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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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35.王都

 ミュンシア王国、王都バファレタリア。


 ミュンシア王国で最も大きく、最も栄えている大都市。

 バファレタリアには全てが揃っていた。

 大聖堂や劇場、大図書館、美術館、闘技場など。

 ミュンシア王国中の物資と人が集まる場所であり、国外との交易で発展した都市でもある。


 バファレタリアの南側は海に面しており、大規模な港が築かれている。

 海運が盛んであり、主な輸出物はオリーブオイルと塩。

 オリーブと塩の都。それが王都バファレタリアである。


 バファレタリアには、大きく分けて三つの区画が存在する。

 一つ目は、王家や上級階級の者たちが住まう特権区画。

 王都中心地に位置し、一般市民は立ち入ることが出来ない場所である。


 二つ目は、中級市民区画。

 月に三百ルグの税を納め続ける代わりに、安全で治安の良い場所に住むことを許された者たちの区画。


 そして三つ目は、下級市民区画。

 収める税は月にニ十ルグ。治安が悪く、犯罪率が高い区画である。

 巡回する警備兵は他の区画に比べ極端に少なく、下級市民には自衛の精神が求められている。


 輝かしい栄華の裏に陰あり。

 特権階級の者たちは、下々の者たちの反乱に常に目を光らせている。

 中級市民は下級に落ちぬよう、時には他者を蹴落としてでも必死に現状を維持しようしている。

 下級市民は中級に上がるため、中には悪事に手を染める者もいる始末。


 権謀術数が渦巻く闇の都。バファレタリアは、そういった側面を持つ都であった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 下級市民区画、宿屋兼食事処『アレッテ』。


 一階の食堂にアルゴたちは居た。


 フォークで肉厚のエビを刺しながら、メガラは言った。


「思わぬ足止めをくらってしまったな」


 溜息交じりのその言葉に反応したのは、商人マルリーノ。


「しょうがねえですぜ。この時期は海流が荒れやすいんでさあ」


「それで、いつ船がでるのだ?」


「それはさっきも言った通り、あっしにも分かりやせん。ですが船乗りたちの話によれば、一月後か……二月後ってこともありえやす」


「そんなにか……」


 ぼんやりと呟くメガラに対し、リューディアが諭すように言う。


「メガラ嬢、ちょうどいいじゃない。その間、マルリーノ商人の依頼をこなしましょう」


 マルリーノの依頼。

 それは、マルリーノの兄弟分から、みかじめ料を取り立てるゴロツキ共を成敗することだ。


 アルゴはメガラたちの会話を聞き流しながら、白身魚を口に入れた。

 身は柔らかく、軽く噛んだだけで身がほぐれた。

 ほどよい塩味で、オリーブオイルとの相性が抜群であった。


 勢いのよいアルゴの食べっぷりを見て、リューディアが笑った。


「フフッ、いい食べっぷりね。育ち盛りはそうでなくちゃ」


「へへっ、坊ちゃん。どんどん食ってくだせえ。坊ちゃんには、精を沢山つけてもらわなきゃならねえ」


「はい、ありがとうございます」


 アルゴは、もしゃもしゃと咀嚼しながらそう答えた。

 そのアルゴの様子を見て、メガラは軽く嘆息した。


「まったくお前は、口の周りが汚れておるぞ」


 そう言ってメガラは、服の内側から布の切れ端を取り出し、アルゴの口周りを拭った。


「メ、メガラ……そんなことしなくてもいいよ……」


 アルゴは顔を赤くしながら、弱々しく抗議した。


「だったらちゃんとしろ。今のお前は子供そのもの。騎士らしくあれとは言わんが、せめて大人としての作法を身につけることだ」


「は、はい……」


 しかりつけるメガラと、しゅんとするアルゴ。

 しっかり者の妹が、抜けた兄を窘めるような、そんな様子に見えるかもしれない。

 その様子を見て、リューディアは笑みを浮かべた。


「フフッ。貴方たち微笑ましいわね」


 口元に手を当て上品に笑うリューディアに、メガラは言葉を返した。


「むう。何か馬鹿にされている気がするぞ。あまり余を子供扱いするな」


「悪気はなかったのだけど、気を悪くしたなら謝るわ。ああ、そういえばだけど、結局メガラ嬢って何歳なの? いえ、確か記憶にあるわね。えっと確か、盟主メガラ・エウクレイアが落命した時の年齢は―――」


「待て、それ以上は言うなリューディア。その先を言うならば、余もお前の年齢を明かさねばならん。お前から実年齢を聞いたことはないが、おおよその年齢は予想がつく」


「え、ええ……そうね。私が悪かったわ。これ以上はやめておきましょう」


「賢明だな」


 可憐な少女と美しいエルフは、黙って食事を再開した。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 その商店は、下級市民区画に存在した。

 狭く、薄暗い路地にひっそりと佇んでいる。

 古めかしい建物で、どこか人を寄せ付けない雰囲気があった。

 ひび割れた壁と窓に嵌められた鉄格子が、冷たい牢獄を想起させるからなのかもしれない。


 小間物屋『ダマンヤート』。

 それが、マルリーノの兄弟分が経営する商店であった。


 マルリーノの兄弟分でダマンヤートの店主であるフエルコは、商人というより戦士のような風貌をしていた。

 歳は三十代で、厳めしい顔つきと大柄でがっしりとした体つき。

 短く刈り込んだ青紫の髪。整えられた口ひげ。


 店内にて、フエルコが口を開いた。


「ど、どうも、お初にお目にかかります。フ、フエルコと申します」


 フエルコは、その戦士然とした見た目に反して、不安げな表情で名を名乗った。


 フエルコの背中を叩きながら、マルリーノが威勢のいい声を上げた。


「と、こんな感じでしてね! 見た目はこう厳ついんですが、心の臓は豆粒のように小さいんでさあ!」


「アハハッ」と笑い声を上げ続けるマルリーノを横目に、メガラはフエルコをじっくりと眺めた。


「ふーむ、なるほど。ゴロツキどもに目を付けられるのにも理由があるというわけか。フエルコよ、困っているようだな?」


「は、はい……。困ってます」


 メガラの姿は小さな少女そのもの。

 なのにフエルコは、メガラに対しても萎縮していた。

 豆粒の心臓。その言葉がぴったりと当てはまっている。

 それに輪をかけて、メガラが放つ独特の気迫がフエルコを更に萎縮させていた。


「てなわけなんです、皆様がた。フエルコとは血の繋がりはねえですが、幼少の頃からの友であり、同じ時期に商いを始め、それからというもの苦楽を共にしてきたんです。どうか助けてあげてくだせえ!」


 マルリーノの発言を聞いて、リューディアが朗らかに笑った。


「大丈夫よ。私とアルゴ少年が居れば百人力。大船に乗ったつもりで安心して」


「あ、ありがてえ。ほんとにありがてえ」


 泣きそうな顔でフエルコがそう言った。

 その泣き顔を見て、マルリーノは楽し気に笑った。


「アハハッ! その顔は傑作でえ!」


「お、俺は……嬉しいんだよお。笑うことねえだろう……」


「分かったよ。あっしが悪かったよ。ささ、早速ですが段取りを詰めましょうや」

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