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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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91.裁きの通達

 アルゴは暗闇の中で人の姿を確認した。


 大人の男だ。体格は並み。背は高くもなく低くもない。

 その男は、罵声を吐きながら斧を振り回していた。


「くそがッ! この獣どもが!」


 男を囲うように四体の獣。

 四足歩行で、鋭い双眸と鋭い牙。

 大きさは人の子供より少し大きい程度で、犬のような顔に丸い耳。


 以前、アルゴがリコル村で戦った魔物だった。


 男は苦戦していた。

 魔物の牙を躱しながら斧を振り回すが、魔物たちには当たらない。

 魔物たちは素早く動き、男の体に牙を立てていく。


「いってえな―――獣が!」


 やぶれかぶれに振り回した男の斧が、一体に命中。


「キャン!」と高い声で鳴き、魔物は草原の上を転がる。


「どうだ!」


 と男は勝ち誇るが、魔物はあと三体残っている。


 このままでは男は殺されてしまうだろう。


 アルゴは考える。このまま見て見ぬふりをすればどうなるか。

 男が殺されれば、魔物たちは男の肉を食い漁ったのち、この付近をうろつき回るかもしれない。

 そうなれば、魔物たちと戦わざるを得ないだろう。

 野営地で戦うことは避けたい。

 スキュロスを起こしたくないからだ。


 だったら。


 アルゴは動き出した。

 素早く飛び出し、魔剣を抜いた。


 闇の中で鋼が輝き、魔物の首を刎ねた。

 その後、身を捻って回転斬り。別個体の魔物の首を刎ねる。

 一瞬で二体を殺したアルゴ。


 男は突然現れたアルゴに驚き、体が固まってしまう。

 その男へと魔物は接近。


 魔物は牙を剥き、男へと飛び掛かった。


「やばッ!」


 男が焦りの声を上げた直後、アルゴは小石を親指で弾いた。

 小石が射出され、魔物の左目に着弾。


 魔物は「キャン!」と鳴き、怯んでしまった。

 牙の標準がずれ、男の肉を裂けず地面に着地。


「とどめを!」


 アルゴが叫び、男は慌てて動いた。


「お、おう!」


 と返事して、男は斧を魔物の頭部に叩き込んだ。

 斧は魔物の頭蓋骨を砕き、魔物は絶命した。


 男は肩で息をして魔物の死骸を見つめていたが、やがてアルゴに顔を向けた。


「た、助かったぜ」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 男の名はブライアン。年齢はニ十歳。

 駆け出しの冒険者。


 ブライアンは王都バファレタリアに向かう道中、魔物に襲われてしまったとのこと。

 ちなみに、あの魔物はプレーリーファングと名が付いてるらしい。

 単体では弱いが、複数体で活動し、連携を取りながら獲物を追い詰めるのだという。


 アルゴとメガラは、野営している窪地から少し離れた位置でブライアンの話を聞いていた。


「いやー、それにしても助かったよ。本当に感謝だ」


「いえ、こちらの事情で勝手にやったことですから」


「ブライアンとやら、人の事情にとやかく言いたくはないが、これも何かの縁だ、余が忠告してやろう」


「お? なんだい?」


「お前には荒事は向いていない。冒険者業は適当なところで切り上げ、田舎へ帰って畑仕事でもやるのだな」


「うッ、言ってくれるねえ……」


 歯に衣着せぬメガラの物言いだったが、アルゴは内心同意していた。

 ブライアンには戦う才能がない。

 このまま冒険者業を続けるのなら、近いうちに命を落とすだろう。


 ブライアンは大きく溜息を吐いた。


「はぁ~、分かってんだよ俺だって。俺には才能がねえ」


「気持ちは分かるが、全ては考え方次第だ。冒険者と生産者、そこに貴賤はなかろう。剣や斧を持って戦うことが、何よりも価値があることだとは余は思わん。鍬や鋤を握り、大地と向き合う職業もよいではないか」


「……キミ、本当に子どもか?」


「見ての通りだ」


 ブライアンは訝し気な顔をメガラに向けて、自分の髪の毛をくしゃくしゃに乱した。


「そうだな、キミの言う通りだよ。分かったよ、冒険者は今日で終わり!」


「それがよかろう」


 その返事を聞いて、ブライアンは気まずそうに言う。


「あー、それで、助けてもらった礼をしたいんだが、持ち合わせが無くてな……」


「気にするな」


「いや、そうはいかねえよ」


 と言って、ブライアンは自分の懐をまさぐり始めた。


「何かねえか、何か」と言いながら金目の物を探す。


「おい、気にするなと―――」


 その時、ブライアンの衣服の内側から羊皮紙がフワリと飛び出した。


 メガラはその羊皮紙を拾い上げた。


「おっとすまねえ。それは冒険者ギルドで配られていた物でな」


 そのブライアンの発言を聞いてもメガラは無反応だった。

 そのままメガラは動かなかった。じっと、羊皮紙を見つめていた。


 アルゴはメガラに尋ねる。


「メガラ? どうしたの?」


「アルゴ……心を落ち着けて見よ」


 アルゴは差し出された羊皮紙を受け取り、書かれている事柄を読んだ。



 これは正義の裁きであり、帝国の威光を知らしめるべく、広く通知するものである。


 アルテメデス帝国に仇名す逆賊を捕えた。

 帝国は大陸の安寧を司る執行機関である。

 ゆえに、これを乱す者たちに罰を与えるべきと判断する。

 ここに、以下の者たちを処刑する旨を通達する。


 チェルシー・メイ。

 ランドルフ・オグエン。

 リューディア・セデルフェルト。


 処刑はアルテメデス帝国直轄、東部領軍事防衛拠点にて執り行う。



 アルゴは内容を把握した。


 アルゴの指先に力が入る。

 その力で、羊皮紙が破けてしまいそうだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルゴくんの心理状態が見ててほっこりする 80話の朝食時に涙するところは、凄く流れが綺麗で素敵でした あとエマを助ける前だったら、リューディアやチェルシーを同じようにすぐに助けようと思えて…
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