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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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84.二人の少女

 「ハァ……ハァ……」


 苦しい。体が重い。

 少し歩くだけで息が上がり、体が動かなくなる。


 アルゴは足を止めた。

 膝をついて呼吸を落ち着かせる。


「もう少し……もう少しなんだ……」


 目指すは集落。

 集落の者たちに助けを求めるつもりだった。


 邪竜の血は人にとっては毒だ。

 邪竜の血を浴びた影響で、アルゴは生命の危機にあった。


 解毒する術をアルゴは持ち合わせていない。


 解毒術に長けた者に助けを乞わなければ。

 その人物に心当たりはないが、集落の者たちを頼るしかない。

 ひょっとしたら、シュラなら何か解決策を提示してくれるかもしれない。


 森は静けさに満ちていた。

 何も聞こえない。鳥のさえずりも、獣の遠吠えも。


 だが、何かがいる。

 気配を感じる。


 体は不調の極み。


 まずい。この状態では、危機に対処できない。


 それでも、アルゴは立ち上がった。

 鞘から魔剣を抜く。


「絶対に……帰る……帰るんだ」


 動かない体を無理やり動かした。

 魔剣を構える。


 現れたのは巨大な黒蛇。

 人の子供程度なら簡単に吞み込んでしまいそうなほどの巨体。


 黒蛇は舌をチロチロと出し入れし、アルゴを見定めている。


 アルゴの体が小さく震える。

 恐怖を感じているからではない。

 肉体の限界。もはや、まともに戦える状態ではないのだ。


 黒蛇はアルゴが弱っていることを見抜いた。

 黒蛇にとっては好機。弱った得物が目の前にいる。


 黒蛇は顎を大きく開き、アルゴに飛び掛かった。


「―――動け!」


 そう叫び、アルゴは横に跳んだ。


 黒蛇の牙が空を裂いた。


 アルゴは躱した。持てる全ての体力を使って躱したのだ。


 アルゴは全ての力を使いきった。

 もうこれ以上は動けない。


 当然、黒蛇は諦めない。

 黒蛇はアルゴへと狙いを定めた。

 次は必ず仕留める。黒蛇の瞳には、そういった意志が浮かんでいた。


「くそッ、動け! 動くんだ!」


 だが体は動かない。限界だった。


 黒蛇はアルゴに飛び掛かった。


 アルゴは動けない。絶体絶命。


「くらええええええッ!」


 突然、叫び声が聞こえた。


 その直後、黒蛇は頭部に衝撃を受けた。

 原因は棒切れで頭部を殴られたため。


 棒切れを振ったのは、可憐な少女。


「エ、エマ……?」


「アルゴ! 大丈夫!?」


「う、うん……」


「って、全然大丈夫そうじゃないじゃない!?」


 エマはアルゴの様子を見て狼狽える。

 エマに大きな隙が生じた。


 黒蛇は死んでいない。

 黒蛇は苛立った。牙を剥き出しにしてエマを威嚇。


 黒蛇はエマに飛び掛かった。


「あ、まず―――」


 エマは小さく声を漏らした。

 黒蛇の牙が見えた。

 まずい、噛まれる。


「スパークアロー」


 閃光が走った。

 それは雷の矢。


 雷の矢が、黒蛇の頭を貫いた。

 黒蛇は雷の矢に貫かれ絶命。


「まったく……無謀な小娘め」


 呆れるようにそう言ったのは魔族の老人、スキュロスだ。


 エマはスキュロスに感謝を述べる。


「スキュロスさん、ありがとう!」


 スキュロスはエマを無視し、アルゴの元へ歩き出した。


「小僧……まさか生きてるとはな。……死にかけか?」


「スキュロスさん……」


 アルゴは衣服の内側から小さな麻袋を取り出した。


「捕まえました……ドラゴンフライ……です」


「なんだと?」


「だから、メガラに……」


 アルゴの意識はそこで途切れた。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 ダンジョン内集落、レーン家にて。


