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13)未来の狭間

赤い、赤い水溜まり。


人が呆気なく死神に誘われる瞬間を垣間見た。

それは恐怖に彩られ、時折顔を出しては千鶴を追い詰める。

けれど、徐々に日常に埋もれていき、気がつくことができないほどひっそりとした存在になる。


そのはずだったのだ。


「ミリク……それは、ほんと?」


はなから答えなどわかっている問いを、馬鹿みたいに呟いた。

信じたくなかったから。


「ああ、本当だ」


あっさりと肯定され、悍ましい記憶が蘇る。

赤い色を伴って。


頭が事実を拒否して、体が恐怖を思い出す。

かたかたと音がするのではないかと思うくらい、震えが止まらない。


恐怖でいっぱいいっぱいになっている千鶴の手にエブァンの手が重なった。

不思議と恐怖心がなりを潜めて、自分が戻ってくる。

もう大丈夫だと無条件に思えてしまうほど心強かった。


またエブァンに助けられた。


優しく微笑んでくるエブァンにひとつ頷いて事実と向き合う。


「ごめんなさい、ちょっと思い出してしまって……もう大丈夫だから、続けて?」


ミリクは少し躊躇った後、気を取り直したように事務的な報告を述べるように朗々と語った。


「今朝、牢を監視している者が殺されているのが発見された。当然、罪人は脱獄した後で牢の中はものけのからだった。今後、王子が襲われる可能性が高い。サラも可能性がないとは言い切れない。王子は周辺の警備を強化していただきたい。問題はサラなんだが……」


そこで一旦言葉がとまる。


確かにエブァンは王子という立場上、護衛やら私兵等がいるので問題は無いだろう。

エブァン自身も剣を扱えるので心配はない。


けれど千鶴は護衛がつくような身分ではないし、身を守る術など持ち合わせていない。

あくまで普通の一般人なのだ。


「サラを王宮で保護してもらうことは、可能でしょうか?」

「ちょっと、ミリク!!私に意見は聞かないの!?」


予想もしなかったエブァンへの提案に、思わず口を挟んだ。


「だってそれが一番効率が良くて、安全だろ?一日中俺がついててやりてーけど無理だし」

「ああ、そうだな。元はといえば私が原因だし、責任を持って引き受けよう」


エブァンにまで加勢され、怯んでしまう。


「いいじゃないか。一時でもお姫様気分を味わえるぞ」

「別にチズならずっと居てもらっても構わないが?」


あらかじめ台詞を決めていたかのように息ぴったりだ。

けれどここで負ける訳にはいかない。


「アマンダがいるから無理よ。長い期間離れてしまったら、アマンダが参ってしまうわ」

「アマンダも一緒に行けばいいじゃねーか」


なんでもないことのようにミリクは言うがそうもいかない。


「アマンダが王宮に行きたがると思う?たださえ精神が不安定なのに無理させたくないわ。危険でも……ここに残る。また私を襲ってくるとは限らないし、大丈夫よ」


「サラ」


咎める調子で強く名前を呼ばれる。


分かってる。

これはただの我が儘だって。

下手をしたら死ぬ可能性もあるのは重々承知の上だ。


「私は、王宮には行かないわ」


暫く睨み合いが続いていたが、エブァンの溜息で中断された。


「どうしても行きたくないのか?」

「ええ……ごめんなさい」


エブァンにまで弱った視線で見られると申し訳ない気持ちがして目が合わせられない。


「……分かった。チズがそこまで言うならなんとかしよう」


きっぱりと宣言する様子は、人の上に立つ者の独特の雰囲気がした。


なんでこんなに自分を信じて行動出来るのだろう。

行き当たりばったりで後悔ばかりの千鶴にとって羨ましく思うと同時に、自分の弱さを浮き彫りにされているようで苦しくもあった。


エブァンが服の下に隠れていたペンダントを外した。

それは吸い込まれそうなほど深い青をした水晶のペンダントだった。


「お守り。無理に王宮に連れて行こうとは思わないけれど、やはり心配だから肌身離さずつけていて」


耳元で囁かれて、頬をくすぐっていた銀髪が離れていく。

咄嗟に言葉が出なくて頷くだけ。


エブァンは立ち上がり、メラに二言三言話してからミリクを連れて部屋を出ていった。


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