表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/250

60.無双の戦士

 アルゴは動き出した。ランドルフへと接近。

 ランドルフは迎撃。右拳をアルゴへ振り下ろした。

 アルゴはそれを躱し、ランドルフの側面に回った。

 そして、アルゴは蹴りを放った。


 アルゴの蹴りは、ランドルフの右膝に直撃。


「ぬうッ!?」


 ランドルフは呻き声を上げて咄嗟に退いた。

 ランドルフの方から距離を取るのは、これが初めてだった。


「お前……」


 ランドルフはニヤリと笑う。


「気付いたか」


「やっぱりそうでしたか。右膝、痛めていますね?」


「ハハッ」


「右膝を痛めているのにそれだけ暴れられるって……反則ですよ」


「何故、気付いた?」


「なんとなくです」


 アルゴは短くそう答えた。

 明確に言語化することはできない。

 己の全ての感覚をフル稼働し、情報を読み取った。

 ランドルフが放つあらゆる情報から、ランドルフの弱点を読み取ったのだ。


 それはアルゴにしか読みとれない情報。

 様子。気配。雰囲気。そういった類のものだった。


「面白いな、アルゴ! いいぞ! それでこそだ!」


 ランドルフはそう叫び、地面を蹴り上げた。

 突進。右膝を痛めているとは思えないような動き。


 アルゴは突進を躱し、すぐさま反転。

 ランドルフの右膝に向かって蹴りを放った。

 それをランドルフは横に動いて躱した。

 その後、拳をアルゴに突き出した。


 アルゴはランドルフの拳を躱し、後ろに退いた。


「ハハハッ! 来ると分かっていれば、躱すのは容易い!」


「ですね……」


 アルゴは軽く息を吐いた。


 この人の言う通りだ。このままでは駄目だ。


 アルゴは、再び己に命令した。


 今のままじゃ駄目だ。もっと速く動け。


 その瞬間、アルゴの雰囲気が変わった。

 己に入ってくる余計な情報を遮断。

 速く動くことのみに集中。


「いくぞ」


 そう呟き、アルゴは動き出した。


「む!?」


 ランドルフは動揺した。

 アルゴの動きが今までと違う。


 速い。アルゴの動きを捉えることができない。

 ランドルフは一瞬のうちに腹と顎を殴られ、脇腹を蹴られた。


「ぐうッ!?」


 アルゴの猛攻にランドルフは大きく動揺してしまった。

 その隙に、アルゴはランドルフの右膝に蹴りを放った。


 直撃。


「―――ぬッ!」


 ランドルフの呻き。

 アルゴは確かな手応えを感じた。


 アルゴの猛攻は止まない。

 アルゴはランドルフの腹や顎を殴り続けた。

 すべて直撃。

 そして、右膝への蹴り。


「ぬおおおおおおッ!」


 ランドルフは雄叫びを上げ突進。

 その突進は、攻撃というよりも、この場から離脱する目的を持っていた。


 ランドルフはアルゴから離れた位置で膝をついてしまう。

 右膝に強烈な痛み。

 頑強さと強靭な精神力でこれまで誤魔化していたが、限界が近付いていた。


 それでも、ランドルフは笑う。


「いいぞ。俺が求めていたものはこれだ。絶対的な危機。圧倒的な強者。しかし、俺はそれを打ち砕く。そうしてみせる!」


 ランドルフは、体の内側で巡る魔力を漲らせた。


「ああああああああああああッ!」


 ランドルフから魔力が溢れだす。

 空気が揺らぎ、空間が歪む。

 周囲に影響を与えるほどの魔力量。


 無双の戦士、ランドルフ・オグエンは、己の全てを懸けようとしていた。


 ランドルフは腰を落とし、右拳を地面にわずかに付けた。

 とある地域で見出された突進の構え。

 己の全てをぶつけ破砕する。圧倒的な突破力。


「征くぞ! アルゴ!」


 ランドルフは地面を蹴り上げた。

 姿勢を低くし、アルゴへ突進。


 この突進は当然躱される。

 そして、右膝の状態からいって、これが最後の攻撃となるだろう。

 だが、ランドルフはそれで構わないと思っていた。

 全力を出して負けたのなら、それで後悔はない。


 しかし、アルゴは動かなかった。

 アルゴは突進を受けるつもりだった。


「面白いぞ、アルゴ!」


 アルゴとランドルフが衝突。

 アルゴは吹き飛んだ。

 数十メートル後方まで地面を転がる。


 ランドルフは勝ち誇らなかった。

 ランドルフは崩れ落ちた。

 脳が激しく揺れている。


 アルゴは、ランドルフの突進に合わせてカウンターを放っていた。

 突進を喰らう直前、アルゴの右拳がランドルフの顎に入った。


「ぬう……」


 ランドルフは、もう立てなかった。

 それに対し、アルゴは立ち上がった。


「ふう……上手く行った」


 ランドルフは、近づいてくるアルゴに向かって言う。


「お前、また俺の突進をいなしたか」


「ええ、まあ」


 アルゴは突進を喰らう直前、カウンターを入れるのとほぼ同時に、身を退いて衝撃を緩和させた。

 理屈は単純だが、ランドルフの全力をいなし、尚且つカウンターを入れることが出来るのは、世界広しといえどもアルゴにしか出来ない芸当なのではないだろうか。

 ランドルフはそんな風に思考をまとめ、静かに言う。


「おそろしき子供よ……」


 ランドルフはそう呟き、続きを言う。


「認めよう、俺の負けだ。お前こそが、真の戦士。完敗だ」


 そう言ったのち、ランドルフは仰向けに倒れ込んだ。

 そして、そのまま寝息を立て始めた。


「え、寝るの……?」


 戸惑うアルゴ。

 ランドルフはいびきをかきはじめた。

 その豪胆さは、大いにアルゴを驚かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