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短編集

優柔不断な延命

作者: 暮 勇

 枯れかけていた観葉植物に、栄養剤を与えた。

 色褪せていた茎や葉に、青々とした鮮烈な色が戻った。

 命は無理に、伸ばされた。


 タマの容体は、正直よくない。

 高齢なのはもちろん、持病の腎不全が更にタマを苦しめた。僅かなご飯を食べる時間以外、眠っている時間が1日のほとんどを占めるようになった。

 生まれたての子猫の時からずっと面倒を見てきたので、病気と老齢に苦しむ愛猫の姿が居た堪れなくて仕方がなかった。

 私たちにできるのは、薬を与えて延命するか。薬を止めて楽にしてあげるかだ。

 動物病院の先生曰く、今の状態から良くなることはないが、薬を与えれば延命することはできる、という。

 果たして、どちらがタマにとって良いのか。

 私はここ数日、そのことばかり考えている。

 若い時のように自由に動き回ることも叶わず、起き上がる時には体を引きずるようにしか動けない。食べるという行為すら苦痛なのか、大好きだったご飯も数口しか食べられない。

 タマ自身もきっと、自分が長くないことを悟っているはずだ。

 それを、私が歪めても良いのだろうか。

 私はテーブルの中央に置いた観葉植物を見る。うっかり枯らしかけてしまったものに数日前栄養剤を加えてみた。植物の根元にアンプルの形をした栄養剤を突き刺すようにして与えて様子を見ていたら、色を失っていた茎や葉が再び活力に漲り、今まで以上に茎を伸ばし、大袈裟なまでに葉を広げた。

 元気になったことを喜べばいいのか、自然の有り様を曲げてしまったことを後悔すべきか、今の私にはわからなかった。

 私は寝息を立てるタマの背を優しく撫でる。

 せめて、今この一瞬だけでも、タマの気持ちが分かればいいのに。

 命に対して優柔不断な私は、今日も餌に薬を混ぜている。

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