表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/250

34.忘れていたもの

 夜になった。

 平原地帯に馬車を停め、夜を明かす。


 この辺りは魔物の数が少ない。

 比較的安全地帯と言えるが、それでも全員で眠りこけるわけにはいかない。

 アルゴ、メガラ、リューディア、マルリーノの四人は二組となり、数時間ごとに睡眠と見張りを交替することとなった。

 組み合わせは、アルゴとメガラの組、リューディアとマルリーノの組である。


 現在、アルゴとメガラは見張りを行っていた。


 焚火は起こさず、明かりは燭台の上のロウソクの小さな火だけだった。

 静かな夜。夜空には星々が瞬いていた。


 アルゴは、ちらりと隣の様子を窺った。

 隣にはメガラ。小さな体が小さく前後に揺れてた。


「メガラ、眠いの?」


「……ん?」


 メガラは、小さく声を発した。

 そして、目を擦って返答した。


「いいや、そんなことはないぞ」


 そう言いつつも、メガラはとても眠そうだった。

 小さな少女の体では、夜更かしは難しいのだろう。


「俺が起きてるから、寝ててもいいよ」


「いや、その必要はない。一度引き受けた以上は、最後までやり抜かねばな」


 固い意志をみせるメガラ。

 そのメガラの姿勢は、真面目というよりは、意地を張っているようにしか見えなかった。


 メガラがまたウトウトし始めた。

 しばらくそうしていたが、ハッとして声を発した。


「うーむ、こうして何もせずにいると眠気を催すな。アルゴよ、なにか面白い話をするのだ」


「面白い話って言われてもな……」


「何かないのか?」


「うーん」


「まあいい。ならば質問しよう。ちょうど訊きたいことがあったのだ」


「え、なに?」


「お前の姓は何と言うのだ?」


「……俺には、姓はないよ」


「それは奴隷であったころの話であろう? 今は奴隷ではない。お前は姓を取り戻したのだ」


「いいや、俺には姓はないよ」


「何故だ?」


「あの名は俺の両親の名でもあり、俺の家名だ。だけど、もう俺のものじゃない。俺は人を傷つけた。人を殺した。この手は血で汚れている。そんな奴が、あの名を名乗っていいはずがないんだ」


「ふーむ」


 メガラは、顎に手を置い小さく唸った。


「なるほどな。しかし、姓が無ければ困ることもあろう。ゆえに、こういうのはどうだ?」


「ん?」


「お前に我が家名、エウクレイアを名乗ることを許そう。お前は今日からアルゴ・エウクレイアだ。どうだ?」


「え、でも……いいの?」


「いいさ。契約したその時から、お前は我が眷属となった。お前はすでに余の家族だ。寧ろ、収まるところに収まった。そういった感じだな」


「あ、ありがとう……」


 アルゴは礼を述べたあと、ポツリと「アルゴ・エウクレイアか」と呟いた。


 そして、静寂が流れた。


「アルゴよ、何か話を―――」


 メガラは言葉を詰まらせた。

 ロウソクの小さな明かりに照らされて、アルゴの頬がきらりと光っていた。


「泣いているのか……?」


「え、あ、あれ? なんでだろう?」


 何故泣いているのか、アルゴ自身にも分からなかった。


 メガラは小さく息を吐いた。


「アルゴよ、すまなかった」


「え?」


 その瞬間、メガラはアルゴへと両腕を伸ばした。

 そして、自分の胸にアルゴの頭をぐっと引き寄せた。


「お前があまりにも強いものだから忘れておった。お前はまだ、子供だったのだな。そんなお前に、余は酷なことを課してしまったのかもしれん」


 アルゴは、メガラの胸に半ば埋まる形で小さく返答した。


「いや……そんなことはないよ。俺はメガラに助けられた。メガラがいなかったら俺は……」


「そうか……」


 ポツリとメガラがそう言い、また沈黙が訪れた。

 メガラはアルゴから手を放さなかった。

 アルゴはメガラに身を任せた。


「あの……さ」


「なんだ?」


「あー……やっぱりいいや」


「なんだ言ってみろ。気になるではないか」


「あー、うん。じゃあ……」


 躊躇いがちに、小さな声でアルゴは言う。


「頭を……撫でてくれないかな?」


 メガラは優しく笑った。


「まったくお前は……」


 メガラはアルゴの頭に手を乗せて、優しく撫で始めた。


「甘えん坊め」


 アルゴは、熱を感じた。

 それは体の中心から発せられていた。


 眠ってしまわないように、自分に強く言い聞かせなければならなかった。

 心地の良い安心感。大きな充足感。


 忘れていた感覚を取り戻した。

 奴隷に落ちる前、家族と共に過ごしていた時のような、なつかしい感覚だった。

これで一章は終わりです。ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブックマーク、高評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白く、切りの良いところまで一気読みです。 主人公が人の心のないバーサーカーみたいな感じかと思いきや人の心があたたかかった。ほっこり。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