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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第一章

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31.黎明の剣

 結果から言うと、商人ホアキンは助かった。

 危ういところだったが、秘薬のお陰で命を繋ぎ止めたのである。


 歩き回れるほど快復したホアキンであったが、ホアキン商会の活動は休業中となっている。

 体力が全快していないという理由もあるが、一番の理由は二人の護衛を失ってしまったことにある。

 長らくホアキンを支えてきたダッジとジョナソンは逝ってしまった。

 アルゴたちが平原にてダッジとジョナソンを見つけた時、二人はすでに事切れていた。

 戦友たちの死は、ホアキンに大きな喪失感をもたらした。

 ホアキンが前を向いて歩き出せるようになるには、今しばらく時間を要するだろう。


 サルディバル領内の都市、サン・デ・バルトローラ。

 宿屋サンデルにて。


「大きな痛手になってしまったな……」


 メガラは、小さな麻袋を軽く振りながらそう呟いた。

 麻袋にはルグが入っている。入っているのは銅貨二十枚のみ。


 メガラは、恨めし気な表情で壁に目を向けた。

 壁には薄い板が打ち付けられていた。

 壁の穴を塞ぐための仮補修。元通りに補修されるのはいつになることやら。


 緊急事態だったとはいえ、壁に穴を空けたのはメガラだ。メガラは道理を通した。

 壁の修理費をはじめ、諸々の損害賠償を宿に支払った。

 ゆえに、現在の所持金は銅貨二十枚のみ。


「逃げちゃえばよかったのに」


 と、アルゴがポツリとこぼした。


「アルゴ、ちょっとこい」


 メガラは手招きをしてアルゴを呼ぶ。


「なんで?」


「いいから」


 アルゴはメガラに従った。ベッドに腰かけるメガラの元まで近づいた。


「しゃがむのだ」


 とメガラが言い、アルゴはその通りにした。しゃがんでメガラと目線の高さを合わせる。


 バチン、と音が鳴った。

 メガラのデコピンがアルゴの額に直撃。


「……痛い」


「アルゴよ、下郎に成り下がるな。この世にはな、義というものがある。義とは、正しくあろうとする心。我らが守るべき正道。それを守れぬ者は、人たりえない。人以下の存在。それこそまさに奴隷よ。お前はまた、奴隷になりたいのか?」


 アルゴは、少し考えて返事をした。


「……ごめん」


 アルゴの返事を聞いて、メガラは微笑んだ。


「いい子だ」


 と言って、アルゴの頭をくしゃくしゃと撫でた。


 アルゴは抵抗しなかった。一切抵抗することなく、メガラに髪の毛を乱され続けた。

 どこか懐かしい感覚だった。何故か、胸の奥が温かくなった。


 アルゴがそんな感覚を抱いたその時、コンコン、と扉が叩かれた。


 メガラは手を止めて声を上げた。


「入ってよいぞ!」


 誰だ? とは訊かなかった。まるで、来訪者の正体が分かっているようだった。


 扉が開いた。その者は、扉を開けて部屋に入ってきた。

 黄金の長い髪に、碧い瞳。美しいエルフの女、リューディア・セデルフェルトだった。


 メガラは、リューディアの姿を見て僅かに笑った。 


「そろそろ来る頃だと思っていたよ」


 リューディアは、自らの意思を伝えた。


「二人とも、黎明の剣本部まで御同行を願います」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 黎明の剣本部。団長室。


 団長室に集ったのは五人。

 アルゴ、メガラ、エトガル、リューディア、ベインである。


 団長エトガルは、野太い声で発言をした。


「我らで話し合った結果、我らは結論を出した。それは、君たちを我ら黎明の剣に勧誘しようという結論だ」


 メガラは言葉を返した。


「だろうな。その是非はともかく、話ぐらいは聞いてやろう」


 エトガルは鷹揚に頷いた。


「話が早くて助かる。今から私が話すことは、我らの身を危険に晒す行為と同義だ。それでも話そうと思う。君たちの信頼を得るために」


 エトガルは息を吸い込み、続きを言おうとした。


「待て、先に余の推論を述べてもよいか? 余が思っていることを話そう」


「了解した。答え合わせといこうか」


 メガラはニヤリと笑い、話し始めた。


「余は早い段階で、お前たちが只の傭兵団ではないと気付いていた。お前たちは何か……そうだな、献身的すぎる。キュクロプス退治のこともそうだが、リコル村でのこと、商人ホアキンのこと。どれもが利己的な傭兵団の特性とは乖離している」


