にも騎士がこんな大切な物を置きっぱなしにしてもいいのだろうか……。
とりあえずこんな所に置いておくわけにもいかないのでアリアさんに炭とともに届けておくことにした。
「アリアさん、これ倉庫の近くに落ちてたんですけどミリクのですよね?」
「あの子、こんな大切な物を忘れていったの?本当に大雑把なんだから。出ていってからそうたってないはずだけれど、今は無理ね。……自分の子が勲章をつけてない騎士なんて情けないわぁ」
がっくりと肩を落として溜息をつくアリアさんの気持ちが良くわかる。
勲章は騎士のステータスであり、騎士である証だ。
勲章をつけてない騎士は騎士として認められない。
ミリクは騎士になったばかりだから勲章はこれ一つしか持ってない。
騎士を生業とする人達は総じて騎士であることに誇りをもっているから、このままだとめんどくさいことになるに違いない。
ミリクは自業自得だけど、アリアさんにまで皺寄せがいくのは勘弁してほしい。
「だったら私が届けます。今だったら間に合いうだろうから急いで行ってきますね」
申し訳なさそうなアリアさんに大丈夫ですよと返事をして急いでミリクを追いかけた。
アリアさんのいうとおりミリクが家を出てからそんなにたってなかったらしく、すぐにミリクを見つけられた。
「ミリク!!」
声をかけると驚いたように振り返った。
隣にいた男性も一緒に振り返る。
30代後半くらいで厳格な雰囲気を持った男性だった。
たぶんミリクの上官なのだろう。
「サラ?どうしたんですか?」
ミリクから聞きなれない口調がして一瞬固まった。
まぁ、上官が一緒だから失礼のないように振る舞っているのかと無理矢理自分を納得させる。
「これ、忘れ物よ」
「ありがとうございます。助かりました」
渡した包みの中身を確認すると、似つかわしくない爽やかな笑顔を浮かべて礼を言われた。
これは誰だ!!なんか……気持ち悪い。
「じゃ、忘れ物はちゃんと届けたから」
猫かぶりなミリクに寒気を覚えてさっさと退散してしまおうと手をあげて「じゃぁね」と言おうとしたら、上官らしき男性に先をこされた。
「ミリク、家まで送っていってあげなさい。隊の者には私から話しておこう」
いやいや、なにをおっしゃる!!
これ以上得体のしれない人物と関わりあいになりたくない。
その一心でめいいっぱい遠慮した。
「いえいえ、大丈夫ですから。家もすぐそこですし、送っていってもらうほどではありません」
「家が近いのであれば尚更ですよ。我々騎士は女性を大切にしなければなりません」
上官らしき男性の視線をうけてミリクは頷いて爽やかな笑顔をこちらに向ける。
そのくせ目は言いたいことを語っていた。
ごちゃごちゃ言うな、ということですかね。
「では、サラを送っていきます。隊の方は宜しくお願いします」
「ああ。ではお嬢さん、また会える機会がありましたら」
「はい」
優美な礼をうけて先導するミリクについていく。
もう上官の目が届かないほど歩いた時、隣から盛大な溜息が聞こえてきた。
「つっかれたぁー!!」
「……お疲れ様」
「びっくりしたぜ。まさか上官とばったり会うとは思わなかった」
「私はミリクが気色悪かった」
「ひっでぇー。なかなかの好青年じゃなかったか?結構苦労したんだぜ」
「鳥肌がたつほど好青年だったわ」
ははっ、と笑い声が聞こえたと思ったらまた深い溜息が聞こえてきた。
騎士って大変な仕事なんだとつくづく思った。
15話あたりで似非紳士が発揮されたのはこうゆう経緯があったり。
ミリクも色々苦労してるみたいです。