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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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81.魔剣

 翌日。夜明け前。


 天井の水晶が弱い光を放ち始めた頃、アルゴは目覚めた。

 目を擦り、ゆっくりと起き上がった。

 その後、誰にも気づかれぬように静かに外へ出た。


 澄んだ外の空気を吸い、一言発した。


「行くか」


 この時間、レーン家の者たちはまだ眠っている。

 アルゴは誰にも言わずに行くつもりだった。


 と思っていたのだが、後ろから声を掛けられた。


「行くのか?」


 シュラだった。

 シュラだけは、アルゴの行動を予想していた。


 シュラは家の壁に背を預けた状態で、アルゴに顔を向ける。


 アルゴは答える。


「はい」


「行けば死ぬぞ?」


「死にません」


「勝算があるのか?」


「あります」


 シュラは数秒間黙り込むが、やがて口元を緩めた。


「カカッ。まったく、お前さんには驚かされる」


「すみません」


「ほれ」


 シュラはアルゴに向かって剣を放り投げた。

 アルゴは受け取る。


 シュラに渡されたのは鞘に仕舞われた直剣。

 アルゴは鞘から剣を抜き、鋼の輝きを確かめた。


「これは……」


「魔剣ヴォルフラム」


「これを俺に?」


「ああ、やるよ」


「いいんですか?」


「いいぜ。それともなにか、まさか丸腰で行くつもりか?」


「い、いえ……。感謝します」


「その代わり約束だ。絶対に帰ってこい。エマを―――悲しませるんじゃねえ」


 アルゴはシュラを見据えて答える。


「はい」


「カカッ、いい気迫だ。エマにはうまく誤魔化しておくからよ、なるべく早く帰ってこい」


「はい、ありがとうございます」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 森を抜けて、渓谷に辿り着いた。

 切り立った崖の間に川が流れている。


 川の幅は二十メートルといったところか。

 浅い川だった。深さは膝下程度。


 この川を下っていけば、邪竜の住処に辿り着くらしい。


 大きな岩が所々に存在する。

 岩から岩へと飛び移りながら川を下っていく。


 今のところ順調。この調子なら今日中に邪竜と対峙できるだろう。


 と思っていると、前方にて敵影あり。


 全身黒い鱗に覆われた二足歩行の魔物。

 蜥蜴と人が混じったような姿。

 邪竜の眷属、イビルリザードマン。


 イビルリザードマンは、右手に反り返った刀身の剣、左手に小型の盾を装備していた。


「ギイギイッ!」


 イビルリザードマンは威嚇するように鳴き、アルゴへと襲い掛かる。


 イビルリザードマンの剣が振るわれるが、アルゴは余裕で躱した。

 アルゴは魔剣を抜き、イビルリザードマンの右手首を斬りつける。


 今まで味わったことのない斬れ味だった。

 魔剣は黒い鱗を無視し、イビルリザードマンの手首を斬り落とした。


「ギッ!?」


 イビルリザードマンは驚愕している。


「すごいな……」


 アルゴは魔剣の刀身を見つめていた。

 魔剣の刀身は美しく輝いている。


 魔剣とは、刀身に魔力が込められた剣の総称であり、通常の剣と比べ格段に斬れ味が鋭い。

 加えて、刃こぼれすることは殆どなく、錆びたり劣化することもない。

 古の名工たちが鍛え上げた剣で、現代の技術では再現することは不可能と言われている。


 アルゴが魔剣の斬れ味に感心していると、イビルリザードマンがようやく衝撃から復帰した。


「ギギッ!」


 イビルリザードマンは左手の盾を前に突き出した。


 アルゴはイビルリザードマンを見なかった。

 魔剣を見つめながらイビルリザードマンの盾を躱し、流れるように回転斬りを繰り出した。


 イビルリザードマンの首が飛ぶ。


 やはり一太刀。

 黒い鱗など無いかのように、魔剣はイビルリザードマンの首を斬り落とした。


 アルゴは改めて感謝した。


「シュラさん、ありがとうございます」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 その後も川を下り続けた。


 随分と下ったように思うが、まだ邪竜の元まで辿り着けていない。


 理由は分かっている。思ったほど進めていないからだ。


「ギイギイッ!」


「ギイッ!」


「ギギッ!」


 その原因はこいつらだ。

 イビルリザードマンが次から次へと襲い掛かってくる。


「ふぅ……めんどうだな……」


 イビルリザードマンは邪竜の紋章を持つ者を襲う事はない。

 主の餌を奪う下僕はいない。

 だがアルゴは主の餌ではない。

 そのため、イビルリザードマンたちは本能を剥き出しにして襲い掛かってくる。


 面倒だった。ただただ面倒だった。

 イビルリザードマンはアルゴの敵ではなかった。


 弱い。弱いくせに立ち向かってくる。

 勇気とは違う。蛮勇。もっと言えば頭が悪い。


 そんなことを考えながら戦い続けた。


 駄目だ。余計なことを考えるな。剣が鈍る。

 いつもならもっと無心で戦えていたはずだ。


 焦燥。

 エマを助けたい。早くメガラの元に帰りたい。

 それらがアルゴを焦らせる。


 アルゴは、前方に居るイビルリザードマンたちに背を向けて走り出した。

 少し走り、イビルリザードマンたちと距離を取る。


 目を閉じる。

 足で川の流れを感じる。

 耳をすませば聞こえる。

 川の流れる音。鳥の鳴き声。小さな虫の羽音。


 自然を感じ、全ての負の感情を排除する。


 曇り一つなく、全ての負の感情が水のように流れていく。


 目を開けた。


 目を開けた瞬間、別世界に放り込まれたと錯覚した。

 だが間違いなく同じ世界だ。

 見え方が違うだけ。しかし、なにもかもが見えた。

 世界の法則さえも見えているような気がする。


「ギギッ!」


 イビルリザードマンたちが目前まで迫っていた。


 アルゴは焦らない。

 もう負の感情は湧いてこない。


 魔剣を振った。

 たった一振り。それも、軽く振っただけ。


 だがその結果を目にすれば、誰もが驚くだろう。


 イビルリザードマンの盾が裂けた。盾と同時に、イビルリザードマンの体も裂けた。


 イビルリザードマンは一瞬で絶命した。

 一瞬で敵を殺せるのなら、全滅させるのにそう時間は掛からないだろう。


「悪いけど、急いでいるんだ」

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