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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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93.片割れ

 黎明の剣本部での話し合いが終わり、アルゴとメガラは通りを歩いていた。


 サン・デ・バルトローラは、相変わらず美しい景観をしていた。

 立ち並ぶ建物は煉瓦造りで、白い壁に赤い屋根。

 街には幅の広い運河が流れており、その上に頑丈な橋が架けられている。


 しかし、そんな美しい景観を損ねているものがある。


 建物の壁にボロ布が貼りつけられている。

 それも一枚や二枚ではない。そのボロ布は、街の至る所に貼り付けられていた。


 ボロ布には文字が書かれている。

 記載された内容は、アルテメデス帝国に仇名す逆賊を処刑する旨の宣告。


 メガラは壁に貼り付けられたボロ布を一瞥し、顔をしかめた。


「フン、美しい街並みが台無しだな」


 隣を歩くアルゴはそれに同意する。


「だね。というか、これになんの意味が?」


「これで反乱分子たちを煽り、一網打尽にするつもりなのかもしれん。つまりこれは、反乱分子たちへの挑発」


「あのクリストなんとかって大将軍がこれを?」


「おそらくな。つまり、黎明の剣の討ち入りは奴の思うつぼだ」


「そっか……」


「ゆえにお前の働きには、多くの者たちの命が懸かっている」


「うん、分かってるさ」


 そんな会話をしながら、二人は宿屋に辿り着いた。

 宿屋『アン』。

 低層階級向けの古めかしい宿屋だった。


 嵐に襲われて海に放り込まれた時、ルグを入れていた革袋が波にさらわれてしまった。

 だから持ち合わせがない。


 今はスキュロスが所持していた僅かな資金でやり繰りしなければならない状態だった。


 宿屋に入り、二階へと上がった。

 階段を上がり、一番奥の部屋。

 そこが借りている部屋だった。


「お帰りなさいませ、我が君」


 スキュロスが出迎えた。


「うむ。体の調子はどうだ?」


「はっ。もうすっかり元通りであります。ご心配をお掛けし、誠に申し訳ございません」


「構わん。念のため、まだ休んでおけ」


「その心遣い、大変うれしゅうございます」


「うむ」


 メガラはそう返事して、ベッドに腰を下ろした。

 そして真剣な表情でアルゴに問い掛けた。


「アルゴよ、今一度問おう。本当に、征くのだな?」


「……いく。リューディアさんとチェルシーさん、あの二人にはお世話になった。だから……助けなきゃ」


「……そうか」


「メガラ」


「何だ?」


「俺のわがままを許してくれてありがとう。メガラなら、あの不思議な力で俺に言う事を聞かせることが出来るはずだよ。だけど、メガラはそれをしていない」


「……」


 アルゴは笑みを浮かべた。

 わずかに顔を赤くしながら、少し恥じらいながらアルゴは言う。


「俺は―――メガラが主でよかった」


 照れ臭そうに笑うアルゴの姿は、年頃の少年そのものだった。


「なっ……」


 メガラは不意打ちを喰らった。

 口をパクパクさせながら、言うべき言葉を探す。


 しかし、結局は何も見つからなかった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 酒場『栄光の盃』は、大勢の客で賑わっていた。

 この店で出される料理は安く旨いと評判で、連日様々な客が訪れる。

 高級店では決してなく、大衆向けの酒場である。 


 広いホールには騒がしい声がそこかしこで響き、店の景気の良さが現れていた。


 そんな店内の片隅の席に、アルゴ、メガラ、スキュロスの三人はいた。


 メガラは聞こえてくる騒がしい声に耳を傾けていた。

 聞こえてくるのは、ヴィラレス砦で執行される処刑についての話が大半だった。

 メガラは有益な情報が拾えるかと少し期待して、しばらく黙って聞き耳を立てていたが、やがて大きな溜息をついた。


「駄目だ、こいつらは」


 聞こえてくるのは、根も葉もない噂話。

 リューディアというエルフの女は、元々はアルテメデスの高官だったとか。

 チェルシーという女は、実は女ではなく、背丈三メートルを超す大男だとか。


 アルゴたちはヴィラレス砦に関する情報をある程度は仕入れていた。

 ヴィラレス砦の構造や、大まかな守備兵の人数など。

 情報の出所は、大半が黎明の剣からもたらされたものだ。

 黎明の剣が時間をかけて集めた貴重な情報であった。


 情報は多いに越したことはない。

 大勢が集まる酒場は、情報を拾うのに恰好の場であるが、ここに求めているものはなかった。

 聞こえてくるのはカス情報ばかり。


「我が君、しかたがありませんな。群衆とはそういうものです。彼らにとっては、真実であるかどうかはさして重要ではありません。彼らにとって最も重要なことは、楽しめるかどうか、にございます」


「そうだな……」


「時に、一つ教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


「構わん」


「リューディア・セデルフェルト、チェルシー・メイ、その両名のことは伺いましたが、ランドルフ・オグエンとは、何者でしょう?」


「うむ。実は余もよく知らん。だが、アルゴはバファレタリア闘技場でその男と拳を交えた。アルゴよ、ランドルフについてのお前の所感をきこう」


 アルゴは食事を止めて答えた。


「あの人は……強い人だった。俺の攻撃が殆ど効いていなかった。そんな人が捕まったってのは、ちょっと信じられないかな……」


「それほどの強者を捕らえることができるのは……アルテメデスの大将軍をおいて他にない……というわけか」


「……多分、そう思う」


「小僧、儂も大将軍の恐ろしさは十分に知っている。あれは人の領域を逸脱した存在。人間というより、あれは……兵器だ」


「兵器……ですか」


「だが、儂は貴様を止めんよ。小僧がどう死のうが、儂には興味がないのでな」


「はい……」


「だが」


「?」


「だが、貴様が死ねば我が君が悲しむ。だから、せいぜい死なぬよう努力しろ」


 その発言を聞いて、アルゴとメガラは顔を見合わせた。

 二人ともわずかに笑う。


 二人が笑う姿を見て、スキュロスは照れ臭さを誤魔化すように咳ばらいをした。


「ゴッ、ゴッホン!」


 その様子を見てアルゴはまた少し笑い、それから何かを思い出したように言う。


「ところで、ランドルフさんの相方、ザムエルさんはどこに居るんだろう?」


「さあな。もし奴が義に厚い男ならば、奴もまた我らと同じことを考えていそうなものだが……」


「ふむ。その者も魔族ですかな?」


「そうだ。若い男で、青い肌に、額には第三の目……」


 スキュロスはそれを耳に入れながら、左に目をやった。

 左から気配を感じたからだ。


 少し離れた位置にフードを被った男が立っていた。

 フードから顔が覗いていた。

 魔族の若い男だった。

 特徴は青い肌、額に第三の目。


 ん?


 今しがた聞いた特徴と一致する。と思い、スキュロスはその男をよく観察する。

 男の様子がおかしいことに気付く。


 その男は目を見開き、小刻みに震えていた。

 その男がこちらに近付いてくる。

 そして、その男は涙を流した。


「奇跡だ……。このザムエル・ゴードン、まだ神に見放されていなかったようだ」

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