 メガラは続きを言う。


「最も不可解に思ったのはリコル村でのことだ。リコル村は、サルディバル領に属しているとはいえ辺境に位置し、領主にとっては資源的な価値はそう高くないはずだ。にも拘わらず、キュクロプス退治と並行して進めるほどに、リコル村の異変解決を急いだ。それは何故か。それは領主にとっては価値が低くても、お前たちにとってはそうではないからだ」


 視線を周囲に走らせ、メガラは続ける。


「では何があるかだ。リコル村には何かがある。だが、余はリコル村を徹底的に調べた。何も無かった。あの村には目ぼしい物は何もなかったのだ。しかし、つい先日のことだ。リューディアはリコル村に秘薬があると言った。そしてそれは実際にあった。余は以前に一度だけ同じ物を見たことがある。あの青い秘薬は、星彩の雫と言って、非情に貴重な品だ。市場に出回ることはまずなく、王家や上級貴族の者たちでさえ、目にしたことがない者が殆どであろう。そのような貴重な品がリコル村にはあったのだ。リコル村のどこにあった? おそらくはリコル村の地下。余は気付くことが出来なかったが、地下への入り口は巧妙に隠されているのだろう」


 メガラ以外の四人は黙って耳を傾けている。

 メガラは喋り続ける。


「そしてそのような貴重な品を商人ホアキンに躊躇いなく使った。何故だ? ホアキンと懇意にしていることは知っているが、それにしてもだ。二度と手に入らぬような品を一介の商人のために使うだろうか? しかし、実際に使われた。ならばホアキンは、特別な存在と考えるべきだ。黎明の剣にとっては、ホアキンの存在は必要不可欠。黎明の剣とホアキンは、余が思う以上に深く結びついていた、ということになる。志を共にする者。同志、と言ってもいいかもしれんな。ホアキンの扱う商品は武器や薬草、毛皮など。ここからはやや強引な予想になってしまうが、おそらくお前たちは、それらの品をホアキンから大量に仕入れていたのだろう。ホアキンからそれらの品の供給がなくなれば困る。だから、ホアキンを是が非でも助ける必要があった」


 そしてメガラは、不敵な笑みを浮かべる。


「フッ。大量の武器や薬草か。まるで戦争の準備でも進めているみたいではないか。多分、それらの武器や薬草をリコル村の地下に隠しているのだろう。だからお前たちは、リコル村を重要視した。キュクロプス退治と並行してリコル村を取り戻そうとするほどにな。フフッ、黎明の剣とはよく言ったものだ。夜を切り裂く黎明の剣。夜とは、世界を暗く覆う巨大な闇。お前たちの言う闇とは何か。それは、この世界を支配せんとするアルテメデス帝国。帝国を打倒し、夜明けをもたらす黎明の剣。つまりお前たち黎明の剣は、アルテメデス帝国に反抗するレジスタンス組織。それがお前たちの正体だ」


 メガラの語りは終わった。

 静寂が数秒流れ、その後パチパチパチと拍手の音が聞こえた。


 ベインが拍手をしていた。

 手を叩くのを止め、ベインは言う。


「御明察だ、お嬢ちゃん。俺たち黎明の剣メンバーは、その多くがアルテメデス帝国に恨みを持つ者たちさ。俺も、団長も……リューディアは少し違うが、とにかくそういうわけだ」


 続いてエトガルが言う。


「では話を戻そうか。我々は水面下で同志を募っている。今や我々の組織は、非戦闘員も含めればそれなりの数になる。それでもまだ、到底アルテメデス帝国には敵わないだろう。我らは求めている。力を持つ同志を。だから、君たちの力が欲しい。我らに力を貸してくれないだろうか?」


 アルゴは、何も言わずメガラに目を向けた。


 メガラは口を開いた。


「断る」


 にべもなく、メガラはそう答えた。 


 リューディアが尋ねる。


「どうしても?」


「どうしてもだ」


 ベインは追いすがる。


「お嬢ちゃん、考え直しちゃくれねえか?」


 メガラは頭を横に振った。

 明確な拒絶の意思。


 この場がしんと静まり返った時、メガラは言った。


「お前たち、そうしょぼくれぬな。お前たちに協力することはできん。余には余の目的があるからな。だが、その目的は、結果的にはお前たちの意に沿う形となるかもしれん」


「お嬢ちゃん、そいつはどういうことだい?」


「うむ。余も話そう。余の正体とその目的を。余は真実を話すが、信じるか否かはお前たち次第だ」


 そう言って、メガラは話し出した。

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