表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/250

76.夜明け前

「我が君、お加減はいかがですか?」


 スキュロスはそう言って、ベッドに横たわるメガラに顔を向けた。


「よい……とは言えないな」


 メガラの体調は快復していなかった。

 むしろ、さらに悪化していた。

 何もしていないのに体は疲弊し、自分一人で立ち上がることもおぼつかない状態だった。


「今は体を休めることを第一にお考え下さい。案ずることはありません。きっとよくなりますゆえ……」


「そう……だな。それでスキュロスよ、何か見つかったか?」


「いいえ、アルゴという少年の痕跡は何も」


「そうか……。無事だとよいのだがな……」


 スキュロスは何かを考えこむように黙り込むが、やがて口を開いた。


「一つ、お尋ねてしてもよろしいでしょうか?」


「かまわん」


「何故それほどまでに、人族の子供のことを気にするのでしょう?」


「……ここまでの道中、あいつには助けられたからな。あいつがいなければ、余は今頃死んでいたかもしれん。それに、あいつは余の契約者だ。そう簡単に捨て置けるものでもない」


「しかし我が君、相手は人族ですぞ」


「お前は変わらんな。確かに我らは人族に負けた。憎きアルテメデス帝国の人族どもにな。だがな、人族を一括りにするな。人族にも色々いるのだ。魔族と同じようにな」


「私には、分かりかねます……」


「よい。お前はそれでよいのだ。余はお前の考えを矯正などせん。それはそれで一つの答えよ。だが、お前とは違う答えを持った者も確かに存在する。それを……心に……とめて……」


 メガラは最後まで言い切ることができなかった。

 迫りくる睡魔に負け、深い眠りについてしまったのだ。


 スキュロスはメガラの寝顔をじっと眺め、囁くように言った。


「我が君よ、貴方様は変わりませんな。高潔なその御心は、何一つ変わっておりません。それゆえに……残念でございます」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 まだ薄暗い夜明け前の時間。


 アルゴは目覚めた。

 横になったまま視線を漂わせる。

 狭い部屋。家具はない。

 だが、きちんと清掃はされている。


 ここが他人の家だと理解するのに約五秒かかった。


 そうだ、そうだった。


 と頭の中で現状を整理し、起き上がって歩き出した。

 部屋の扉を開けて、廊下へ出る。

 静かだった。この家の者たちはまだ寝ているのだろう。


 ここは二階。

 二階から一階へと下りる。


 居間を通り過ぎ外へ。


 アルゴを迎えたのは、朝の静けさ。澄んだ空気。


 アルゴは息を吸い込み、肺に綺麗な空気を取り込む。

 肺と頭をクリアにし、散策を開始した。


 外に出ている者はいなかった。

 この集落の住人は、アルゴに警戒心を向けている者が殆ど。

 シュラの口利きでどうにか滞在は許されているが、下手な事をすれば追放されてしまうかもしれない。

 可能なかぎり住人を刺激しないようにしなければ。

 ゆっくりと集落の様子を眺めることができるのは今しかない。


 集落の規模は小さい。

 特段目新しいものはないが、それでも気になってあちこちに目を走らせる。


 木造の小さな家が並んでいる。二階建てが多いが、一階建ても存在する。

 教会は見当たらない。あるのは住居だけ。


 シュラから聞いた話では、この村の者たちは魚を獲ったり、森に入って動物を狩るなどして食料を確保しているらしい。

 食料を確保するのは自分たちのため。

 売る、という考えはなく、またその必要もない。

 商人はおらず、商売という概念もない。


 巨大な湖に、豊かな森。

 なるほど、これならば食料には困らない。


 そう納得していると、水晶の光が強まりつつあることに気付いた。


 そろそろ戻るか。


 アルゴは体を翻して足を速めた。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 家に戻ると、ルイサが起きていた。


「まあ、びっくりした。起きてたのね、アルゴくん」


「あ、はい。ちょっと散歩に。驚かせてすみません」


「え、ええ……いいのよ。朝食の準備をしているから、適当に寛いでてちょうだい」


 ルイサは優しかった。

 自分に親切にしたところで、ルイサには何の得もないはずだが。


 アルゴは、その親切さに感謝した。


「俺、なにか手伝います」


「いいのよ。君はゆっくりしていてちょうだい」


「いえ、なにか手伝わせてください」


「……そう?」


「はい」


「それじゃあ……」


 アルゴはルイサの指示を聞いた。

 短剣を磨き、食材を切り分けていく。


「へえ、手際がいいわね」


「でしょうか?」


「ええ、エマなんかよりもよっぽど」


「ははは……」


 と苦笑を交えて笑っていると、背後から声が聞こえた。


「誰がガサツだって?」


 エマがそう言いながら近づいてきた。


「あら、エマ。ガサツだなんて言ってないわよ。そう聞こえたのなら、それはあなたがそう思っているからでしょ? もっと精進なさい」


「はいはい」


 と頭をかいて、エマは居間に置いてあった棒切れを手に取った。


「朝食までには戻るから」


 そう言って、どこかに行ってしまった。


「まったくあの子は……」


 ルイサは大きな溜息をついた。


 エマ本人から聞いたが、エマは毎朝棒切れを振って修行をしているらしい。


 ここは平和な村だ。 

 外敵はおらず、争いもない。

 武力は一部の者だけが持っていればいい。

 女であるエマが強くなる必要はないのだ。

 ルイサはそう考えているようだった。


「アルゴくん、君にこんなことを言うのは変かもしれないけど、何かあった時はエマのことをよろしく頼むわね」


 ルイサはエマのことを心配していた。

 我が道を行くエマは頼もしい反面、見ていて危なっかしいところがある。


「はい! 勿論!」


 ルイサの不安をかき消すように、アルゴは力強く言い放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