41.一つの方法
小間物屋ダマンヤート。業務室にて。
メガラはチェルシーを見据えて言う。
「お前たちがルグを脅し取っていたのは、貧しい子供たちのためだと?」
チェルシーは溜息交じりに返事をした。
「そうだ。この都市は無産者に優しくない。だから、アタシらが貧しい子たちを食わせなきゃならない。じゃなきゃ、あの子たちは死んでしまう」
「ふむ。つまりお前たちスラムのゴロツキは、義賊の真似事をしていたわけだな?」
「ハッ、義賊でも盗賊でもなんでもいいさ。とにかくルグが必要なんだ。だから、アタシらは裕福な奴らから少しだけルグを分けてもらう必要がある。これがそんなに悪いことかい?」
どうやらチェルシーたちは、フエルコ以外の者からもルグを脅し取っていたようだ。
「善悪の話がしたいのか? それを語ってやってもよいが、部外者の余が語ったところでお前を不快にさせるだけだと思うがな。それでもよければ語ろうか?」
「……いや、いい」
「ならばやめておこう。だが、言わなければならんことが一つ。チェルシーよ、お前たちの取り立てに苦しんでいる者たちが居る。現にこの店は、経営を圧迫されているようだぞ?」
「だからなんだって言うのさ。子供たちの命と店の経営。どっちを選ぶべきかなんて決まり切っている。違うかい?」
「余はな、お前たちのやり方がよくないと言っているのだ。もっと真っ当に稼ぐ方法はないのか?」
「そんなものがあったら是非とも教えて欲しいね。アタシらには頭を使ってルグを稼ぐなんてことはできやしない。必然的に手段は限られる。傭兵か冒険者か。いずれにしろ危険な割に実入りの少ない仕事さ。アタシとアタシの子分ぐらいなら食っていけるかもしれないけどね、スラムに生きる沢山の子供たちを食わしていくことはできない」
「しかし、いつまでもこんなことは続かんぞ。実際、今まさにお前は危機に瀕している」
メガラはそう言って、背後にいるアルゴとリューディアに視線を移した。
アルゴとリューディアは、メガラの背後に佇み、事の成り行きを見守っている。
メガラは対面に座るチェルシーに視線を戻し、突き放すように言う。
「さあ、どうするのだ?」
「……どうするって、アタシに選択権があるのかい?」
チェルシーは両腕を胸の位置まで持ち上げた。
その両腕は縄で縛られている。
「それも含めてどうするのかと訊いておるのだ。このままでは子供たちは飢えてしまうぞ。さあ考えろ。子供たちの命運は今、お前の肩にのしかかっている」
「くッ、なんてガキだ。そこの茶髪の少年といい、アンタといい、いったい何者なんだ?」
「それは今、必要な情報か?」
「チッ……分かったよ」
チェルシーは目を閉じて必死に頭を働かせた。
何かないのか。この状況を打開する策が何か。
くそっ。そもそもアタシらは上手くやれてたんだ。
裕福な奴らからルグを脅し取ることで、大勢の子供たちに最低限のメシは食わしていけてたんだ。
こいつらがしゃしゃり出てこなけりゃ、何も問題はなかったんだ。
メガラとアルゴ、リューディアと言ったか? 本当に鬱陶しい奴らだよ。
特にアルゴ。悔しいけど、こいつには勝てない。アタシが手も足も出ないなんて、本当に人間か?
人間離れした強さ。化け物。……ん? 待てよ。
一つだけ方法があるじゃないか。
チェルシーは目を開けた。
「一つ思いついたことがある」
「それは?」
チェルシーはアルゴに視線を向けた。
「アルゴ。アンタのその強さ、利用させてくれないかい?」




