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結続  作者: 安吐~&
第一部 
4/16

第一部4

**4**


 担当の名前は、ミチサネという。入学式の時は、礼服が似合わない清潔感のない男がいるな、と思っていた。各学級に分かれ顔合わせが行われる頃には、採寸の合っていないダボッとした服に着替えていた。顔に剃り忘れた髭を残し教壇に立った。立ったくせに「何を見ているんだ。」といった目で生徒を見渡していた。


「あー。この学級を担当するミチサネだ。これから少しの間だが、よろしく」


と挨拶を簡素に終わらせ、手元のとじ込みを開き名簿に目を遣る。ススーっと半分閉じていたような目を滑らす途中、一瞬眉ごと持ち上がる。そしてすぐに元に戻る。


 はずれた、と思った。周りを横目で伺っても、クラスメイトの表情は固い。これまで感じたことが無かったであろう『不信感』をまさか学校の、それも初日に、それも先生に、それも担当に、となっている人間もいただろう。阿琉斗も同様だったが、それらに加えてどうしても父がチラつく。まぁそういうものなのか大人というものは、と思考と感情を切り離す。


 驚いたことに、他のクラスが帰るなか、阿琉斗のクラスだけは授業があった。


帰宅したのは、辺りが夕焼けに染まった頃だった。


「遅くない?入学式、だよ、ね?今日?」


と困惑気味に言葉を切れ切れにして母親が迎える。


阿琉斗は口だけで笑いかけたまま「まずいかも」とだけ言った。


「いきなり授業が始まったんだ。びっくりしたよ。他の子もそうだった。宿題も出たよ」


疲れた様子だったが表情を緩め、


「でもさ、でもさ、とても面白かった」


と続けた。


 授業を始めた開口一番、彼はこう続けたそう。


「俺は、将来この学校の舘長になりたいとか、たくさんお金が欲しいとかは考えていない。ただ単純に君たちを最強に、そして最高な人材にして社会に立ち向かってほしいと思っている。先生や大人が間違ったことをしそうになったとき、立場を理由に躊躇し諦めることのはやめてほしい。先に終戦したあの戦争で、俺も多くの友人を失った。だから強くなれ。」


と冷たくも力強く言い放った。


 担当の名前は、ミチサネという。入学式の時は、礼服が似合わない清潔感のない男がいるな、と思っていた。各学級に分かれ顔合わせが行われる頃には、採寸の合っていないダボッとした服に着替えていた。顔に剃り忘れた髭を残し教壇に立った。立ったくせに「何を見ているんだ。」といった目で生徒を見渡していた。


「あー。この学級を担当するミチサネだ。これから少しの間だが、よろしく」


と挨拶を簡素に終わらせ、手元のとじ込みを開き名簿に目を遣る。ススーっと半分閉じていたような目を滑らす途中、一瞬眉ごと持ち上がる。そしてすぐに元に戻る。


 はずれた、と思った。周りを横目で伺っても、クラスメイトの表情は固い。これまで感じたことが無かったであろう『不信感』をまさか学校の、それも初日に、それも先生に、それも担当に、となっている人間もいただろう。阿琉斗も同様だったが、それらに加えてどうしても父がチラつく。まぁそういうものなのか大人というものは、と思考と感情を切り離す。


 驚いたことに、他のクラスが帰るなか、阿琉斗のクラスだけは授業があった。


帰宅したのは、辺りが夕焼けに染まった頃だった。


「遅くない?入学式、だよ、ね?今日?」


と困惑気味に言葉を切れ切れにして母親が迎える。


阿琉斗は口だけで笑いかけたまま「まずいかも」とだけ言った。


「いきなり授業が始まったんだ。びっくりしたよ。他の子もそうだった。宿題も出たよ」


疲れた様子だったが表情を緩め、


「でもさ、でもさ。とても面白かった」




 授業を始めた開口一番、彼はこう続けたそう。


「俺は、将来この学校の舘長になりたいとか、たくさんお金が欲しいとかは考えていない。お前らを最強にして最高の人材にする。それが俺の仕事だ。」

眉間に深い皺を作り、作ったような声でそう宣言する。


「お前らには社会に立ち向かってほしいと思っている。先生や大人が間違ったことをしそうになったとき、立場を理由に躊躇し諦めることのはやめてほしい。先に終戦したあの戦争で、俺も多くの友人を失った。だから強くなれ。」


ドラゴン…ざく……?


