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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第七章

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239.少女の目覚め

 目を開けた時、母の顔が見えた。

 綺麗でいて儚げで、優しい顔だった。


「―――レイネシア!?」


 母は驚いた様子で声を上げた。

 そんな母を安心させようと、わたしは母へ手を伸ばした。


「お母さ……」


 あれ? うまく声が出せない。

 思うように腕が動かない。


「ああ……神様。よかった、貴方が無事で……本当に、よかった……」


 そう言って涙を流す母。

 わたしはもう一度手を伸ばそうと挑戦するが、やはりうまく動かなかった。


「大丈夫。大丈夫よ、レイネシア。あなたはずっと眠りっぱなしだったの。今は体力が落ちてるだけ。そのうち動けるようになるわ」


「そうなん……だ」


「ええ、ええ……だから安心して」


 母はそう言ってわたしの手を握った。

 わたしは、わずかに笑って周囲を見回す。


 わたしは今、ベッドで横になっている。

 そしてここは、清掃が行き届いた個室だった。


 ここが何処なのかは分かっている。

 自分の置かれた状況も、なんとなくだが理解している。


「レイネシア、お水よ。飲める?」


 わたしがそれに頷くと、母は水が入った器をわたしの口元に近付けた。

 わたしは少しだけ状態を起こして水を飲む。

 美味しい。水ってこんなに美味しかったんだ。


「そうだ……盟主様に報告しないといけないわね。レイネシア、少し外すけどすぐに戻ってくるわね」


 わたしは頷く。

 母は笑みを浮かべて立ち上がり、部屋から退出した。

 一人になり、私はベッドの上でぼうっと天井を見つめる。


 ここはエウクレイア家の館だ。

 何故わかるのかと問われれば、見ていたからと答えるだろう。


 わたしは見ていたのだ。

 盟主様と盟主の騎士の旅と冒険を。

 他ならぬこの目で見ていた。


 でもそれはどこかぼんやりとしていて、現実の出来事ではないような気がしていた。

 まるで夢を見ているかのような感覚だった。


「夢……じゃ……なかったんだ」


 そう呟いた時、この部屋の扉が開いた。


 扉を開けて部屋に入ってきたのは、綺麗な女の人だった。

 艶やかな黒い髪に、透き通るような白い肌。

 頭からツノが生えた魔族の女性。


「盟主……さま……」


「喋らなくてよい、レイネシア」


「すみませ……」


 盟主様は首を振って、困ったような顔をした。


「謝るのは余の方だ。今まですまなかった。そして、ありがとう。余が此処にあるのは、お前が体を貸してくれたからだ。といっても、お前には何のことだかわからぬだろうが……」


「わかり……ます。見ていました……から」


「なんだと? それは……まことか……?」


「はい……」


「なんということだ。であれば、余はことさら詫びなければならん。余の行動は、お前の意思に背くものばかりだっただろう。さぞかし辛い思いをしただろう。すまない……本当に……すまなかった」


「いいえ、そんなこ……」


「すまないレイネシア、喋らせてしまったな。それ以上はもうよい。余は一目お前の様子を見に来ただけなのだ。あとは母とゆっくりしていろ」


 盟主様は、そう言って母に視線を向けた。


 それでもわたしは、口を動かした。


「い、言わせて……ください。わたしは、盟主様を恨んでない……です」


 驚く盟主様に対し、わたしは続ける。


「わたしは……怖かったのです。奴隷になって……この先どうなるんだろうって……。だから……祈りました。助けて……くださいって。その祈りが……届いたんだと……思います」


 わたしは必至に声を絞りだした。

 ちゃんと伝えたいことだったから。


「盟主様が……わたしを助けてくださいました。あのまま、わたしがわたしだったのなら……わたしは何もできずに震えているだけ……でした。ですから、わたしは盟主様に感謝を……しています。盟主様、わたしを……ここまで導いてくださって……ありがとうございます」


 ポタポタと水滴が床に落ちていた。

 それは、盟主様が流された涙だった。


「レイネシア、余こそお前に感謝する。我が旅は確かに、辛く険しいものであったが、同時に得難いものが得られた旅でもあった。あの旅があったからこそ、今の余があるのだ。だから余は敢えて、あの旅のことをこう評しよう。楽しかった。お前との旅は、まことに楽しいものだった」


 それを聞いてわたしは嬉しく思った。

 自然と口元が緩んだ。


 それと同時に、強い眠気に襲われる。

 緊張と安堵。その間に揺られて、抵抗し難い睡魔が迫ってくる。


 そんなわたしに、優しい声が掛けられた。


「眠りなさい、レイネシア。大丈夫。貴方には時間がある。これからは、楽しいことがたくさん待ってるわ。だから今は、お休み―――」


「うん……」


 そう返事した途端、瞼が落ちるのを感じ、わたしはまた眠りについた。

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