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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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40.小さな守護者たち

 アルゴは、チェルシーの隙を突いて拳と蹴りを放つ。

 チェルシーはアルゴの攻撃を躱すが、時間の経過と共に被弾回数が増えていく。


 アルゴの拳がチェルシーの脇腹に沈んだ。


「くッ……」


 顔をしかめ、チェルシーは鉤爪を薙いだ。

 アルゴはそれを後ろに下がって躱し、お返しに中段蹴りを放った。

 アルゴの蹴りがチェルシーの脇腹に直撃。


「くそッ!」


 チェルシーは痛みをこらえ、怒号を上げた。

 それからチェルシーは、少しだけ戦闘スタイルを変えた。

 攻撃に蹴りを織り交ぜ始めた。鉤爪と蹴りのコンビネーションがアルゴに襲い掛かる。


 しかし、アルゴに攻撃が当たることはなかった。

 アルゴはチェルシーの攻撃を躱し、正確に隙を突いて反撃。


 アルゴの蹴りが、またチェルシーの脇腹に入った。


「くッ……同じところを何度も……」


 チェルシーは後ろに跳び退いてアルゴと距離を取ったのち、地面に膝をつけてしまった。

 苦し気な表情で脇腹を押さえるチェルシー。


「降参しますか?」


「くッ、舐めてくれるじゃないか……」


 チェルシーは地面に唾を吐いて立ち上がった。

 背を若干前に曲げ、わずかに左右に揺れる。

 仮面に空いた二つの穴から、チェルシーは標的を見据える。


「アンタが強いのは分かったよ。もしアンタがその気なら、アタシはとっくに死んでるね。だけどね、アタシは死んでない。結局はね、生き残った方が勝者だ!」


 チェルシーは地面を蹴り上げた。

 素早い動きでアルゴへと接近。

 そして、鉤爪を振るった。


 アルゴは無表情で鉤爪を避けた。攻撃を避けるだけならば、もはや見なくてもできる。

 鉤爪が空を裂いた直後、チェルシーは右脚で上段蹴りを放った。

 右脚がアルゴの首へ迫る。


 鋭い蹴りだったが、躱すのは容易だった。

 すでにチェルシーの蹴りが届く範囲は見切っている。

 アルゴは蹴りの範囲から逃れるため、わずかに後ろに下がった。


 その刹那。チェルシーは笑みを浮かべた。

 チェルシーの靴の先から刃が出現。隠されていた刃。刃渡り約十八センチの刃がアルゴの首筋へと振るわれる。


 獲った!

 チェルシーは勝利を確信した。この刃は、間合いを正確に読む相手にこそ通りやすい。

 通常の蹴りを十分に意識させたあと、突然現れる刃。これを躱すのは至難の技。

 一撃必殺。逆転の一手。


 しかし。


「なに!?」


 刃が空を切った。

 アルゴの首を裂くことは出来なかった。

 アルゴは刃の範囲から逃れていた。


 驚愕の表情を浮かべるチェルシーにアルゴは言う。


「やっぱり、何か仕込んでいると思ったんですよね」


「な、なんだって? ど、どうして気付いた?」


「さあ? なんとなくです」


「なんとなく……だって?」


 チェルシーは怒りの形相で怒号を上げた。


「ふざけるな!」


 そう叫び、アルゴへと突撃。

 両手の鉤爪を打ち鳴らし、勢いよく横に払った。 


 しかし、アルゴを捉えることは出来なかった。

 鉤爪が空振り、チェルシーに隙が生まれる。


 その隙を逃さず、アルゴはチェルシーの顔面に蹴りを入れた。


「―――くッ!」


 チェルシーはアルゴの蹴りの衝撃を利用し、転がるように後ろに退避。

 そして体勢を立て直そうとしたところに、再びアルゴの蹴り。


 顔面に蹴りを入れられ、チェルシーは意識が飛びそうになるが、どうにか持ちこたえる。

 脳が揺れて平衡感覚を失うが、アルゴの気配を感じ、鉤爪を薙いだ。


 鉤爪が空を裂き、アルゴの蹴りがチェルシーの顔面に直撃。

 チェルシーは地面を引きずるようにして吹き飛んだ。


 この時点で勝負はついていた。

 チェルシーは、すでにまともに立てる状態ではない。

 対するアルゴは無傷。

 どちらが勝者であるかは、誰の目にも明らかだった。


 しかし、チェルシーの闘志はまだ消えていなかった。

 地面に右の掌を付けて、チェルシーは叫んだ。


「まだだッ!」


 チェルシーはアルゴを睨みつけた。チェルシーの瞳に映るのは、アルゴの姿のみ。

 その時だった。チェルシーの仮面がひび割れ、砕け散った。

 アルゴの蹴りによって、仮面が壊れたのだ。


 チェルシーの顔が露わになった。

 意志の強そうな眼差し。剥き出しの犬歯。

 顔立ちは整っているが、野性的で荒々しい表情が狂暴な肉食獣を思わせる。

 そして、どうしても目に留まる特徴があった。

 顔には傷があった。顔の中心に斜めに入った大きな傷痕。


「その傷、どうしたんですか?」


「はっ、答える義理はないね」


「確かに。余計なことを訊いてすみませんでした」


「……なんだいアンタ。調子が狂うねえ」


「それでどうします? まだ続けますか?」


「当たり前だ。アタシはまだ動けるよ」


「そうですか。じゃあ次で決めます」


 アルゴは地面を蹴り上げて加速。

 チェルシーへと接近。


 チェルシーは実のところ、もう動けなかった。

 だから、アルゴの攻撃が放たれるまでの数秒間で考えなければならない。


 ここから逆転をする方法を。


 どうする。どうすれば勝てる。


 頭をフル回転させるが、逆転の一手は浮かばなかった。

 アルゴはもう目と鼻の先に居る。

 アルゴの蹴りをもう一発喰らえば、意識が飛んでしまうだろう。

 そうなればアタシの負けだ。


「くそがッ!」


 チェルシーが怒鳴り声を上げたその時だった。


「やめて―――!」


 と子供の声が聞こえた。

 アルゴは、ピタッと動きを止めてしまった。


 突然聞こえてきた声は、幼い子供の声だった。

 子供特有の高い周波数。声の感じから言って、メガラと同じぐらいの年頃だろう。


 そして、複数の足音が聞こえた。

 足音と共に、沢山の子供たちがチェルシーに駆け寄る。


 子供たちの年齢は、十歳前後といったところ。

 その子供たちが、アルゴの前に立ち塞がった。


 それはまるで、チェルシーを守るかのようだった。


 一人の少女が声を上げた。


「チェルシーお姉ちゃんをイジメないで!」

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