「先生!」クラスメートの男子が元気良く手を挙げる。


「なんだ」


「今から授業は間違っていると思います。今日は帰りましょう」


「うるさい、知らない知らない。教科書出せよー」


阿琉斗の母は腹を抱えて笑った。


「面白い先生ねー」


「勘弁してほしいよ。あれで授業が分かりづらかったら、とーこーきょひだよ」


阿琉斗は呆れながらも笑みを浮かべ、まんざらでもなさそうだ。


「でも良い先生ね。預ける分には心配だけど」


「じゃあ駄目じゃん」




 何日か登校して阿琉斗には分かったことがある。


一つは、どうやら阿琉斗はミチサネのお気に入りになってしまった、ということだ。


「なぁ、お前は確か」


「阿琉斗です。俺は先生の名前覚えていますよ?『ミチサネ』」


入学してからすでに月日は経っていた。


「あぁすまない。人の名前を覚えるのは苦手で…。ところで、阿琉斗。君のお父さんは」


えぇ、薬作ってる偉い人です。と返答するが、この手の質問にはもう飽きていた。


 この後、「えーお金もちなんだー」とか「すごーい。かっこいいねー」とか、どの属性に対して言っているのか分からない言葉が返ってくる。


阿琉斗はそう言われた際の返事が分からなかった。自身を褒めてもらっているわけでもないし、「そんなことないよ」というのも、相手の考えを否定しているみたいで嫌だった。


だからこの時も、「あーー」と言葉を伸ばし続けて走って逃げようかと思ったが、どうせ明日も会うし、と身内の情報を与えた。


「そうか」


予想に反し、返事はそれだけだった。そのまま去っていくミチサネの背中を、阿琉斗は訝しみながら見送った。


 次の日から、座学においても実習においても、阿琉斗が指名される、あるいはミチサネに話しかけられることが明確に多くなった。


「なー阿琉斗、学校は馴染めているか」


あぁ。


「阿琉斗、次の授業でこの説明するんだけど伝わると思うか」


あぁ。


「おー阿琉斗、飯食ってるか」


あぁ。


「なぁ阿琉斗、」


 「あぁー。なんなんだ」阿琉斗は頭をグシャっと掻きむしる。そして困惑していた。


ミチサネは父さんと似ていると思ったが違う。違うけど、似ている。似ているけど明らかに違う。


父さんはこちらに興味無いようだが、こっちの情報も全てに近いほど持っていた。それはそれで気味が悪い。


「阿琉斗くん、大変だね」と同じクラスの女子に言われる。おかげで授業で当てられずに済んでるよ、と語尾に含んでいるのは言うまでもない。


「そう思うなら替わってくれない?」


「えー、やだー!」と言い教室を出ていってしまった。


正直、阿琉斗は勉強ができた。運動も嫌いじゃない。だから全ての要望を卒なくこなしてしまう。


 小等部といえど阿琉斗は宗教の教主だ。人の相談や困りごとに対して、要望をを察し最適解を出すことに関しては天性の才があった。


「はぁ。予習しよ」


教科書を開く。


「おーい、阿琉斗ぉ」


あぁー、また。



「阿琉斗くんのお父さんって」


この質問に答えた際、予想と違う返答をした人人間は、ミチサネともう一人いた。


これが学校に入って分かったことの二つ目。


 


 きゃあ、と女子の悲鳴が複数聞こえる。何だ何だ、と男子がクラスから顔を出す。


阿琉斗は気づくと鼻から血を流し廊下に伏していた。左目がチカチカする。


 何が起こった。


殴った人間の顔を見る。


 そいつはクラスの中で一番体格が良い少年だった。名は確か、ゲンジと言っていた。誰かと話しているところは見たことがない。友達がいない、というより、みんな怖くて声をかけられないようだった。


 そんな少年が珍しくも声をかけてきた。


「お前のお父さんって薬屋なんだろう」と。


 阿琉斗はいつも通り、「そうだよ。そんなにすごくないけどね」と答えた。そして次に見たのは血のついた床だった。その血は自分から出ていた。


 たくさんの先生が駆けつけてくる。阿琉斗はゆっくりと立ち上がる。

この先生を見るのは入学式以来だな、と素っ頓狂なことを思ったが、すぐに痛みが現実へと引き戻す。


 頭ではなく、身体で動いてしまった。立てた右脚に体重を乗せ、振り向きながら拳を相手に突き出そうとする。


 パンッ、と乾いた音が廊下に響く。


 拳を制した手の平は皺だらけだった。だが頼りになる手だ、と思った。ミチサネが阿琉斗の手を静かに戻す。


 二人は教官室へと連れて行かれた。そこではお互い、特にゲンジは何も言わなかった。教官は一度、二人を家に返しそれぞれの家族へ連絡がまわった。


 その夜、ゲンジの母親が家まで謝りに来た。


「本当にすみません。ウチの子が怪我をさせてしまったみたいで」


 そこでも暴行の理由は語られなかったが、隠しているわけではないことが声色から伺えた。自分の両親にも理由は告げていないのだろう。


 母さんには言っていなかったのだが、ゲンジとの確執はこれが初めてではなかった。後ろを通るときに椅子の脚を小さく蹴って去っていく。ここで声を荒げてしまっては、こちらの立場が悪くなるので、何も言わず気にしないふりをする。


あるいは、授業中問わずグッと睨みつけられたり、すれ違うときに微かに何かを呟いていたり。理由が分からなかったことだけが正直気持ち悪かった。


これが毎日続くと思うと気が滅入いった。といってミチサネや他の生徒に相談するのも、なぜだか憚れた。


自分の力で解決してやろう、


そう強く思っていた。


その矢先に起こった、廊下での事件だった


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