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15)必然

次から次へ湧いてくる愚痴を聞いていたらいつの間にか、空は優しいオレンジ色が広がる幻想的な絵画のようになっていた。


薔薇園も空に倣ってオレンジに染まり、妖精が現れて目を奪われることはあっても驚くようなことはないと思うような神秘的な美しさを醸し出していた。


これまでの話で、淑女のごとく品行方正を掲げ、慎み深いメラの印象がガラリと変わり、お転婆なお嬢様といった印象がついてしまった。


そして話の中で一番驚いたのはメラが慕っている人物だった。

なんと、親ほど歳が離れているバルバラ卿を慕ってしるらしい。


メラ曰く、男爵の元に嫁ぐなど野心の強い父が許しはしないだろうとのこと。

確かに、侯爵家は五爵中2番目に位置するのに対し、男爵は最下位であるためかなりの身分差になる。


しかし、ロマンチックという名の身分差ハッピーエンドの話が蔓延していた世界で育った千鶴からしてみれば階級は違えども貴族同士なので、さほどの障害ではない気がする。

実際、平民と王族という身分差のある千鶴とエブァンを応援してるあたり、相当矛盾してるのではなかろうか。


それよりも、千鶴からしてみれば歳の差のほうが問題がある気がする。

だが、話の話題にのぼることは無く、気にするそぶりがなかったのでメラにとっては大した問題ではないのかもしれない。

政略結婚が主流の貴族だと、親子ほど歳の離れた夫婦はあまり珍しくはない。

ここでも元の世界の常識は通用しなかった。


用事を済ませたエブァンとミリクが帰ってきたのでそのままお開きとなり、今日はミリクに家まで送ってもらうことになった。


「あ、そうだ。今日からアマンダと一緒に俺の家に住むことになったから」


さらりと、夕日が綺麗だなーというような独り言と同じような重さで宣言されて、ぴたりと歩みを止た。


「…どういうこと?」


2・3歩ほど前を歩いていたミリクが振り返り、同じように歩みを止める。

夕日が眩しくて表情までは読み取れなかった。


「だから、そのままの意味。今日から叔母さんとサラは俺と母さんが住む家に引っ越してくるんだよ。もう母さんにも叔母さんにも話を通してあるから家に着いたらすぐ荷造りな」


言い終わるとすぐにミリクは歩き出す。


マイペースで、親しくなればなるほど気持ちを察してくれなくなるのが分かってるので今更傷ついたりしないが、答えて欲しい内容を綺麗に外されたままで終わられても困る。


小走りで追いついて、裾を強く掴んだ。

こうでもしないと止まってくれやしない。


「そうじゃなくて。なんでアマンダと私がそっちの家に行かないといけないの?このままでいいじゃない。下手したらアリアさんまで巻き込んでしまうことになるわ」

「警護のためだよ。犯人が捕まるまでな。これでも、王子のお墨付きだぜ?安心して命預けろよ」


いや、二人のあの険悪な雰囲気を見て、なお信じろと?

ミリクはともかく、エブァンはあまり快く思っていなかったのは確かだ。

屋敷で二人で出掛けた時に何かあったとか。


いまいち腑に落ちないと感じたことが顔に出ていたのか、ミリクが眉尻を下げて困った顔をした。

今度は距離が近く、逆光ではないので表情がよく分かる。


「あんまり我が儘言うなよ。王宮に行きたくないって駄々こねたのサラだろ?…せめて、俺に守らせてくれよ」


背伸びをしたらキスできる程、近くでクサイ台詞を真顔で言われて、羞恥心で顔が赤くなる。

幸い、今は夕日が辺りを照らして辺り一帯が赤みがかってるので悟られることはないと信じたい。


「サラ、返事」

「……ふぁい」


これ以上天然タラシを発揮されると恥ずかしくて死ねると判断して不承不承に返事を返した。

動揺で変な返事になってしまったけれど。


よし!と満足気に満面の笑顔で言って再び歩き出したミリクの後をついて、一言も話さないまま家に着いた。


何を言われるのかドキドキしながら家に入ると、既にアマンダは荷造りを終えており、千鶴の分まで荷造りをしていた。


いつまでアリアさんの家にお世話になるのか分からないので、自分で確かめたほうがいいとアマンダに言われ、一通り目を通して足りない物を取りに行くために、自分の部屋がある2階に上がった。


やけにアマンダが楽しそうにしているのが気になって、どういう説明をしているのか聞きたかったが、アマンダに聞くと不審がられるので、ミリクと二人でいる時に聞こうと思いながら部屋に入った。


今なら理由をつけてミリクについてきてもらえば二人になれるとは思ったが、色々と物を探すのに傍にミリクがいたら部屋をじろじろと見られるのが嫌なので論外だ。


足らない物を全て揃え、下に降りようとドアを押して開けようとしたがドアは接着剤で張り付いているかのようにびくともしない。


鍵がついてる訳でもないのに開く気配を見せないドアに、悪い予感がして、ドアを拳をぶつけてドンドンと大きな音を出しながらミリクとアマンダを声が出る限り呼ぶが、一向に二人が気がついて部屋に来てくれる様子もない。


いつもなら耳を澄ませば聞こえてくるはずの外の音も聞こえない。


本格的にこれはおかしい。


さっきから身の危険を感じて心臓が音が早く、冷や汗が出る。

パニックにならないように努めるのが精一杯だった。


「無駄よ」


後ろから覚えのある声が聞こえてビクリと肩がはねた。


背中をぴたりと背中に貼付けるように反射的に振り向くと、ベッドに座った男が足を組んで膝の上で頬杖をついていた。

姿は見たことはなかったけれど声で、以前千鶴を殺そうとした男だということがわかって、体が恐怖に震えた。


「あら、悲鳴を上げないのね。それとも、声が出ないのかしら」


楽しそうに微笑む姿は気が狂った快楽殺人者を彷彿とさせた。


ドアは開かないし、声を出しても無駄。

窓から逃げようにも外に出る前に捕まるのがオチだろう。

八方塞がりだ。


「安心して。この前みたいに殺そうとしないわ。ただ、私に協力してくれればいいの」


立ち上がり、一歩ずつ距離を詰められる。

後ろはドアで下がれないので横にそれ、少しでも男から離れようとした。

目線を男に固定していたので床にまで注意が及ばず、置いてあった荷物に派手に転んだ。

男はそれを見逃さず、上に乗っかって身動きをとれなくさせる。


「逃げなくても危害を加える気はないっていってるじゃない。あんたを殺しても私に利益はなくなったの。今、あんたを殺せば王子を敵にまわすことになるわ。つまり私の不利益ってことね。理解して貰えた?」

「利益がないっていうならなんで私の前にあらわれたのよ。おかしいじゃない」


失っていた声が不思議とすらすらと出てくる。

けれど恐怖がなくなったわけではなく、証拠に涙は止まらない。


「殺しはしないけど暫くの間さらわれて欲しいの。勿論、害さないわ」

「嫌!!」


即座に拒否して、男の体を押し退けようと手で押したが呆気なく大きな手で拘束された。


「馬鹿ねー。体格差からして押しのけれる―」


――バァァン!!


千鶴の胸元にある水晶のネックレスが眩しいほどの光を発したと思った瞬間水晶が弾け飛び、轟音が耳を貫いた。


同時に外の音が戻ってきて、階段を駆け上がる音と、「どうしたんだい!?サラ!!」と叫ぶアマンダの声が聞こえた。


男は盛大な舌打ちをして掌で口を塞いで、やってくれたじゃないと呟いたのが聞こえたのを最後に意識がぷっつりと途絶えた。


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