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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第七章

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240.輝くものたち

 魔人歴二年。


 エウクレイア家の館。庭園にて。


 その日、祝宴が開かれていた。


「麗しの盟主様。再誕を心よりお喜び申し上げます」


 そう言って恭しく頭を下げたのは、イオニア連邦議会義長イヴェッタ・ラヴル。


「うむ。遠方よりよく来てくれた。余こそ感謝するぞ、イヴェッタ」


「ありがたきお言葉」


 庭園で開かれた祝宴に集ったのは、各国の首脳や幹部たち。

 ルタレントゥム、イオニア、アスガルズ、パルテネイアなど、様々な国と地域の者がここに集っている。


 この場で開かれているのは、ルタレントゥム魔族連合盟主メガラ・エウクレイアの再誕を祝しての催し。


 メガラは各国の首脳部から祝辞を述べられていた。


「盟主様! そのお姿もお美しい!」


 と大袈裟なリアクションを取ったのはイオニア連邦南方総督ディーガ・アンカート。


「まさしく貴殿は、ルタレントゥムの国宝石ですな。これからも我がアスガルズと善き関係をお願いしたい」

 

 アスガルズ国王カストゥール・アスガルズは、そう言って敬意を示した。


「様変わりされましたね、盟主様。以前は可愛らしい感じでしたけど、そのお姿も素敵ですわ」

 

 そう言って笑みを浮かべたのは、パルテイネイア聖国聖女シエル・カルノー。


 この祝宴の主役なのだから当然なのだが、メガラは次から次へと話しかけられて息をつく暇がなかった。

 ようやく一息入れられたのは、数時間後のこと。


 現在は昼間。


 メガラは庭園の隅に設置された木製の長椅子に座り、少し休むことにした。


 この身は土で造られた体だが、その機能は生前の体と比べてほとんど遜色がない。

 代謝機能を有し、食事や睡眠を必要とする。

 五感はあるし、痛みや疲労も感じる。


 せっかくなら、それらの余計な機能や感覚を排除すればよかったのに。

 と言う者はいるのかもしれない。


 だが、この体で良かったと心から思っている。

 この機能や感覚は、ちゃんと生きているという証拠。

 この世界に生きる者たちと同じ場所に立っている。

 それを裏付けるもの。それはきっと、大事なものであるはず。


「お疲れ様、メガラ」


 そう言って声を掛けて来たのは、盟主の騎士アルゴだ。


「疲れてはないさ、と言いたいところだが……強がってもしかたがないな。そうだな、流石に少々疲れた。よい疲れ……というやつだがな」


「肩でも揉むよ」


「それはありがたい」


 アルゴは後ろに回ってメガラの方を揉み始めた。


「うーむ。いい按配だ」


「ハハハッ。それはよかった」


 そんな二人の元に、近付く人影あり。


 それは水色の髪の美しい少女。

 レイネシア・リンドロードだった。


 レイネシアは給仕の恰好をして現れた。

 両手でトレーを持っておりグラスが二つ乗っていた。


 レイネシアは言う。


「盟主様、騎士様。お飲み物をお持ちしました」


 レイネシアもカーミラと同様にこの館で雇われることとなった。

 レイネシアは侍女として雇われている。


「すまぬな、レイネシア」


 そう言ってメガラはグラスを受け取った。


「騎士様もどうぞ」


「あ、うん……ありがとう」


 躊躇いがちにグラスを受け取るアルゴを見て、レイネシアは言う。


「あの……騎士様」


「うん? どうしたの?」


「あの……その……」


「レイネシアよ、気にせず言うてみよ」


「はい、盟主様。あの……騎士様。わたしの勘違いでしょうか? 騎士様がわたしのことを避けているような気がして……その」


「そ、そんなことは!」


 とアルゴは慌てて弁明しようとするが、思い直して言葉を探す。


「ごめん。その通りだ……」


「な、何故でしょうか? わたしは、騎士様のことをずっと見ていました。この目でずっと……。だから……寂しいです……」


「ち、違うんだレイネシア。君のことを避けていたのは、どうしていいのか分からなかったから……なんだ」


 小さく首を傾げるレイネシアにアルゴは続ける。


「俺はずっと、君と……メガラと一緒に過ごしきた。だから君を見てると、今までメガラに対して思っていた感情とか、そういうのが湧き上がってくるというか……。もう君はメガラじゃなくレイネシアなんだから、それじゃあ駄目だなって思うんだ。そういうことを考えていたら、どう接していいのか分からなくなってしまって……結果的に君を避けることになってしまった。だから……ごめん」


「そう……だったのですね」


「うん……」


「教えて頂いてありがとうございます。でも、わたしは一向に構いません」


「構いませんって、どういこと……?」


「盟主様に対して感じていたものを、わたしにぶつけて頂いて構いません」


「い、いやそれは……」


「わたしは盟主様と繋がっていました。ですからわたしは、騎士様のことを他人だとは思えません。いえ、もうこの際ですからはっきりと言います」


 息を吸い込み、レイネシアは言う。


「好きです。騎士様」


 その告白を聞いて、アルゴは口を開けて呆然としてしまった。


「ハハハハッ! レイネシアよ、お前はなかなかに豪胆だな! よいよい。若者はそれでよい!」


「ありがとうございます、盟主様。以前までのわたしだったのなら、こんなことは絶対に言えなかったと思います。でも、わたしはもうあの頃の弱いわたしではありません。わたしは、盟主様からたくさんの勇気を頂きましたから」


「うむ。よくぞ申した! さあアルゴよ、次はお前が答える番だぞ! 返答や如何に!」


「お、俺は……」


 アルゴは一度言葉を止めて、拳を握りしめた。

 それから深呼吸して心を決めた。


「俺は―――」


 その時だった、その発言を遮るように大声が聞こえた。


「ちょっと待つニャ―――!」


 そう叫びながら現れたのは、頭部から耳の生えた獣人、クロエ・ジュノー。


「クロエさん!?」


「なんだが、甘酸っぱい空気に誘われてさっそうと登場ニャ! えーとレイちゃん! 堂々と気持ちを伝えられて偉いニャ!」


「い、いえ……そんな……」


「でもクロエは負けないニャ! アルくん! クロエもアルくんのことが好きだニャ!」


「ハハッ! クロエよ! 場を掻き乱してくれるではないか! だが面白い。アルゴよ、お前はどちらを選ぶ!」


「って、楽しんでるよね? メガラ」


「当然だ!」


「おい」


 そんな風に会話した直後、また近付く人影あり。


「その話、私も参加させて頂きたいです」


 凛とした仕草で現れたのは、リリアナ・ラヴィチェスカ。


「アルゴさん、以前伝えた通りです。私は貴方のことが好きです」


 それを聞いてメガラは声を張り上げた。


「我が騎士はモテるようだ! うむ、余は主として鼻が高いぞ!」


 レイネシア、クロエ、リリアナの三人は、それぞれ心の底にあるものを伝える。


「騎士様、わたしを選んでください!」


「アルくん! アルくんのことを一番幸せにできるのは、このクロエだニャ!」


「アルゴさん! 私はもう貴方が居ないと駄目なようです! ですからどうか!」


 突然訪れた人生最大の難局。


 この選択が今後の人生を大きく左右する。


 アルゴは悩み、悩み抜い末に答えを出した。


 上空よりその様子を一羽のフクロウが見ていた。


「ホホホッ。やはり、人類とは趣深い生き物ですな。変化するから面白い。苦しみがあるから支え合い、死が訪れるから輝こうとする。吾輩はそれを尊いと感じます。そう思うでしょう? ―――ベリアル」

これで本作は完結となります。

ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。


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