235.残り寿命
ついに最奥に辿り着いた。
最奥もまた四角形の広間となっていた。
だが地面は石ではなく土だった。
「この土です。これが創始の土ですぞ」
「ふーむ。特別特徴のない土と言うか……余にはただの土に見えるな」
「いえいえいえ。これは魔力を多く含んだ特別な土。これなら、問題なくレディ・メガラの器を造れそうですぞ」
「そうか……ならいい。ロノヴェ、よろしく頼む」
「はい、承りました」
土を見つめながらリューディアは言う。
「いまさらだけど、訊いていいかしら? ロノヴェ老」
「いいですぞ、レディ・リューディア」
「その土で造られた体は……どれぐらいもつのかしら?」
「土の体の耐久年数のことですな。つまり、レディ・メガラの寿命を知りたいと?」
リューディアはメガラに視線を向けた。
メガラは口を開いた。
「それは余も知りたいと思っていたことだ。だがその前に待て。前提条件として、魂の入れ替えは一度しかできないのだったな?」
「そうです。魂にも耐久度というものがありましてな。魂の入れ替えは魂に負荷が掛かる。普通は一度が限界でしょう。それをレディ・メガラは既に一度なされている。ですので、次が最後となるでしょうな」
それを聞いてアルゴは尋ねる。
「それを……もう一度やって大丈夫なの? 考えたくないけど、もう一度魂が負荷に耐えきれるとは限らないんじゃ……」
「その点ならば問題ありません。レディ・メガラは魂の強度が尋常ではない。ですから、次も耐えられます。それは保証しますよ」
「そっか……」
アルゴの肩に手を置いて、メガラは言う。
「聞かせてくれ、ロノヴェ。余はどれぐらい生きられる?」
「申し訳ありません、レディ・メガラ。最初にそれを伝えるべきでした。吾輩、好奇心に突き動かされてそれを伝え忘れておりました。そうですな……適合性や環境にも左右されるゆえ断言はできませんが……長くて八年……いや、五年といったところでしょうか」
「五年……」
それを聞いてアルゴは声を上げる。
「ま、待ってくれ! それは短すぎる! もう少し何とか……何とかならないの!?」
「申し訳ありません。本来の吾輩ならともかく、この身でそれ以上は……」
「諦めないでくれ! 俺にできることならなんでもするから!」
「アルゴ、よいのだ」
メガラは首を振って続ける。
「余はあの戦で一度死んだ身。本来、余がこうして生きてること自体が奇跡なのだ。だというのに、レイネシアに体を返した上で、あと五年も生きられると言う。これ以上を望むのなら、それは傲慢というものだろう」
「……」
「そんな顔をするな。逆に考えろ。あと五年もあるのだぞ? 余とお前が旅をした時間はもっと短かったはずだ。それなのに世界はあの時と大きく変わった。その短い時間で……余とお前で、世界を変えたのだ。であれば、五年はむしろ長すぎるぐらだと思わないか?」
「そう……なのかな……」
「そうだ。だから顔を上げろ。前を向け。お前はこれからも進み続けろ」
「……うん。分かった」
「いい子だ」
お互いを思い合う二人の様子に、ロノヴェは別の姿を垣間見る。
それは、金髪の皇帝と銀髪の美女の姿だった。
その姿が幻影のようにだぶって見えた。そして、次の瞬間には消えた。
「諦めるのは……まだ早い……」
独り言がロノヴェの口から漏れ、それにアルゴが反応した。
「ロノヴェ? どうかしたの?」
「サー・アルゴ、そしてレディ・メガラ。まだ諦めるのは早いかもしれません」
「え? それはつまり……なにか手があるってこと?」
「吾輩一人でなんとかしようするから無理なのです。ですが、この世界には居るではありませんか。神代を生きた凄腕の術者たちが」
ロノヴェはそう言って、フクロウの瞳をメガラに向けた。




