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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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57.復調

 二回戦当日。


 アルゴは観客席に目を走らせた。


「どこだ……」


 あちこちに視線を巡らせるが、メガラの姿を見つけられない。


「アルゴ、ちゃんと眠れたのかい?」


 チェルシーからそう声を掛けられ、アルゴはチェルシーに顔を向けた。


「実はあまり……」


「やっぱりそうかい。顔色があんまりよくない。いったいどうしたんだい?」


「それは……」


 銅鑼の音が響いた。

 闘いが始まる合図。


 二回戦の相手は人族の男と女だった。

 どちらも若く、強者の風格を纏っていた。


 男と女は同時に動き出し、アルゴへと接近した。

 アルゴを先に潰し、あとでじっくりとチェルシーを攻める。

 そういった作戦だった。


 それならばと、チェルシーは考える。

 アルゴなら一対二でも問題はない。

 ならば、敢えてアルゴから距離を取り、隙を見て相手に接近して攻撃を喰らわす。

 そう考え、チェルシーは後ろに跳んで距離を取った。


 チェルシーの行動を不審に思う男女だったが、作戦通りに事を進めた。

 二人でアルゴを攻撃。


 アルゴは二人の剣を躱し続ける。

 華麗に躱し続けるが、チェルシーは見抜いた。


 アルゴにいつものキレがない。


「ったく、どうしたっていうんだい」


 チェルシーは作戦を変更した。

 このままでは不味い。自分も積極的に闘いに参加せねば。


 チェルシーは男女に接近し剣を振った。

 チェルシーの剣を受けたのは男。

 男はチェルシーに反撃。素早く剣を振る。


「ちっ」


 チェルシーは舌打ちし、眉間に皺を寄せた。

 この男、強い。

 ここまで勝ち上がってくるだけのことはある。


 チェルシーと男は剣をぶつけ合う。

 激しい剣戟だった。


 くそっ、剣じゃなければこんな奴。


 チェルシーは心の内で悪態をついた。

 剣技は相手の方が勝っている。

 だが、愛用の鉤爪ならば確実に勝てる。

 しかし、その鉤爪はここにはない。


 じりじりと男に押され始めるチェルシー。

 頼みの綱のアルゴは、ダメージを負ってはいないが更に動きが鈍くなっているように思う。

 このままでは不味い。


 チェルシーは男の剣を受けながら考える。

 アルゴの不調の原因はなんだ。

 何故急にアルゴは不調となった。

 待て、本当に急にか?

 よく思い出せ。今までのアルゴの様子を。


 チェルシーは神経をすり減らしながら思い出す。


 そういえば本選が始まってからというもの、アルゴはどこか上の空だった。

 時折茫とするところがあるアルゴだったが、闘いの前は顕著だった。

 空を見上げ茫としているアルゴの姿を思い出した。


 チェルシーは気付いた。


 いや、違う。空を見ていたんじゃない。

 観客席だ。観客席を見ていたんだ。

 何故だ? 何故観客席を見ていた?


