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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第七章

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231.魂の移植

 アルゴの自室。


「驚いた、これが……神の成れの果てか」


 メガラはそう言って、指先でツンツンとフクロウを突いた。


 机の上に乗るフクロウは、くすぐったそうに目を細めた。


「ホホッ。おやめください、レディ・メガラ。それに、成れの果てとは失礼な。吾輩、これでもれっきとした神ですぞ。最低限の敬意は払って頂きたいものですな」


 メガラはそれを無視してツンツンと突く。


「く、くすぐったいですぞ!」


 今この部屋にはアルゴとメガラ、それからフクロウ―――もといロノヴェのみ。

 卵から孵った存在が神ロノヴェだと知り、アルゴはメガラにこのことを知らせた。

 メガラはまだ半信半疑といった様子。

 メガラはその正体を見定めるように、フクロウのことを注意深く観察している。


「神ロノヴェ……か。それでロノヴェ、お前はこの世界を何とする? 望むものは何だ? 混乱か、破滅か、それともルキフェルと同じく支配を望むか?」


「いえいえいえいえ。まさかまさか。吾輩は平和かつ博愛の主義者。そのような考えは吾輩にはありませんぞ」


「では、何を望む?」


「そう構えなくてもいいではありませんか。吾輩は何も望みません。ただあるがままにある。それだけですぞ。敢えてあるとすれば、当面は貴方様らのお傍に置いて頂けると幸いですぞ」 


「余らの傍に? 何故だ?」


「雛鳥は初めて見た存在を親と思うもの。吾輩はこの通り、生まれたばかりの雛。であれば、親の傍に居たいと思うのは、それほど不思議ではないと思いますが?」


 それを聞いてアルゴが口を開いた。


「雛には見えないけど」


「吾輩も見えませんな。吾輩の目の前に居る子供らが、この国で大きな力を持った存在だとはね」


「……いい返しをするね」


「それほどでも」


「どうする? メガラ?」


「まあ、しかたなかろう。どの道こいつを野に放つわけにはいかん。傍に置いて監視する必要があろう」


「まあ、そうか」


「ありがたきありがたき。吾輩、餌も世話も不要ですゆえ、お手を煩わせることは殆どないかと思いますぞ」


 この時、メガラはあることを思いついた。

 それを神に訊いてみることにした。


「ロノヴェ、お前が知恵の神だというのなら、余にそれを授けろ。余のこの体は、他者から借り受けているものだ。借りたものは返さなければならない。この体を元の持ち主に返す方法を……知っているか?」


 ロノヴェはガラス玉のような目でメガラを見据え、やがて問いに答えた。


「知っておりますよ」


「それを……教えてくれ」


「いま貴方様は、貴方様の魂がレディ・レイネシアの魂に上書きされてしまっている状態。貴方様の魂を引き剥がせば、レディ・レイネシアの魂は再び浮上し、心と体が揃った状態となるでしょう。そして、その魂を引き剥がす方法ですが、吾輩ならばそれが可能です」


「魂の引き剥がし……神の御業でそれが可能だと?」


「左様。吾輩は生まれたばかりの雛鳥ですが、貴方様一人ぐらいならば可能だと思いますぞ」


 それを聞いてアルゴは声を上げた。


「ま、待ってくれ!」


「どうされました?」


「その魂の引き剥がしをすれば……メガラはどうなる?」


「剝がされた魂は行き場を失くし、いずれ天に還るでしょう」


「それはつまり……」


「レディ・メガラはこの世から消える、ということでありますな」


「そんな……そんなのは……嫌だ」


「アルゴ……」


 メガラはアルゴの背中に手を添えて優しい口調で言う。


「きっと、こうなる運命だったのだ。余はこの体で大願を果たした。アルテメデス帝国を討ち取るという大願をな。それが果たされた今、いつまでもこの体を借りているわけにはいかん。余は感謝しているのだ。体を貸してくれたレイネシアに……余をここまで支えてくれたお前に……」


「でも……俺は……」


「アルゴ、後のことはお前に託したい。余に代わり、この世界を善い方向へ導くのだ。大丈夫だ。お前にはもう多くの仲間がいる。この館の者たちや黎明の剣の者たち……大連合軍の者たちも。その者たちがお前を助けてくれるはずだ」


 アルゴとメガラは見つめ合った。

 相手を思う気持ち。二人の間にあるのは強い絆だった。


「ホーホー。美しい……美しいですぞ。吾輩、大きく心を揺さぶられました。感激です。感涙です。そんな吾輩から、一つ提案があるのですが聞きますかな?」


 それにアルゴが答える。


「聞かせて欲しい」


「先ほど魂の引き剥がしと言いましたが、吾輩、魂を植え付けることもできますぞ。引き剥がしと植え付け、つまり魂の移植ですな」


「それは……余の魂を他者に移植すればいいと、そう言っているのか?」


「他者というよりは、他の容れ物にですな。他者の体に魂を移植した場合、魂の上書きが発生します。それでは結局、いまのレディ・メガラと同じこと。ですからそうではなく、吾輩は人形に魂を移植することを提案いたします」


「人形に? どういうことだ?」


「そのままの意味ですよ。人の形を取った容れ物に魂を移植する。そうすれば、誰の犠牲も必要としません」


「そんなことが……可能なのか?」


「吾輩なら可能です。ただし、特別な人形でなくてはなりません。人形でありながら、人の機能を持った特別な人形でなくてはなね。そうでなければ、容れ物と魂の整合がとれず、まあ……悲惨なことになるでしょうな」


「その人形はどうすれば手に入る?」


「それは吾輩で造りましょう。それも神である吾輩にしかできないことですから」


 それを聞いてアルゴは顔を綻ばせた。


「良かった……本当に……良かった。メガラ、ロノヴェに任せよう」


「ああ、余も消えたいわけではない。人形の体というのは少し抵抗はある。が、そのような方法があるのなら頼みたい」


「承知いたしました」


「ありがとうロノヴェ」


「いえいえ、貴方様には大きな恩がありますからな、これぐらいのことは。あー、ただし、一つ問題が」


「問題?」


「人形のことですが、特別な材料が必要でしてな。その材料を集める必要があるのです」


「それはどこに?」


「ルタレントゥムから北上した先、海に面した小さな国、エンブロティア公国。その国のダンジョンにそれはあります」


「ダンジョン……」


 そう呟きながらアルゴは拳を握りしめた。

 この時点でもうやることは決めている。


 ダンジョン攻略を決行する。


 ダンジョンとは何かと縁がある。

 だが、これが最後のダンジョン攻略になるだろう。

 何故だか、そんな気がした。

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