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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第一章

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24.白狼と将軍

 ミュンシア王国王都、バファレタリアから北東方向。

 背の低い草木が広がる草原地帯に、その砦は存在した。


 アルテメデス帝国直轄、東部領軍事防衛拠点。

 通称ヴィラレス砦。


 周囲を高い城壁で囲まれたその砦は、砦というよりは小さな都市と言った方がいいのかもしれない。

 城壁内には家々が建ち並び、水路が走っている。

 城壁内中央部には、一際巨大で頑強な建物が存在する。

 その建物こそがこの砦の司令部であり、核となる場所であった。


 司令部内にて、一人の男が早足に通路を進んでいた。

 その者の頭部は獣であり、一目で獣人であることが見て取れる。

 白い毛並みの狼の頭部に、白い毛皮で覆われた体。

 歳は若い。固く結ばれた口元と強い意志を宿した眼差し。

 固い表情から、実直な性格であることが窺える。


 その獣人は、扉の前で足を止めた。

 それから身だしなみを軽く整え、扉をノックした。


 ノックして数秒間待った。

 反応が返ってこない。


 獣人は再度ノックをしようと試みたが、拳が扉に触れる直前で手を止めた。

 扉の先の様子が、ありありと目に浮かんできたからだ。


 獣人は扉を開けた。

 予想した通りだった。


 部屋の奥には執務机が設置されている。

 その席に着くことが許されている者は、この砦にたった一人しかいない。

 その者は、その席に着いている。

 つまりは、この砦の最高責任者であり、ミュンシア王国周辺に於ける、アルテメデス軍の総司令官ということになる。


 しかし、今の彼を見て誰がそれを予想できるだろう。

 その者は椅子に深くもたれかかり、両足を机の上に放り出して、本を広げ顔面に乗せていた。


「やはりですか……」


 獣人は大きく溜息をついて、男の顔面の上の本を取り上げた。


「起きてください、閣下」


「……むぅ?」


「むぅ? ではありません。クリストハルト・ベルクマン将軍閣下。職務を全うしてください」


「……んあ? なんだ……マティアスか」


 将軍と呼ばれた男は、将軍というには随分と若く見えた。

 年の頃は三十代といったところ。眠そうな眼つきで、気迫や覇気といったものは感じられない。

 若葉色の髪は激しくうねっており、この者の野暮ったさを助長しているように見えた。

 背は高めだが、やせ型で、これまた軍人とは思えないような身体つき。


「そうです、マティアスです。寝ぼけてはいないようで何よりです」


「……んで、何の用?」


「何の用? ではありません閣下。例の傭兵団の件ですよ。調査の結果、ほぼ黒と判明しました」


「ああ……例の傭兵団ね」


「潰しますか?」


「なんで?」


「なんでって……それは、我がアルテメデス帝国にとって害となり得るかもしれないからです」


「ならないよ。たかが傭兵団一つに何をそんなに目くじら立てているんだか、俺にはわかんないよ。放っておきなさいな」


「し、しかし閣下……」


 クリストハルトは、大きな欠伸をして諭すように言う。


「あのねえマティアスくん。俺はねえ、可哀想だと思ってるんだよ」


「可哀想? 誰をです?」


「そりゃあ、その傭兵団をさ。いや、ひいてはサルディバル領全体をかな。サルディバル領主もさ、あれは可哀想だよ。お抱えの兵団は全部アルテメデス帝国に取り上げられちゃったんだよ? 領の兵団は領の守備に全て回され、領主が命令できる兵団は皆無。そりゃあ傭兵団を頼ることになるのは必然さ。その傭兵団まで潰しちゃったら、あまりにもってもんだろう?」


「お言葉ですが閣下、彼らは有象無象の傭兵団とは違います。私の獣人としての勘がいっております。彼らは危険だと」


 マティアスがそう言ったあと、沈黙が流れた。

 クリストハルトとマティアスは、数秒間見つめ合った。


 そして、クリストハルトは軽く息を吐いた。


「やめやめ、この話はやめ。マティアスの意見を蔑ろにするわけじゃないけど、どうも俺は気が乗らないね。弱い者いじめとかさ、趣味じゃないのよ」


 それを聞いてマティアスは、じっとクリストハルトを見つめたが、やがて固い表情を僅かに緩めた。


「畏まりました。閣下の意見は絶対です。その意見に従いましょう」


「いい子だ」


「閣下」


「まだ何かあるの?」


「はい。次は『狂獣』ヴァルナー・ルウの件です。王都とサルディバル領周辺で、奴が暴れ回っています」


「アハハ。困った子だねー、彼は」


「笑い事ではありません。周辺地域の治安が著しく悪化しております。早急に討伐隊を編成し、奴を討つ必要があるかと」


「うーん。そうだねー」


「閣下、真剣にお考え下さい」


「考えてるさ」


「閣下のお気持ちは理解しております。かつての部下を討つことを躊躇われているのですね? ですが奴は数々の軍規違反を侵し、軍から追放された身。極刑を免れただけでも感謝すべきというのに、奴の振る舞いは閣下の御心を踏みにじる行為です。もはや、見過ごすことなどできません」


「でも彼と君は同郷だろう?」


「関係ありません」


「うーん。殺す必要はないんじゃない?」


「駄目です」


「うーん。でもなー」


「閣下」


「……分かったよ」


「決まりですね」

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