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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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64.エルフの覚悟

 クリストハルトは夢を見ていた。


 夢の中で、白い毛並みの狼の獣人が何かを訴えかけている。


 マティアスだ。

 生真面目で、笑顔を滅多に見せない俺の部下。


 マティアスが何かを言っている。


 ん? ヴァルナー? ヴァルナーがどうしたって?

 うん。ヴァルナーは死んだって聞いたよ。

 ああ、マティアスが殺したのか。ああ、俺が許可を出したんだった。

 で、そのヴァルナーがなに?


 ヴァルナーが妙なことを言っていた?

 えっと、魔族の子供と茶髪の少年? その子たちがヴァルナーをボコボコにしたって?

 ヴァルナー本人がそう言ったって?


 ははっ、そんな馬鹿な。子供にやられるほどヴァルナーは弱くはないさ。

 うん? でも、実際にヴァルナーはそう言っていた?


 ふーむ。魔族の子供と茶髪の少年……。

 いったい、何者なんだ?


 いや、待てよ……。

 魔族の子供と茶髪の少年。なんだろう、どこかで……。


 あ、さっき聞いたじゃないか。ザムエルくんも同じことを言っていたな。


 茶髪の少年か。茶髪……茶髪……あ。

 もしかして……茶髪の少年ってアルゴくんのことか?

 なるほど、アルゴくんの実力なら、ヴァルナーを倒せるだろう。


 じゃあ、魔族の子供とは?


 ザムエルくんは言っていたな。


 きっと貴方様も聞いたことがある名ですよ。有名人ですから。


 確かそう言っていた。

 その魔族の子供は、死んだ者と同じ魂だとも言っていた。


 魔族。故人。有名人。

 おいおい……嘘だろ。

 思いついてしまったじゃないか。


 永久の魔女っていうのは、そういう意味なのかい?


 おいおい、本当なのか?

