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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第七章

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236.人形の主

 エウクレイア家の館地下。


 地下に大部屋が存在した。物は無く、石の壁に囲まれた空間。

 ここは、非常時の避難場所として造られた場所だ。


 この大部屋に館の者たちが集まっていた。

 館の者たちの視線は、大部屋の中央に集まっている。


 中央の床には魔方陣が描かれていた。

 動物の血で描かれた魔方陣だ。


 描かれた魔方陣は二つ。横に並ぶ形で床に描かれている。


 左側の魔方陣の上に横たわっている者が居る。

 この館の主、メガラ・エウクレイアだ。


 右側の魔方陣の上にも横たわっている者が居る

 いや、正確には横わたっている物がある。

 それは人ではなく、土で造られた人形。

 神ロノヴェが作成した精巧な土人形である。


 その土人形は、美しい女の姿をしていた。

 艶やかな黒い髪。白い肌。

 人形であるがゆえ、当然息はしていない。

 だが、今にも動き出しそうなほど見事な造りをしていた。


 パタパタと羽の音をさせ、ロノヴェはメガラの傍に着地した。


「さて準備は整いました。よろしいですかな? レディ・メガラ」


 床で仰向けになったままメガラは答える。


「ああ、やってくれ」


 そう言って、視線を大部屋の隅に向けた。

 そこにはアルゴが居て、心配そうな表情を浮かべている。


 メガラはアルゴに顔を向けて、わずかに笑う。


 案ずるなアルゴ。成功するさ。


「では―――始めますぞ」


 ロノヴェの体が薄く輝き始めた。

 その後、二つの魔方陣も光を放ち始める。


 魂の入れ替えの儀式がついに始まった。


 館の者たちが固唾を呑んで見守る中、二つの魔方陣は輝き続ける。


 音のない空間で輝き続ける魔方陣は、約五分後に輝きを失った。


 それを見て館の者たちに動揺が走るが、ロノヴェは落ち着いた声音で言う。


「皆様、どうか落ち着いて頂きたい。大丈夫です。儀式は成功です」


「おおッ!」


 と声が上がり、顔を綻ばす館の者たち。


 そして次の瞬間、館の者たちは口を閉じた。


 人形が動き出したのだ。


 人形はゆっくりと立ち上がり、驚いたようで己の手足を見ていた。


「調子は如何ですかな? レディ・メガラ」


 そう問われ、人形は答えた。


「……これは驚いた。何も違和感がない。まるで、かつての自分の体のようだ」


「ホホホッ。当然ですな。吾輩が全力を注ぎこんだ特注の体ですぞ。その体は貴方の全盛期時を凌ぐ性能であり、人形であるがゆえに歳を取ることもない。吾輩の働きにもっと感謝して欲しいですな」


「あ、ああ……そうだな。お前には十分な褒美を取らせる、ロノヴェ」


「ありがたき幸せ」


「ほ、本当に……メガラなの?」


 アルゴはそう言って前に出た。


「ああ……間違いなく余だ」


 アルゴはメガラに見つめられた。


「き、きれいだ……」


 黒髪の美しい女に見つめられ、アルゴは動揺を隠せなかった。


 メガラは得意気に笑う。


「ふふん。そうだろう? これは余の若いころの姿だ。若いころはルタレントゥムの黒宝石と呼ばれたもよ。見惚れたか? アルゴよ」


「……ははっ。本当だ、ちゃんとメガラだ」


「うん? それはどういう意味だ?」


「はははっ」


「フフッ」


 二人は抱きしめ合った。

 絆を確かめるように。

 たとえ体が変わっても、これまで築き上げたものは何一つ変わっていない。

 それを確かめ合った。


 パチパチパチと拍手が鳴る。


「おめでとうございます! 盟主様!」


「盟主様、めっちゃ美人っす!」


「ワ、ワタクシは……大変うれしく……」


「今日はめでたい日だ! 酒だ! 今日は酒を飲むぞ!」


 と館の者たちは口々に言う。


「お前たち、感謝する! そしてこれからもよろしく頼む!」


 そのメガラの言葉に、館の者たちは再び拍手で応じた。


 そんな中、神妙な表情を浮かべている者が一人居た。

 カーミラ・リンドロードだ。


 カーミラは床で寝ているレイネシアを見つめていた。


 魂の入れ替えは成功した。

 レイネシアの体からメガラの魂は離れ、体はレイネシアへと返された。

 だが、レイネシアに起き上がる様子はない。


「安心なさいませ、レディ・カーミラ。儀式は成功しました。じきに目を覚ましますよ」


 ロノヴェの言葉を聞いて、カーミラは応じる。


「はい……」


 そう返事しながらも不安を滲ませるカーミラに、メガラは言う。


「ここよりも上の方がよかろう。すぐにベッドへ運ばせよう。カーミラよ、レイネシアが目を覚ますまで傍で見守っているとよい」


「はい。深く感謝します、盟主様」


「余こそ感謝だ。お前たち親子には、返しきれない恩がある。今一度、お前たち親子に感謝を。本当に、ありがとう」


 メガラは感謝を述べたのち、館の者たちへ指示を出した。

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