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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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52.眠る獅子

 アリーナに集結した闘士は約百人。

 今回の大会は二人一組での参加となる。

 つまり約五十組。


 定められた時間までアリーナに立っていた者が本選に出場することができる。

 地面に背中をつけた者、武器を手放した者は、その時点で敗者となる。

 それらを誤魔化すことはできないし、時間まで適当にやり過ごすこともできない。

 アリーナの四隅に配置された兵士たちが、闘士たちの動きに目を光らせている。

 反則行為を行った者や、戦う意志がないと判断された者は、失格が言い渡される。


 ジャーン、ジャーン、と銅鑼の音が響き渡る。


 闘技が開始された合図だ。


 銅鑼の音が鳴り止むと同時に、雄叫びが上がった。

 砂埃が巻き上がり、男たちの怒号が闘技場に響く。


 闘士たちが動き出した。


 観客の歓声と闘士の叫び。


 闘士たちは躊躇わず武器を振る。

 刃を潰した剣。それはつまり鈍器だ。


 殺しは禁忌だが、闘士たちは鈍器を全力で振るった。

 この場に満ちた狂乱の空気。

 その空気が、闘士たちを闘争へと突き動かしている。


「ウオオオオオオオッ!」


 髭顔の巨漢が、鈍器を振り上げアルゴへと迫る。


 アルゴは鈍器をヒラリと躱し、髭顔の顎を蹴り上げた。

 アルゴの足は、正確に髭面の顎先を打ち抜いた。


「ぐごッ……」


 と呻き声を漏らし、髭面は気絶。


「て、てめえ!」


 髭面の男が地面に沈んだのを見て、その相方が怒りの声を上げた。

 頬に傷のある長身の男だ。


 今回の大会は、二人の内どちらかが勝ち残れば本選に進めるルールだ。

 よって髭面の相方は、戦意を落とさない。


 その長身の男は、アルゴへと突進。

 アルゴは何もせず、男が突っ込んでくるのを見ていた。


「させないよ」


 チェルシーが男の横から下段蹴りを放った。

 男は膝を蹴られてバランスを崩した。

 その隙にチェルシーは、剣の柄頭で男の顎を殴りつけた。


「がっ……」


 男は膝から崩れ落ち、地面に沈む。

 これで、髭面と長身の組は失格となった。


「アルゴ! この調子でいくよ!」


「はい!」


 チェルシーは確信した。

 この場に自分たちを凌ぐほどの強者はいない。

 これならいける。


 そう、考えてしまった。


 しかし、チェルシーはすぐに思い知ることになる。

 真に争うべき相手は、闘士たちではなかったのだと。


 真の敵は、アルゴたちが入場した入り口と反対に位置する入り口から現れた。

 重い鉄の扉がゆっくりと開いた。


 車輪付きの巨大な板に乗せられ、それは運ばれてきた。


「な、なんだ……ありゃあ」


 闘士の一人が驚愕し、声を漏らした。


 それは、巨大な獅子だった。

 黄金のたてがみに巨大な体躯。

 体高は約四メートル。尾の先まで入れると、全長は八メートルほどになるだろうか。


 常識外れの巨体。鋭い爪と牙。

 圧倒的な威圧感。人など簡単に殺せるだろう、殺戮の獣。

 人類の大敵。魔物。


 獅子の魔物は眠っていた。

 おそらく何らかの薬で眠らされているのだろう。


 闘士たちは一時闘いを止め、魔物を注視した。

 魔物を運んできた兵士たちは、脱兎の如く出口へと走り出した。

 それを見て、アリーナの四隅に配置された兵士たちは動揺している。

 その様子から、兵士たちも事情を知らないのだと分かる。


「あれは……マンティコアか」


 チェルシーがそう呟き、アルゴが反応した。


「マンティコア?」


「この辺りには生息していない魔物のはずだけどねえ。どこから引っ張ってきたんだか……」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 闘技場特権席にて、セオドアは興奮して声を上げた。


「どうです、クリストハルト殿! あの雄々しい姿! お気に召してもらえましたか!?」


 クリストハルトは小さく拍手した。


「いやはや、素晴らしいですなあ。捕まえるのにさぞ苦労したことでしょう?」


「ええ、多くの兵士が犠牲になりました。ですが、彼らも本望というものです。これは歴史に残りますよ。闘士たちと魔物の戦い。それこそが闘技の醍醐味でしょう!」


「ハハハ。そうかもしれませんなあ」


 クリストハルトは、そう言って酒を呷った。


 面白くなってきたじゃないか。

 うん、この王子、見直したよ。

 まさかあのような魔物を引っ張ってくるとは思いもしなかった。

 期待以上。


 さあて、楽しませてもらうとしようか。

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