 決まっている。メガラとリューディアを探していたんだ。


 そう答えを出し、チェルシーは男から距離を取った。

 男がすぐに距離を詰めようとしてくるが、チェルシーは観客席に目を向けた。


 メガラとリューディアが座っているのは、アリーナから最も遠い最上段だろう。

 最上段に絞って捜索を開始。


 長い間、奴隷剣闘士として闘ってきたチェルシーには自然と身についた技があった。

 チェルシーは、観客たちの顔を把握することに長けていた。

 点でもなく、線でもなく、面で観客を把握する。そのようなイメージ。


 チェルシーは面で捜索を続けた。

 男の剣を受けながらも、捜索を続ける。


「お前、死にたいのか?」


 よそ見をするチェルシーに男はそう言い放った。


「そんなわけ―――ないだろう!」


 チェルシーは渾身の力を込め、剣を薙いだ。

 男の剣に衝突し、男を下がらせることに成功。


 その間に、再び観客席に目を向ける。


 どこだ、どこだ、どこだ。


 必死に捜索を続け、そしてついに。


「―――いた!」


 見つけた。


 チェルシーは男を無視し、アルゴの方へと走り出した。

 そして、アルゴの背後からアルゴの腰へと両腕を回し、抱え上げた。


「えっ? チェルシーさん!? なにを!?」


 チェルシーは戸惑うアルゴを無視し、アリーナの端の方へ跳んだ。

 そして、左手でアルゴの顎を掴み、グイッと観客席に向けさせた。


 アルゴの視線の先にはメガラとリューディアの姿があった。

 興奮する観客たちに押しつぶされるように肩をすぼめているメガラとリューディア。


「ハハッ!」


 アルゴが笑い声を上げた。

 そして、手を掲げてブンブンと振った。


 そのアルゴの行動を見たメガラは、小さな体に力を込めた。

 騒ぎ立てる観客たちを押しのけ、大声を響かせた。


「馬鹿者! 闘いに集中するのだ!」


 その声は当然アルゴには届かない。

 しかし、アルゴには何も問題はなかった。


 チェルシーは尋ねる。


「アルゴ、いけるね?」


「はい!」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「馬鹿者! 闘いに集中するのだ!」


 メガラは叫び声を上げた。


 メガラにも分かった。

 アルゴの動きが鈍い。


 なのにアルゴは、こちらに向かって手を振っている。

 不調に油断。あれでは勝てるものも勝てない。


 だが、それはメガラの杞憂だった。


 以降、アルゴの動きが変わった。


 鋭く速いアルゴの剣技。

 アルゴは、いつもの動きを取り戻していた。


 いや、違う。


 いつも通りではない。いつも以上だ。


 アルゴは素早く動き、素早く剣を振った。

 アルゴの剣が相手の右脚を打ち付けた。


 剣を打ち付けられた男は、痛みに顔を歪める。

 激痛に襲われながらも、男は崩れなかった。

 男は一流の闘士。痛みには慣れている。


 男は剣を振り反撃。

 剣はアルゴには当たらない。アルゴの姿が消えた。


 どこにいった!?


 と周囲に目を向けた瞬間、男は顎に衝撃を受けた。


「ぐッ!」


 その後、連続して顔や腹にも衝撃。


「結構しぶといですね」


 とアルゴは小さく言った。

 アルゴは男を殴り続ける。

 だが、男は倒れなかった。


 すごいな。


 アルゴは密かに男へ称賛を送った。


 その時、女の叫び声が聞こえた。


「やめろ!」


 その女は、男の相方だった。

 女はチェルシーと剣を交えていたが、男の危機を感じ、標的をチェルシーからアルゴに切り替えたのだ。


 女は眦を吊り上げアルゴに接近。

 アルゴを間合いに捉え、剣を振った。

 尋常ではない剣の速さ。もはや、アルゴの命を奪うことに躊躇いはない。


 常人には捉えることが不可能な女の剣速。

 しかしアルゴには見えていた。

 アルゴは剣を引き付けて躱し、その後、背後から迫る男の手首を掴んで男を前に突き出した。


 男の後頭部に女の剣が衝突。

 ゴッ、と鈍い音が鳴った直後、男は崩れ落ちた。


 女は怒声を上げた。


「こ、このガキが!」


「すみません。でも、剣をぶつけたのはあなたです」


「このッ!」


 女は剣を振り続けた。

 アルゴはそれを避け続ける。


「大丈夫です。死んではいません。というかそれは困る」


「黙れ!」


 女は怒鳴り声を上げ、必死に剣を振った。

 それでもアルゴには当たらない。

 女は苛立ちを募らせるが、次第に剣の鋭さが落ちていく。

 鋭さを失った剣がアルゴに当たるはずがない。


 チェルシーはその光景を眺め、やれやれと溜息を吐いた。

 そして、声を上げた。


「アルゴ! 決めてしまいな!」


 メガラは、奇しくもチェルシーとほぼ同時に叫んだ


「―――やれ、アルゴ!」


 観客たちを押しのけ、メガラは拳を空に突き上げる。


 アルゴは女の剣を紙一重で躱し、全力で左拳を突き出した。

 顎を貫く勢いで、アルゴの左拳が女の顎に直撃。


 女は吹き飛び、地面を転がった。 

 女は地面に背を付けた。それに、剣が手から離れている。


 誰が見ても、勝者は明らかだった。

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