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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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74.幻視虫

 アルゴは棒切れを構えながら、シュラと相対していた。


 シュラから放たれる強烈な殺気。

 シュラの間合いに一歩でも踏み込めば、首が刎ねられてしまうだろう。

 棒切れで首を刎ねるのは不可能であるはずだが、その光景がアルゴの脳裏によぎった。


 ゆえにシュラに近付けない。

 シュラの隙を窺うが、そんなものありはしない。


 シュラは動こうとしない。

 アルゴが飛び込んでくるのを待っている様子。


 アルゴは、一度深呼吸をした。

 心を落ち着かせ覚悟を決める。

 このままでは埒が明かない。

 大丈夫だ。所詮棒切れ。死ぬことはない。


 そしてアルゴは動き出す。

 身を低くして飛び出した。

 シュラの間合いに侵入。


 その瞬間、シュラは棒切れを振った。


 閃光が走ったと錯覚した。

 空間が裂けたと思った。


 シュラの棒切れは、鋼の剣を凌ぐ斬れ味だった。


 アルゴの前髪が空を舞った。

 シュラの棒切れがアルゴの前髪をかすめたのだ。

 しかし、アルゴは無傷だった。

 シュラの棒切れが放たれた瞬間、アルゴは後ろに退いて回避したのだ。


「驚いたねえ、こりゃあ。俺の剣筋を見切ったってか?」


 シュラは驚いた様子でそう言った。


「見切ってはいません。勘で避けました」


「カカッ! おもしれえ!」


 シュラは楽し気に笑い、棒切れを構え直した。


「さあ、もう一回だ!」


「あの……」


「あん? どうした?」


「俺、急いでるんで……次で決めます」


 アルゴの発言を聞いて、シュラは言葉を失う。

 だが、それも一瞬。

 シュラの口角が大きく上がった。


「いいねえ。お前さん、本当におもしれえよ。いいぜ、来な」


「はい。いきます」


 アルゴは加速する。

 シュラの間合いに踏み込む。


 シュラは迎え撃つ。

 棒切れを神速の速度で振った。


 アルゴはシュラの棒切れを目で捉えた。

 二度目はよく見えた。

 アルゴにとっては、一度見れば十分だった。


 アルゴはシュラの棒切れに、己の棒切れを合わせた。

 棒切れが打ち合う音が鳴った直後、アルゴは棒切れを返し、素早く振った。


 アルゴは、一瞬の内に四度棒切れを振った。

 あまりにも速く、あまりにも鋭かった。

 その技は、シュラの剣技を完全に模倣したものだった。


 シュラの棒切れは、真ん中の辺りで叩き折れた。


 目を見張るシュラへと、アルゴは棒切れの先を突きつける。


「俺の勝ちです」


 シュラは折れた棒切れを捨て、溜息を吐いた。


「まいったねえ……こりゃあ」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 シュラは語る。


 ドラゴンフライ。別名、幻視虫。主な生息域はダンジョン。

 ある日ふと、空を飛ぶ虫が目に映ることがある。

 しかし、一瞬後にはその虫は消えている。

 勘違いか? と、目撃者を戸惑わせる。


 しかし、勘違いではない。

 幻覚でも幻視でもない。


 その虫は実在する。

 極度に見つけにくいだけ。


 その虫は、空気に溶け込むと言われている。

 原理は解明されていないが、空気と一体化し姿を消す。

 だから見えない。

 感覚が鋭い者は、極まれに幻視虫の姿を見ることがある。

 それでも一瞬だけ。はっきりと姿を見ることができるものは存在しないだろう。


 さらに、幻視虫は次元の狭間を泳ぐと言われている。

 次元の狭間とは、この世界と別の世界の狭間にある空間のこと。


 幻視虫は次元の裂け目を通り、この世界と次元の狭間を行き来する。

 幻視虫と同じく、次元の裂け目は人の目で見ることができない。


 次元の狭間を泳ぎ、空気と一体化する虫。


 幻視虫を目撃できるかどうかは運次第。

 確率は途轍もなく低い。

 望んで見つけることはできない。


 それを捕まえるのは、不可能に近い所業。


 アルゴに出された難題は、ほとんど達成不可能と言ってよかった。

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