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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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52/250

50.開催

 王都バファレタリアには、大きく分けて三つの区画が存在する。

 特権区画、中級市民区画、下級市民区画、である。


 しかし実のところ、四つ目の区画が存在する。

 そこは、人々が生活する区画ではない。

 闘技場が存在する闘技場区画。

 それが四つ目の区画である。


 円型の闘技場は、半径九十メートルと巨大であり、闘士たちが戦うアリーナを囲むように観客席が設置されている。

 太い支柱に支えられた観客席は、階段状に高く聳え建っており、身分により座れる場所が定められている。


 闘技場とその周辺は人々で溢れ、この区画の温度をわずかに上げているようだった。

 闘士たちの熱き戦いに思いを馳せ、人々は興奮気味に浮足立っている。


 観客たちは望んでいる。


 血と、暴力と、闘争を。


 ついに、五年ぶりとなる大規模な闘技大会が始まろうとしていた。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 メガラはリューディアと共に、闘技場区画に訪れた。

 闘技場周辺には、人が密集していた。

 飛び跳ねるように浮かれている者。目を輝かせ、友と勝敗を予想する者。大声で談笑する者。

 様々な様相であったが、共通しているのは狂乱を求めているということ。

 非現実的な催しに心のタガが外れ、自制心は薄れつつある。

 より狂気に、より過激に、闘乱と相剋を渇望する者たちの群衆。

 そう思わせるような空気が、この場には満ちていた。


 そんな空気の中、メガラは飽くまで冷静だった。

 泰然自若。メガラは、どんな時でも空気に流されたりはしない。

 フン、と鼻を鳴らし、浮かれた者たちをねめつけた。


 そのまま足を進め、入場料を支払い観客席まで到着。

 割り当てられた座席は、アリーナから最も遠い最上階。

 一見すると見晴らしのよい特等席のように思うが、アリーナから遠い分、闘士たちが放つ迫力や力感を感じにくい。


 特権階級の者たちに割り当てられるのは、主に最前列。

 闘士たちの戦いを間近で観戦できる最良席だ。

 そして、特権階級の中でも更に特別な者にしか座ることを許されぬ観客席があった。


 他の席とは壁で仕切られた屋根付きの座席。

 それこそが、王族が使用する特権席である。


 現在、特権席は空席だった。


 遠目から特権席を眺めていたメガラは、隣のリューディアに話しかけた。


「確か、あそこに座るのは本大会の主催者で、この国の第三王子……」


「ええ、セオドア・ブルファレースね。彼の名を冠して、本大会はセオドア催と名付けられているわね」


「フン、目立ちたいだけの馬鹿か、はたまた何も考えてない本物の愚者か……」


「しーッ! ちょっと、周りの人たちに聞こえるわよ。彼、それなりに人気があるみたいだから、不用意な発言は慎んだ方が賢明よ」


「ほう、それはそれは。実際に御尊顔を拝するのが楽しみだよ。さて、どれほどのものかな」


 座席にふんぞり返りながら言うメガラの表情は、誰がどう見ても不機嫌であった。


「あら、いつにも増して不機嫌ね、メガラ嬢。何か気に食わないことでもあるの?」


「全てが気に食わんさ。浮かれる観客に、自尊心を抑えきれない王子。それに、実際に戦う命知らずな闘士たちだ。相手を殺害することを禁じられているとはいうが、聞けば、死者はそこそこ出ているというではないか。それはそうだろう。刃を潰しているとは言え、鉄の剣は十分に凶器だ。打ちどころが悪ければ、そういったこともあるのだろう。まったく、どうして余はアルゴがこの大会に出場することを認めたのだ。今考えると、正常な判断ではなかったな。だがしかし、一度吐いた言葉を引っ込めるなどできんではないか。ああ、どうして余は―――」


 喋り続けるメガラ。

 リューディアはこの時点で察した。

 リューディアはメガラの手を握り、朗らかに笑った。


「フフッ、大丈夫よメガラ嬢。アルゴ少年のことなら心配いらない。だって彼は強い。そうでしょ?」


 メガラはリューディアの手を払い、顔をそむけた。


「勝手に人の気持ちを理解したような気になるな。余は心配などしておらぬ。お前の言った通り、アルゴは強い。それは十分に分かっておる」


「ウフフッ、そうね」


「……」


「あら、どうかした?」


「そのにやけ面をしまえ」


「ウフッ、はーい」

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