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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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65.吹き荒れる風

 リューディアの槍術は、極限まで研ぎ澄まされていた。

 その技は、常人には到達不可能な領域にあった。


 リューディアの鋭い突き。

 風を切り、穂先がクリストハルトへ突き出される。


 只人ならば、何も出来ず心臓を穿たれるだろう。

 しかし、クリストハルトは並みの者ではなかった。


 クリストハルトは剣で槍を受けた。

 剣で受け、後ろに下がり槍の間合いから逃れた。


 リューディアは追撃。 

 クリストハルトを槍の間合いから逃さない。

 素早く槍を突き出す。


 クリストハルトは、今度は剣で受けなかった。

 槍を直前で躱し、大きく前に踏み込んだ。

 リューディアの懐に潜り込み、剣を振る。


 剣が振るわれる瞬間、リューディアは垂直に跳んだ。

 脚に溜めた魔力を解き放ち、約二メートル跳躍。


 リューディアは降下し始めたと同時に、槍を地上へ突き出した。

 地上に居るクリストハルト目掛けて穂先が放たれる。


 クリストハルトは後ろに跳び、距離を取ることを選択した。

 槍が地面に突き刺さる。

 と同時に、クリストハルトは前に踏み出した。

 リューディアの着地に合わせて斬撃を放つつもりだ。


 しかし、リューディアは予想外の動きをした。

 地面に突き刺さった穂先を起点に、槍の柄をしならせる。

 引き絞られた弓が一気に緩むかの如く、槍の柄に掛った力が解き放たれた。

 その反動を活かし、リューディアは再び空に浮いた。


 そして、リューディアは上空より突きを放った。

 目にも止まらぬ突きの連撃。

 これには、流石のクリストハルトも動揺した。


 クリストハルトは剣で受けきることができなかった。

 突き出された穂先が頬を掠め、うっすらと血が流れた。


 リューディアは地面に着地。

 クリストハルトは後ろに下がる。

 二人は、少し離れた位置で対峙した。


 クリストハルトは溜息を吐き、指先で頬を掻いた。


「これはまいった……」


「あら、もう根を上げるのかしら?」


「上げる上げる。俺はさ、別に戦いとか好きじゃないんだよね。俺はただ、楽しく生きたいだけ」


「とても大将軍の台詞とは思えないわね」


「別にいいよ、どう思われようがさ。でもこれは俺の本心でね。本当はさ、大陸の覇権とかどうでもいいんだよ。でもさ、人間どもは馬鹿だから、戦争戦争ってすぐに戦いたがる。だから、アルテメデス帝国が大陸全土を平定し、秩序を保つ必要があるんだよ。この理屈、分かるかな?」


「その秩序の裏で、どれだけの人を犠牲にしているの? どれだけの奴隷を生み出し続けるの? そんなものは欺瞞よ。自分たちの都合のいいところだけしか見ていない。いや、見ないふりをしているだけだわ」


「誰も犠牲にならず、誰も不幸にならない。なるほど、それは素晴らしい世界だ。でも、そんなのはあり得ない。何故なら君たち人類は、驚くほど愚かで、醜悪で、愚鈍で、身勝手極まりない欠陥だらけの存在だからだ。そもそも君たちの精神構造は、誰かを蹴落とすことで快感を得るようにできている。まったく……救いがたいねえ」


「すごく他人事のように聞こえるのだけど、気のせいかしら? まるで……自分は人間ではないかのような……」


 クリストハルトはリューディアから視線を逸らし、首の骨を鳴らした。


「さてさて、お喋りはここまでにしておこう。急がなきゃならないんでね」


「急いでいるところ悪いわね。でも、もう少し付き合ってもらえるかしら?」


「うーん、せっかくの申し出だけど遠慮しておこう」


 そう言い終わると同時に、クリストハルトの周囲の空気が揺らいだ。


 リューディアは身構える。

 嫌な感覚だった。クリストハルトの存在感が増したような、そんな気がした。


 突風が吹いた。

 クリストハルトを中心に風が渦を巻いてた。


「これは……」


 リューディアは槍を構えながら、クリストハルトを注意深く観察した。

 クリストハルトを中心に風が吹き荒れる。

 どう考えても自然に発生した風ではない。

 クリストハルトが何かしている。


 しかし、魔術ではない。

 魔術に敏感なリューディアはその答えに自信を持っていた。

 魔術が放たれる直前の肌がざわつく感覚。その感覚がない。


 ではあれは何だ?

 どうやら、噂は本当だったらしい。


 クリストハルト・ベルクマンは、『存在の力』によって大気を支配する。


 クリストハルトは、地面を蹴り上げてリューディアに接近。

 クリストハルトの力は未知数。

 リューディアは、もう少し観察することを選んだ。

 リューディアは、間合いを意識し後退。


 だが、クリストハルトはそれを許さなかった。

 荒れ狂う突風。

 クリストハルトを中心に、風が広範囲に吹き荒れた。


「―――ッ」


 リューディアは吹き飛ばされた。

 突風がリューディアを吹き飛ばしたのだ。


 リューディアは、背後に建つ商店の壁に叩きつけられた。


「―――くッ」


 それでもリューディアは素早く起き上がり、横に飛び跳ねた。


「無駄だ」


 突風。


 吹き荒れる風がリューディアを襲う。


 リューディアは再び吹き飛ばされた。

 リューディアは地面を転がる。


 クリストハルトは、左手を前に突き出した。

 突き出された左手前方の空気が大きく揺らぐ。

 それは次第に渦を巻き、激しく蠢き出す。

 荒れ狂う風が、極限まで圧縮される。

 その様は、小さな暴風。

 半径約一メートルの球状の暴風が、クリストハルトの左手前方に顕現。


「残念だが、ここまでだ」


 クリストハルトは、暴風を解き放った。

 暴風は解き放たれた瞬間、膨れ上がった。

 荒れ狂う嵐が発生。

 自然の摂理から外れたその技は、クリストハルトが桁違いの存在であることを物語っている。


 リューディアは、目を見開いて固まってしまった。

 動かねばと思う反面、理解してしまった。

 目の前の存在は、人の形をした何か。

 人を超越した存在。あるいは、個でなく現象。

 言うなれば、意思を持った自然現象。


 だとすれば、この小さな身で何が出来るというのか。

 この世界に生きる小さな一人である自分には、この世の理には抗えない。


 ゆえに、リューディアは動けなかった。

 ただ、迫りくる嵐を見ていた。


 嵐が周囲に絶大な被害を与えながら、リューディアに迫る。


 リューディアは、ポツリと呟いた。


「メガラ嬢、アルゴ少年……ごめん」


 その時だった。


「馬鹿! 諦めるんじゃないよ!」


 聞き覚えのある声が聞こえた。

 その瞬間、リューディアの目の前に岩の壁が出現。

 見覚えのある壁。この壁は、間違いなく魔術。


 岩の壁と共に、三つの影がリューディアの目の前に着地。


 チェルシー、ザムエル、ランドルフだった。


 ザムエルは岩の壁を複数出現させ、防壁を作り出した。

 ランドルフはリューディアたちを守るように前に出て、防御の構えを取った。

 

 チェルシーは迫りくる嵐を見据えて考えを巡らす。

 嵐は成長を続けている。今から動き出したところで嵐から逃れるのは難しいだろう。

 であれば、嵐をやりすごしたのち、その元凶を討つ。それが勝利への道。 


 チェルシーは叫ぶ。


「さあ、歯を食いしばりな!」

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