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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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75.湖の傍で

 湖の傍の集落。

 その集落にエマの家がある。

 質素で簡素な木造の家だった。

 エマは、両親とシュラの四人でこの家に住んでいる。


 エマの両親は、優し気な雰囲気で荒事とは無縁そうな夫婦だった。

 エマの父親はヴァン。エマの母親ルイサ。


 エマは、ヴァンとルイサにアルゴのことを紹介した。

 ヴァンとルイサは驚いていたが、アルゴが丁寧に事情を説明すると、落ち着きを取り戻してアルゴのことを受け入れた。


 ヴァンは、アルゴのことを眺めながら優しい声音で言う。


「大変だったね、アルゴくん。うちで良ければゆっくりしていってくれ」


 ヴァンに続き、ルイサも言う。


「そうよ、部屋も空いてるし、どれだけ居てくれてもかまわないわ」


 ヴァンとルイサは、アルゴに対し深い情を持って接した。

 迷い子のようなアルゴの姿を見て不憫に思ったからなのかもしれない。


「ありがとうございます。あの……食事まで」


 アルゴの目の前には、料理が並んでいる。

 魚を蒸し焼きにした料理だった。


 ルイサは笑顔で言う。


「いいのよ。みんな集まったら食べましょう」


 アルゴは心の底から感謝した。

 実のところ、空腹で倒れそうだった。


 アルゴが魚料理を見つめていると、遅れてエマとシュラがやってきた。


「カカッ、うまそうだな」


「お腹空いたー」


 シュラとエマが席につき、全員揃った。

 シュラ、エマ、ヴァン、ルイサは、目をつぶり何かを唱えている。


 きっと食材に感謝を捧げているのだろう。

 そう思い、アルゴは空気を読んで真似をした。


「さあ頂こう」


 そうヴァンが言うと、皆の手が動き出した。

 手づかみで魚に齧りつく。


 アルゴも齧りついた。


 旨すぎて涙が流れそうだった。

 食材とこの一家に感謝し、よく噛んで味わった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 ダンジョンに夜が訪れた。

 天井の水晶の光が弱まり、夜の帳が下りる。


 一定の周期で訪れる発光の強弱。

 水晶が輝く朝。

 最も強く光る昼。

 弱く発光する夜。

 徐々に輝きを取り戻す夜明け。


 現在は夜。


 アルゴは、湖の近くで胡坐を組んで瞑想をしていた。

 湧き上がる自我を抑え、頭を真っ白にする。


 一陣の風が吹き、水面に波が起きる。

 ここは地下だが、地上と同じように風が吹く。

 冷たい風だった。


 寒い。


 集中が途切れた。

 風ごときに心を乱されるようでは駄目だ。

 そう自分をしかりつけるが、一度解けた集中を元に戻すのは難しい。


「はぁ……」


 と溜息を吐いた。


 そのアルゴの様子を見て、シュラは笑う。


「カカッ。精進が必要だなあ、アルゴよお」


「はい……」


 アルゴは肩を落とし、小声で返事をした。

 その後、もう一度精神集中をしようと試みる。


 頑張らなければならない。

 何故なら、この修行こそが、ドラゴンフライを捕まえるために必要なことだからだ。


 シュラは言った。

 ドラゴンフライの姿を目で捉えることは難しい。

 見るのではなく、感じなければならない。

 第六感を研ぎ澄ませ、ドラゴンフライの存在を知覚せよ。


 では具体的にはどうすればよいのか。

 その答えが、この修行である。


 瞑想。精神を磨き、曇りなく澄みきった心を獲得する。

 それを明鏡止水という。


 それを体得すれば、ドラゴンフライを捕まえることができるはずだ。

 とシュラは断言した。


「まあ、大丈夫だ。お前さんは、俺なんかとは比べものにならないほどの才能がある。俺には無理だったが、お前さんならできるさ」


「そうでしょうか?」


「おうよ。正直言って複雑な気分だぜ。いや、はっきり言おう。俺はお前さんの才に嫉妬してる。ったく、俺は井の中の蛙だったてわけかい」


「……すみません」


「カカッ、謝んじゃねえよ。気にせずお前さんは上だけを見てろ。そうすりゃあ、どこまでも行けるさ。だが、焦りは禁物だ。焦っても逆効果。心を落ち着けて、淡々と修行をこなせ」


「はい、分かりました」


 そう返事しながらも焦りを完全に消すことは難しかった。

 今この瞬間も、メガラのことが気掛かりだった。


 実のところ、スキュロスの様子からメガラが無事であることを確信している。

 あのスキュロスの表情。あの警戒と拒絶の眼差しは、誰かを守ろうとする意志が含まれている。

 その対象はきっとメガラだ。


 スキュロスはメガラの味方だ。

 であるならばメガラは無事であるはず。


 そう思う。そう思いたい。


 スキュロスを排除し、霧の島を探索した方が手っ取り早いのかもしれない。

 だがそれは最後の手段だ。

 霧の島の危険性が未知数である以上、取り返しのつかないことは避けるべきだ。

 きっとメガラならそう言うだろう。


 だから俺は、スキュロスさんに認めてもらう必要がある。


「さて」


 軽く息を吐き、瞑想を再開した。

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