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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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92.団長の選択

 サルディバル領、サン・デ・バルトローラ。

 ミュンシア王国東部に位置し、王国内では王都バファレタリアに次ぐ大きな都市。


 黎明の剣本部は商業街に建っている。

 細長い建物で、白い壁に赤い屋根をしていた。


 この日、三階の団長室には、幹部たちが集まっていた。


 団の中でも上位の実力者、ベインが声を上げた。


「団長! 機は熟した! とっととヴィラレス砦に乗り込もう!」


 団長エトガルは、野太い声で穏やかに言う。


「落ち着けベイン。私とて気持ちは同じだ。だが、此度の問題は我々の存亡に関わる。皆の意見を聞こう」


 エトガルはそう言って、集った面々を眺めた。


 この場に集った者達は全部で七人。

 皆、並みの戦士ではない。いずれも強者。只ならぬ気迫と威圧感を備えていた。


 幹部の一人が声を上げた。


「俺はベインに賛成だ。リューディアを見捨てるなんてできるものか。今すぐにでも乗り込みたい気分だぜ」


 それを契機に、幹部たちが声を上げ始めた。


 血気盛んな幹部たちは口々に言う。

 戦うべきだと。


 エトガルは苦渋の選択を迫られていた。

 団員たちの決意は固い。

 皆、ヴィラレス砦に乗り込む覚悟だ。


 その覚悟はいい。だが、それをすれば間違いなく全滅する。

 こちらもそれなりの実力者が揃っている。規模もそこそこだ。

 しかし、相手が悪すぎる。

 相手はアルテメデス帝国軍事の一翼を担う大将軍が守護する砦だ。

 彼我の戦力差は大きい。

 到底、勝てる戦いではない。


 団長として決断しなければならない。

 義を重んじ、玉砕覚悟で討ち入るか。団員たちに恨まれてでも、生き延びることを選択するか。


「団長!」


「頼む、団長!」


「やりましょう!」


 団員たちから声が上がる。

 エトガルは、もう一度団員たちの顔を眺めた。

 そして、大きく息を吐く。


 こうなれば、もう団員たちは止まらない。


 ああ……女神アンジェラよ、我らをお救いください。


 密かに祈り、エトガルは口を開いた。


「分かった。我らは誓いを立てた。我らの血は濃く結びつき、我らの絆は何よりも固い。その誓いを、今果たそう」


「おお!」


 団員たちの口から歓声が上がる。


「よっしゃ! やってやるぞ!」


「やつらめ、ぶち殺してやる!」


 団長室は異様な熱気に包まれた。

 誰かが意気込み、誰かが応じる。

 死地へと向かう者たちの最後の激励であった。


 その時だ、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。


 その後、聞こえてきたのは、この場に似つかわしくない少女の声であった。


「たわけ共が! 無駄に命を散らすことをよしとするな!」


 一瞬にして静まり返った。

 部屋に踏み入ってきたのは、謎の少女。


 十歳前後の小柄な少女。

 長く澄んだ水色の髪。瞳は宝石の如く輝く紫。

 頭部には二本のツノが生えている。


 ベインは咄嗟に声を上げた。


「メ、メガラの嬢ちゃん!?」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 黎明の剣本部、三階団長室。


 団長室にて、アルゴ、メガラ、エトガル、ベインは顔を突き合わせていた。


 重い空気が漂う中、ベインは口を開いた。


「にしても、まさか戻ってくるとはな……」


 ベインは続けて尋ねる。


「何故だ……何故、戻ってきた?」


 その質問にメガラが答える。


「言ったはずだ。リューディアを助けるためだ」


 ベインは頭を振って言葉を返す。


「メガラの嬢ちゃん、俺はアンタのことを賢いと思ってたんだがな……。アンタらは、ここに戻ってくるべきじゃなかったんだ。じゃなきゃあ……リューディアは何のために……」


「正直に言おう。余の意見もお前と同じだ」


「は? だ、だったら何故?」


「我が騎士の決意は固い」


 メガラはそう言って、隣のアルゴに視線を向けた。

 ベインもアルゴに注目し、訝し気な表情を浮かべる。


「アルゴ?」


「俺は、リューディアさんを助けたいです」


「アルゴ……。そうか……お前の気持ちは分かった。お前がいてくれりゃあ百人力だ。そうだな? 団長」


「ああ、そうだな。君のような強者が共に戦ってくれるのであれば……これ以上に心強いことはない」


 ベインとエトガルはアルゴと共に戦うつもりだった。

 だがアルゴは、それを否定する。


「いえ、ヴィラレス砦には、俺一人で乗り込みます」


「な、何言ってんだよアルゴ! いくらお前が強いからって、それは流石に無茶だぜ!」


「大丈夫です。俺ならできます。それに、単独の方が色々と都合がいいです」


 ベインとエトガルは信じられないといった表情でアルゴを見ていた。

 その後ベインはメガラに顔を向けて言う。


「おいメガラの嬢ちゃん、本気なのか?」


「本気だ」


「おいおい、頭どうかしちまったのかい? それじゃあ本当に無駄死にだぞ?」


「リューディアが捕まったのは我らのせいだ。ならば、我らの犯した失態は我らが何とかしよう」


「だ、だけど、一人で行くなんてあまりにも無茶だ」


「お前たちと出会った頃の余であったのなら、余もお前と同じことを言っていただろうな」


「それほど……自信があるってことかい?」


 その問いにアルゴは答えた。


「はい」


 それだけ言うとアルゴは口を噤んだ。

 語る言葉は少なく、アルゴは落ち着いていた。

 ベインの目には、これから死地に飛び込む者の姿だとは到底見えなかった。


 リューディアを助け出すことぐらい、何でもないってことか……。


 ベインは胸の内でそう思い、エトガルに尋ねる。


「どうするよ? 団長」


「ふむ。リューディアの処刑が執行されるまで、まだ一月ある。いいだろう。七日以内だ。七日以内にリューディアを助け出してみたまえ。七日以内にリューディアが戻って来なければ、私たちは予定通りヴィラレス砦に討ち入りをかける」


「はい、それで問題ありません」


 アルゴは、平然とそう答えた。

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