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12)空の彼方

そんな馬鹿なと叫ぶ気持ちと、ああやっぱりなと思う気持ちが、千鶴の頭の中でせめぎあって上手く反応が返せなかった。


確かにそれなりの身分だと思っていたけど王子様って…


平民にとって雲の上の存在であり、関わりになるどころか姿を見ることさえ厚い雲に覆われて叶わない相手だ。


貴族ではないと言われていたけれど、それを疑問に思わなかった訳ではない。

特にこの屋敷に連れて来られてから度々その思いに駆られていた。


まさか王族は貴族ではないという屁理屈ですか。


ミリクは自信満々に爆弾発言するし、エブァンは穏やかな表情を崩さないし、側で控えているメラは涼しい顔で事の成り行きを見守っていた。


混乱して取り乱していたのは千鶴一人。


「何故そのような結論が出たのか教えてもらっても構わないか」


エブァンは否定せずミリクに問いかけた。その言葉は肯定を意味する。


もう勘弁してと項垂れたかったがそれを実行に移せるほど千鶴の神経は図太くない。


ミリクが初めて見せる真剣な面持ちで理由をあげる。


「はい。不審に思ったきっかけはサラが持っている髪飾りです。この髪飾りは余程の財産を持ってない限り手に入れることはできません。ましてやそれを一介の平民に贈るとなると自然とやんごとなきお方だと分かります」


まさに頭につけていた髪飾りが話題にのぼって驚いた。


ミリクに髪飾りを一瞥されて居心地が悪い。

というか、この流れだとこの髪飾りは相当高価なのだろう。

丁寧に髪飾りを外した。

その拍子に纏めていた髪が落ちてきて頬をくすぐった。


「あれで城くらいは建つのではないでしょうか」

「城とは少し、言い過ぎだ」

「…はぁ!?」


城!?

今、城って聞こえたけど気のせいじゃないよね!?


助けを求めてメラに顔を向けると忍び笑いをもらしていた。


持っていた髪飾りが異様なものに見える。


…これ、どうしよう。


頭が真っ白で何も考えてられない。

ぼけーと髪飾りを凝視しているとエブァンが苦笑して立ち上がり、千鶴の手を引いて近くのソファーに座るように促した。


今、かなり情けない顔になっていると思う。泣きそうな顔でエブァンをちらりと盗み見た。


「そんな顔をしなくていい。私がチズに贈りたかったのだから。これも本来の役割を果たしてこそ価値がある」


エブァンが髪飾りを手に取り、いつかのように器用に髪を纏めてあげた。


「よく似合ってる」


目を細めて満足気に笑っているエブァンに、また流されそうになる。

なんとか気を取り直して髪飾りを返そうと片手をあげて外そうとすると、信じられない言葉でエブァンに制された。


「…チズ、本当に城を贈ろうか??それとも手っ取り早く妃になりたい??」


抑揚のない声で告げられて再び思考が停止した。


城!? 妃!?

ああ、完全にキャパオーバーです。もう無理。


早々に白旗を上げて大人しく手を下ろした。

絶対、今、エブァンに逆らったら噛みつかれる。


もう無駄な抵抗はしないと判断したのか、エブァンが横道に逸れた話を元に戻した。


「私が王子だという根拠はまさかそれだけではあるまい」


「はい。あとは容姿です。以前、騎士の任命式にご出席されていた王女と幾つか類似する点がありました。私は直接お姿を拝見できませんでしたが話だけは聞きおよんでおりましたので」


「ファニアか。確かにこの容姿は珍しいからな」


王女の名前を呟いて納得したようにエブァンが頷くと、ミリクはズボンのポケットからなにかの紙を取り出した。


「これも貴方様がサラに渡されたのでしょう。これはサラが体調を崩した時に服用した薬の包み紙です。これには王家の紋章にも使用されている薔薇が浮き絵で描かれてます」


差し出された飴色の紙を受け取って光に透かすと、薔薇の模様が浮かぶ。


「確かに薔薇だな。…だが、私はチズに薬など渡していないよ」


意外な答えが返ってきて、思わず俯いていた顔を上げた。

薬はヨモギが持ってきたから、てっきりエブァンが渡したのかと思ってたんだけど。


「本当ですか?」


堪らずにエブァンに問いかけた。

私が口を聞いて良い相手ではないと分かってはいたんだけど、どうしても気になった。


それにしても急な展開についていけなくて、心が沈んで泣きそうだ。


「チズ、いつもどおりでいいよ。私は王子としてこの場にいるのではなく、ただのエブァンだから」


そんなこと言われても割りきれるものではない。

嫌嫌とするようにかぶりを振った。


エブァンが少し抱き寄せて頭を撫でてくれた。

でも、騙されてはいけない。

エブァンは優しく微笑んでいるけれども目の奥は冷めている。

身の危険を感じ、慌てて頷いた。


「本当に、私は、薬を渡していないよ」


その言い方だと、自分は渡していないけど犯人は知っているって感じに聞こえるんですが…。

聞く勇気はないのでそれ以上つっこまなかった。


「王子、一つ報告があります」


そういえばミリクは急いでたよな。

なんだろう、嫌な予感がひしひしとするんですけど。


固唾を呑んで次の爆弾発言を待った。


「以前、サラを襲った罪人が逃げ出しました」


う、うそー!?


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