 そんなことが―――


「ありえるのか!?」


 クリストハルトは、そう声を上げて上半身を起こした。

 背中や腰に痛みを感じつつ、周囲を見回す。


「酒場?」


 酒場だった。

 いつのまにか酒場で眠ってしまったようだ。

 机に突っ伏して眠っていたため、体が痛い。


「お客さん、ようやく起きたかい。もう店を閉めるんで、出て行ってくれるかい?」


 傍にいた酒場の店主にそう声を掛けられた。


「あ、ああ……」


 クリストハルトは涎を手の甲で拭い立ち上がった。

 眠気は吹き飛んでいた。


 確認しなければならないことがある。


 クリストハルトは酒場を出た。


 周囲は暗いが、空はぼんやりと明るい。

 空の色からしてもうすぐ夜明け。

 明け方。黎明。


 クリストハルトは進みだした。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 厚く雲が掛かっていた。

 雨は降っていないが、いつ降り出してもおかしくないような空だった。


 昼を少し過ぎた頃、アルゴ、メガラ、リューディアは港へ向かっていた。

 アルゴたちは、この都市で知己を得た者たちに別れを告げ、ようやく海へと繰り出すところだった。


 港から船に乗り、西へ目指す。

 目的地は、ルタレントゥム領内の都市、プラタイト。

 船で行けるのはそこまで。

 目的地であるイオニア連邦は更に西。

 プラタイトからは陸路となる。


 港を目指す道中、アルゴは浮かない顔をしていた。


「チェルシーさん、どこに行ったんでしょうか?」


 それにリューディアが反応した。


「彼女ならこれからも逞しく生きるわよ。何も心配いらない。でも、そうね、別れの挨拶ぐらいは交わしたかったわね……」


 別れを告げるため、チェルシーのことを探したが見つからなかった。

 だが、チェルシーの身に危機が迫っているというわけではない。

 チェルシーの手下が言うには、出かけると言って今朝アジトを発ったらしい。


「フン。大方、我らと別れの言葉を交わすのが照れ臭くなり、どこかへ雲隠れしたのだろうさ」


 鼻を鳴らしメガラがそう言った。


「ええ、そうね。彼女らしいと言えばらしいわね。でも、さっきも言ったけど彼女のことなら心配いらない。彼女なら、優勝金も上手く活用してくれるでしょう」


「そうでなくては困る。何のために奴に全額譲ったと思っているのだ」


「ええ、次に会う時が楽しみね。もしかすると、黎明の剣の団員になっているかも」


「ハッ、何を吹き込んだのやら、このとぼけエルフは」


「あら、人聞きが悪いわよ、意地っ張りお嬢さん」


「フンッ」


「フフッ」


 アルゴは二人の様子を後ろから眺めていた。

 メガラとリューディアは、本気と遊びの絶妙な間で舌戦を繰り広げている。


 いつもの光景だ。

 メガラとリューディアは性格は異なるが、どちらも口数が多い。

 大抵がメガラとリューディアの会話を傍で聞くアルゴ、という構図になる。


 この時、メガラとリューディアの会話が白熱していた。

 ゆえに、真っ先に気付いたのはアルゴだった。


 背後から近づいてくる足音。

 アルゴは、後ろを振り向いた。


 そこには、見知った顔があった。


「ようやく見つけたよ」


 激しくうねった若葉色の髪。

 やせ型で、軍人とは思えないような身体つき。

 クリストハルト・ベルクマンだった。


「あなたは……」


「やあ、アルゴくん。また会えたね」


「は、はあ……」


 正直会いたくなかった。

 まあでも、会うのもこれで最後だろう。


 そう思いつつ、アルゴは別れの言葉を告げようとしたが、リューディアがそれを遮った。


 リューディアは前に出て言う。


「何か用かしら?」


 リューディアにしては珍しく険がある言い方だった。


 クリストハルトは、顎を擦りながら言う。


「いや、君には用はない。俺が用があるのはアルゴくん、それから―――君だ」


 クリストハルトは、そう言って指先をメガラに向けた。

 メガラは小声でリューディアに尋ねる。


「誰だ?」


「彼はクリストハルト・ベルクマン。アルテメデス帝国の大将軍よ」


「なんだと?」


 パンパン、と手を叩く音が響いた。

 クリストハルトが手を叩き注目を集めたのだ。


「何も言わず、ヴィラレス砦までついてきてもらえると嬉しいんだけどね」


 それにメガラが答えた。


「何故だ?」


「それは砦についてから言うよ」


「お前は馬鹿か? それでついて行く奴がいるとでも?」


「まあ、そうだよねえ……」


 クリストハルトは、大きく溜息を吐いた。

 そして、腰の剣を抜いた。


 美しい鋼の直剣。磨き抜かれた刃。

 並みの剣ではない。名工にて鍛えられし剣。


「じゃあ、実力行使ってことで」


 それに対し、素早く反応したのはリューディアだった。


 リューディアは槍を構え、声を張り上げた。


「迎え撃つ!」


 リューディアから放たれる気迫。

 いつもの柔らかい雰囲気は消し飛んでいた。


 リューディアの変貌に戸惑いつつ、アルゴも剣を抜く。


「なんだかよく分かりませんけど、俺も戦います」


「いえ、アルゴ少年。君はメガラ嬢と先に行ってちょうだい」


「え、何を言っているんですか?」


「君は強い。それは十分わかっているわ。だけど、それは彼も同じ。私の任務は、君たちを目的地に送り届けること。でも、ここで全滅したら、それは達成できない。できれば一緒に同行したかったけど、私はここで足止めに徹する」


「そ、そんな……」


「さあ、行って」


「い、いやですよ……」


「行って!」


「だ、だから―――」


 その時、アルゴの腕をメガラが引っ張った。


「アルゴ、行くぞ!」


「で、でも!」


「聞き分けろ! リューディアの覚悟を無駄にするな!」


「―――ッ」


 メガラはアルゴの腕を強く引っ張り、そのまま走り出した。


「おっと、行かせないよ」


 クリストハルトは動き出した。

 地を駆け、アルゴとメガラに近付こうとする。


 風を切る音が鳴る。

 突き出されたのは、銀色に輝く穂先。


 鋭いリューディアの突き。


 心臓目掛けて突き出された槍をクリストハルトは剣で防いだ。


「ふぅ……厄介だな」


 リューディアは槍を引き、構え直した。


「私はリューディア・セデルフェルト」


「やれやれ。知ってるだろうけど、俺はクリストハルト・ベルクマン」


 リューディアは槍を構え、足を踏み出した。


「いざ、尋常に―――勝負!」

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