 メガラはソワソワと落ち着かない様子だった。

 貧乏揺すりが止まらない。


「落ち着きなよ、メガラちゃんよ」


 シュラはそう言ってわずかに笑った。


「ああ、そうだな……」


 そう返事するが、メガラは落ち着かない。

 貧乏揺すりが止まることはない。


 メガラは視線を感じた。

 その方向に視線を向ける。


 視線の先には、薄い橙色の髪をした魔族の少女。エマだ。


「確かエマと言ったか? 余に何か言いたいことがあるのか?」


「……別に」


 エマは不愛想に返事してそっぽを向いた。


「……?」


 余が何かしたか?


 思えばエマの態度はずっとこうだ。

 嫌われているのか? だが、嫌われる理由が分からない。


 エマの態度を不審に思ったメガラは、シュラに視線を送る。


 シュラは肩をすくめるのみ。


 メガラは首を傾げるが、すぐに気にならなくなった。

 今はそれどころではない。


 その時だ。二階から誰かの足音が聞こえた。

 足音が近づいてくる。

 その者は、メガラの前で立ち止まる。


 メガラはその者に尋ねる。


「スキュロスよ、アルゴの様子はどうだ?」


「はい、薬を飲ませました。容態は落ち着いてきております。御安心ください」


「そうか……」


 メガラは安堵した。


 シュラは大きな溜息を吐いた。


「しかしよお、本当に危ないところだったなあ。アルゴが幻視中を捕まえてないとやばかったんだろう?」


 スキュロスは答えた。


「そうだな。邪竜の血は猛毒だ。その猛毒を解毒するには、ドラゴンフライをすり潰した飲み薬を飲む必要がある」


「しかも、新鮮な幻視中に限る、だろ?」


「そうだ。儂の持っているこの死骸では薬にはならん」


 そう言ってスキュロスは、懐からドラゴンフライの死骸が入った瓶を取り出した。


「けっ、なんでそんなモンを後生大事にしてんだか……」


 そのシュラの発言に対し、スキュロスは「フン」と鼻を鳴らしただけだった。


 メガラはスキュロスの方に顔を向けた。


「アルゴの様子をこの目で見ることは可能か?」


 スキュロスは少し考えて返事をする。


「はい。今は眠っておりますが……少し顔を見るだけならば問題はないかと」


「では」


 と言ってメガラは立ち上がり二階へ上がろうとした。

 だが、待ったを掛ける者がいた。


「駄目だよ」


 制止をかけたのはエマだった。


「何故だ?」


「今はアルゴを休ませなきゃ。邪魔しちゃ駄目」


「だが、スキュロスは問題ないと言っている」


「そ、そんなの信用できない!」


「お前は人の体に明るいのか?」


「あか……え、なに?」


「アルゴが今どんな状態なのか、お前に判断がつくのか?」


「それは……あんまりよくない状態よ」


「話にならんな」


 メガラはそこで話を打ち切った。

 足を進める。


「駄目だって!」


 エマはメガラの前に立ち塞がった。


「そこを退け」


「絶対に嫌!」


 メガラとエマは無言で視線をぶつけ合う。


 やがてメガラは軽く息を吐いた。


「分かった。お前の言う事が正しいのかもしれんしな」


 その発言を聞いてエマは、ほっと息を吐いた。

 勝った。


 密かに勝ち誇るエマにメガラは言う。


「その代わり、余に付き合え」


「え?」


「少し外で話さんか? ……嫌か?」


「別に……いいけど」


 メガラは頷き、出口へと足を進める。

 エマはその後を追う。


「我が君、私めもお付き合いします」


「お前はそこにいろ」


「ですが」


「くどい!」


 ピシャリと言い放つメガラ。

 スキュロスはそれ以上何も言えなかった。


 メガラとエマがいなくなった室内でシュラは笑った。


「カカッ、しかられてやんの」


 スキュロスはこめかみに血管を浮き上がらせて言う。


「黙れ、クソジジイ」


「そりゃあ、お互いさまだろうが」

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