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16)楔

頭痛を感じながら頭を起こすと、薄暗く、少し誇りっぽい部屋のソファーに横たわっていた。

この部屋の主は不在らしく、暖炉の前に置かれているテーブルやその周りを囲むソファーには薄汚れた布が掛けられ、千鶴はその一つのソファーに寝かされていた。

布から僅かに覗く家具は、細かな所にまで刺繍や、彫刻がされており、以前いた主がそれなりに裕福だったことが窺い知れる。


千鶴は何故こんなとこにいるのか本気で考え込む前に、後頭部にズキズキとした痛みが断続的な訪れから、殴られて意識を奪われたんだろうと結論を出した。

拘束もせず、ただ寝かされていたことから誘拐した男は本気で千鶴に危害を加える気はないらしい。

地味に痛む頭を抱えて起き上がり、この部屋に誰もいないことを確認してから足早にドアの前に行きドアノブをまわした。

その行為は誘拐されてきた状況からしてみれば閉じ込められたという確認でしかないはずだったが、予想に反してあっさりとドアは開いた。

こうまで順調にいくと逆に怪しいと思ったところで、やはりそう物事は上手くいくはずもなく、廊下の曲がり角から男が顔を出したのが見えた。


「気分はいかがかしら。もうそろそろ目が覚める頃だと思って、見に来て正解ね」

「……おかげさまで。頭痛がするわ」

「あんまり手加減できなかったから暫く痛いでしょうね。じきに治るだろうから我慢して」


見た目ががっしりしており、恰幅のある男が片手を顔に添え、女らしい仕種でにっこり笑う様は恐怖を通り越して鳥肌がたってくる。


止まらない頭痛も手伝って精神状況は最悪だ。

ある意味、最悪だと感じる余裕があるだけマシかもしれない。


「お茶とお菓子を持ってきたからゆっくりと今後のことについてお話しましょ」

「今後のこと?」


思わずおうむ返しに呟くと、背中を押されて再び部屋に戻された。


有無を言わせずソファーに向かい合わせに座らされ、目の前に湯気がたっているティーカップを置かれた。ご丁寧に砂糖とミルクが横に並び、レモンまでついている。


「さて、答えられることなら質問にも応じるわ。少しは落ち着いたかしら」

「私は最初から取り乱してないわ」

「そうね、表面的にはね。けれど私からしてみれば感覚が追いついてないだけとしか思えないわ」

「そんなことは、ないわ」

「そんなことはない?本当に?」


畳み掛けられるように言われ、不安が過ぎったが気を取り直して答えた。

今ここで怯んだら悪い方向にいきそうな気がしてならない。


「ええ、本当よ」

「……ふーん。まぁ、いいわ。思ったよりも話ができそうで助かるし」


紅茶を一口のみ、微妙な雰囲気を払拭するように一拍置いて男は続けて言った。


「私はライっていうの。仕事は、なんでも屋をしているわ。お金さえもらえば殺しでも誘拐でも請け負うけれど、今回は仕事じゃないの。私の独断ね。危害は加えないから大人しく誘拐されててくれればいいわ。時期がきたらちゃんと家に帰してあげる。それについては私を信じて、としか言えないわね。私としては態度で示してるつもりだけれど。さて、ここまでで何か質問は?」

「時期っていつまで?そしてなんで私なの?私を攫って得られるモノはなに?」


あまりに端的な説明に、一気に複数の質問を投げかけるとライは深いため息をついてストップというように片手をあげた。


「……ちゃんと答えるから、質問は一個ずつにしてもらえないかしら」


うんざりしたような物言いに、説明が説明になってないからだと文句を言おうかと思ったが、質問にはきちんと答えてくれるみたいなので出かかった言葉をぐっ、と飲み込んだ。


「まず、目的ね。私を利用した上に切り捨てた貴族を社会的に抹消するのが目的。殺して終わりなんて生温いわ。時期は目的が達成されるまで。貴方を誘拐したのは、それが一番手っ取り早いからよ。貴方、名前は?」

「サラ」

「チズって名前じゃなかったの?」

「……名前を知ってるくせにどうして聞くのよ」


以前からストーカーのごとくつけられていたのか、調べられたのか。

どちらにしろ何故知ってる名前をたずねるのか疑問に思ったことが表情に現れたのかライが答えた。


「名乗ってないのに名前を呼ばれるって、あんまり気持ちのいいものじゃないでしょ?だから聞いたのよ。どちらで呼べばいいかしら」

「それはどうも。サラでいいわ」

「わかったわ。サラね。可愛い名前じゃない」


一応日本人の礼儀としてお礼は言ったが、人の名前を褒められても嬉しくない。

無性にエブァンに名前を呼んで欲しくなった。


「報復する相手は貴方の暗殺を依頼した張本人よ。あの人の頼みなら罪のない非力な女の子を殺すことなんてなんでもないことだったわ。けれど王族を敵にまわすのは別。救いようのない愚かな真似なんかするから一気に熱が冷めちゃった。私、馬鹿はきらいなの」

「なんで私を暗殺することが王族を敵にまわすことになるの?確かに私はエブァンの友人だけれど、貴族の人より価値があるとは思えない」

「そりゃ、馬鹿な貴族より貴方のことのほうが大切に決まってるじゃない。大丈夫。すぐにでも馬鹿を抹殺して助けに来てくれるわよ」

「エブァンが私の為に動いてくれるとは限らないわ」

「いいえ、王子は動く」


ライは確信を込めて言った。

それが何の根拠をもって言われたのかわからない。

胸に苦い感情が広がった。


「一つ疑問なんだけど、貴方は何故、王宮に匿われなかったの?私だって王宮に行かれたら手の出しようがなかったんだけれど。だから貴方を誘拐するのは諦めていたのに。理解できないわ」

「……皆、王宮に行けって言ってくれたけど、私が拒否したの」


ライが怪訝そうな顔をして眉間にくっきりシワが出来るほど眉を寄せた。

知らず知らずのうちに身体が縮む。

この苦い感情は自己嫌悪だ。

王宮に逃げ込めば誘拐されることもなかった。

エブァンやミリク、アマンダ達に余計な心配をかけることもなかった。間違った選択をすれば結果はろくなことにならないことくらいは知っていた。

深いため息が聞こえる。


「理由は?」


誘拐した人に理由を言う義理はないが、言わなければならない雰囲気だった。

けれどそれは言い訳で、言い訳したかっただけかもしれないという考えが頭によぎったが、あえて無視をした。


「サラは、アマンダの傍にいなければならないから」

「それは貴方の義務??」

「いいえ、恩返し。アマンダは娘を支えに生きているから。だから私はアマンダの傍にいないといけないの」


ライは鼻をならして笑ったあと吐き捨てるように言った。


「たいした自己犠牲ね。ごめんけどそういう考え方、私、嫌いだから」


私が必死に縋りついてるモノを否定したライは実に悪人らしい微笑みで告げた。


「どちらにしろ、貴方は捕われの身。逃げれないわ」


これは私が招いた結果。

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