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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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56.本選開始

 闘技大会予選が終了し、本選に勝ち上がる者たちが出揃った。


 本選に出場するのは、アルゴとチェルシーの組を含めて八組。

 本選はトーナメント方式。

 つまり、三回勝てば優勝となる。


 本日も闘技場は熱気で満ちていた。

 観客たちの高揚と興奮。

 闘技場は予選以上の盛り上がりを見せていた。


「フン、あんなことがあったっていうのに随分と能天気な連中だよ」


 闘技場アリーナにて、チェルシーは観客席を眺めながら毒づいた。

 アルゴはその発言に頷いた。


「ですね。この熱気、むしろ人が死ぬことを望んでいるような……」


「人っていうのは場の空気に流されやすい生き物だからね。この場の異様な空気が、人が死ぬことを是としている。どいつもこいつも理性が薄れ、空気に操られてしまっているんだ。ある意味では、空気の奴隷、といってもいいかもしれないねえ」


「奴隷ですか……」


「笑えるだろう? 闘技場で闘う奴隷と、それを見る奴隷。この場には奴隷しかいないのさ。まったく、本当に馬鹿げているよ」


「いえ、俺は奴隷ではありません。チェルシーさんも」


 チェルシーは、わずかに笑みを浮かべアルゴの背を軽く叩いた。


「悪かったよアルゴ。そうだ、アタシらはもう奴隷じゃない」


「はい」


「じゃあ見せてやろうじゃないか、奴隷の観客たちに。真の闘士の闘いってやつを」


 そう言ってチェルシーは前方に目を向けた。

 前方には対戦相手の闘士二人。


 どちらも男でエルフだった。

 エルフの二人。片方は銀髪。もう片方は金髪。 

 二人とも細身でスラリと伸びた四肢。


 その姿を見てアルゴはリューディアことが頭に浮かんだ。

 闘技大会に参加してからというもの、リューディアと会っていない。


 リューディアさん、どうしているかな?


 たった数日会っていないだけで、随分と懐かしい気持ちになった。


 メガラもどうしているだろう?


 メガラのことも気がかりだった。

 アルゴは観客席に目を向けた。

 メガラとリューディアの姿を探す。


 だが、見つけられなかった。

 大勢の観客の中からメガラとリューディアの姿を探すのは至難の業だ。

 じっくりと時間を掛ければ見つけられるのかもしれないが、その時間はなかった。


 銅鑼の音が響いた。

 闘いの合図だ。


 音が響くと同時に、二人のエルフは動き出した。

 素早い動きでアルゴとチェルシーに接近。

 銀髪はアルゴへと、金髪はチェルシーへと狙いを定めた。


 剣と剣が打ち合う。


 それぞれの剣が、金属音を響かせた。


 金髪の剣を受けながら、チェルシーは声を上げた。


「一対一がお望みかい? いいだろう。―――アルゴ! そっちは任せたよ!」


「分かりました!」


 そう返事し、アルゴは目の前の敵に集中した。


 銀髪のエルフの剣技は流麗。

 流れるような剣技。演舞のように美しい剣技だった。


 アルゴはその剣を受け続けた。

 初めて見た剣技であったが、上手く剣を合わせ続ける。


「その剣技、勉強になります」


 アルゴは右脚を軸にして、腰と剣を回転させた。

 続いて、流れるように下から上。上から下に剣先を走らせる。


 アルゴの剣を受け、銀髪のエルフは顔を歪めた。


「小僧! 下手な猿真似を!」


「猿真似ですか……」


 アルゴは銀髪のエルフの言う事を真に受けた。


 もっと上手く剣を振らなきゃ。


 その思いが、アルゴ剣を更に進化させた。


 アルゴの剣が鋭さを増す。

 鮮やかに華麗な剣技。

 それはすでに、銀髪エルフの剣技とは別物だといえるかもしれない。


「こ、小僧!」


 銀髪のエルフは押されていた。

 焦りと憎悪。

 それとともに、畏怖の感情。


 目の前の少年は、短時間で我が剣技を模倣し、それどころか進化させた。


 世界は広い。世界にはいるのだ、このような理を超えた存在が。


 そう思った時、銀髪のエルフは剣を投げ捨てた。


「……我の負けだ」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 アルゴとチェルシーは初戦に勝利した。


 二回戦が行われるのは明日。

 アルゴは再び牢獄の中に居た。


 アルゴにとってこの牢獄生活はそれほど苦ではなかった。

 多少のことに目を瞑れば、寧ろ快適といえるかもしれない。

 静かで、惰眠を貪っても誰にも文句を言われない。

 食事もしっかり出されるし、しかもそれなりに旨い。


 この牢獄は闘士の待機場であると同時に、休息を取る場だ。

 闘士ならば、闘いの疲れを少しでも癒すため、出来るだけ体を休めるべきなのだ。 

 しかしアルゴは、そんな牢獄の中でそわそわと動き回っていた。


 牢獄の中を歩き回り、一度座ってはすぐに立ち上がる、といった動作を繰り返していた。

 何故こんなにも落ち着かないのか。

 答えを出してしまわないように必死に自制した。


 しかし。


「メガラ……」


 つい言葉が漏れてしまった。


 アルゴが落ち着かない理由は一つ。

 メガラのことだ。

 メガラとは四日間会えていない。


 口にするのは憚られる。男としてどうかと思う。

 恥ずかしさと情けなさに苛まれる。

 だが、認めるしかない。


「メガラに会いたい……」


 アルゴは牢獄の格子を両手で握り、そのまま崩れ落ちた。

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