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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第一章

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33.野営

 アルゴたちは、ミュンシア王国の王都バファレタリアへ向かおうとしていた。

 王都バファレタリアの港から出航する船に乗るためである。

 現在位置は、王都バファレタリアから見て北東の平原地帯。


 日が暮れて、夜になろうとしていた。

 今日は平原地帯で野営し、明日の早朝出立することとなった。

 順調に行けば、明日の夜までには王都バファレタリアに着けるであろう。


 馬車を巨木の近くに停めて、夕食の準備を始めようとするところだった。


 マルリーノが威勢のいい声で言った。


「皆様方は寛いでいてくだせえ! あっしがちゃっちゃと飯の準備をしやすんで!」


「ほう、それは助かる。して、何を作る?」


「へい、メガラ様。兎の肉と野菜を煮込んだスープでございやす」


「ほーう、上手そうだな。頼むぞ、マルリーノよ」


「へへへっ、お任せください」


 マルリーノは、両の手を擦り合わせながらそう答えた。

 従者のように振舞うマルリーノと、君主のような態度のメガラ。

 いつの間にか、主従の関係が出来上がっていた。


「マルリーノ商人、何か手伝わせてちょうだい」


 リューディアが準備を始めようとするマルリーノに声をかけた。


「いえいえ、それには及ばねえです、リューの姉御。お代はたんまり頂いていますんで、これはあっしの仕事なんでさあ」


「でも……」


「いいから、いいから。ささ、休んでてくだせえ」 


「そ、そう?」


「ええ、そうしてくだせえ」


「悪いわね」


 リューディアは少し落ち着かない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。

 マルリーノは、テキパキと準備を進めていく。

 アルゴ、メガラ、リューディアは、おとなしく待つことにした。


 焚火を起こし、鍋に水を入れる。それから鍋に野菜と肉を入れ、香辛料で味付け。

 十分に火が通ったことを確認し、マルリーノが声を上げた。


「さあ、食事にしましょう!」


 マルリーノは椀にスープをよそい、アルゴたちへ手渡した。


「感謝するぞ」


「おいしそうね。ありがとう」


「ありがとうございます」


 各々マルリーノへ礼を述べた。


「ささ、熱いうちにどうぞ」


 マルリーノに促され、アルゴはスープを啜った。


 旨い。


 サン・デ・バルトローラに到着して以降、口に入れる物全てが旨かった。

 これではもう、奴隷に戻ることは不可能だ。


「へへへっ。アルゴ坊ちゃん、気に入って頂けやしたかい?」


「あ、はい。すっごく美味しいです」


「へへっ、そいつは良かった。ささ、どんどん食ってくだせえ」


 満面の笑みでそう言うマルリーノの様子を見て、メガラが口を開いた。


「マルリーノよ、お前は随分と親切な奴だな。その働きぶり、褒めて遣わす。だが、何か裏があるのだろう?」


「な、何を言いますかメガラ様! あっしは真心から、皆様方に奉公させて頂いてるんでさあ!」


「ふん、調子のいい奴だな。まあ……いいだろう。ならば、その気持ちはありがたく頂こう」


「へい、そうしてくだせえ。あー、ですがね……」


「ん?」


「もし叶うなら、一ついいでしょうか?」


「フッ、やはり何かあったか。まあいい。聞くだけ聞こう」 


 マルリーノは、にんまりと笑って手を打ち鳴らした。

 そして、椀を地面に置いてメガラの前で跪いた。


「ありがとうございます! そして、どうかお願いしやす! あっしの代わりに戦ってくだせえ!」


「戦う? どういうことだ?」


「へい、説明しやす。王都バファレタリアにあっしの兄弟分が店を構えているんですが、どうもタチの悪いゴロツキ共に目を付けられてるみたいなんでさあ。そいつらが、みかじめ料を払えだなんだと言ってきやがりましてね、困ってるんでさあ」


「なるほどな。お前は我らに、そのゴロツキ共を懲らしめろと言っているのだな?」


「へい、つまりそういうことでさあ。兄弟分は、みかじめ料を払い続けていやす。このまま払い続けていたら、商いが成り立たなくなっちまいます。ですからどうか……」


 マルリーノは、跪いた状態でそう言った。


 それを聞いてリューディアが口を開いた。


「マルリーノ商人。そういう話なら私たち黎明の剣が力になれたと思うわ。どうして早く言ってくれなかったの?」


「へ、へい。黎明の剣の方々には日ごろお世話になってるんで、余計な迷惑をかけたくなかったんでさあ。それと……」


「それと?」


「そのゴロツキども、どうやら只のゴロツキじゃねえみてえです。以前、傭兵を雇ってゴロツキ共を懲らしめるよう頼んだんですが、その傭兵が返り討ちにされちまいましてねえ……。そうしたらゴロツキ共が逆上して、みかじめ料を吊り上げてきやがりまして。そういうこともあって、武力行使に踏み切れなかったんでさあ」


 それを聞いてメガラが尋ねた。


「しかし、今お前は我らの武力を頼ろうとしている。それは何故だ?」


「それは……」


 マルリーノは、アルゴに視線を向けて続ける。


「それは、アルゴ坊ちゃんが居るからでさあ。聞いておりやすよ。キュクロプスを一人で倒したとか、いかれた獣人の戦士を素手でボコボコにしたとか。その華々しい武勇譚、あっしが求めていた真の強者です!」


「ふむ。話は分かった。お前のその頼み、無下にしたくはないが、しかしな。余の騎士は便利屋ではないのでな。ふむ……」


「メガラ、俺やるよ」


「ほう? いつになくやる気だな。その心は?」


「うん。マルリーノさんには良くしてもらったし、なにか恩返しがしたい。でも、俺には戦うことぐらいしかできない。他に恩返しの方法が思いつかない。だから俺、やるよ」


「アルゴよ、恩返しというが、お前はスープ一杯で命を懸けるというのか?」


「うん。それぐらい美味しいスープだった」


「……呆れた奴め」 


 そう言いながらも、メガラはどこか嬉しそうに笑っていた。


 続いて、リューディアが優しい声音で言う。


「アルゴ少年、君のその姿勢、私は好きよ。君が戦うと言うのなら、私も協力させてもらうわ。それとね、戦うことしかできないと君は言うけれど、それでいいじゃないの。私は君よりもずっと長く生きているけど、私も似たようなものよ。それでもホラ、こうやって堂々と生きてるわ」


 したり顔でリューディアはそう言った。


 メガラは溜息を吐いて言う。


「やれやれ。お前たちがそのつもりなのであれば、余は何も言うまい」


 マルリーノは、まん丸とした大きな眼を見開いて歓喜した。


「で、では!」


「ああ、決まりだ」

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