225.神代の都市
魔法陣で転移した先には、白い神殿のような建物が幾つも存在した。
建物は美しく荘厳な様子だが、地面は砂で覆われている。
「この光景は……」
この光景には見覚えがある。
アガム砦で大将軍キリルとの戦闘中、ガブリエルの罠に嵌り、転移させられた先の世界と酷似している。
「ここは神代で最も栄えた都市、アテナ・アクテリオン……を模倣した世界」
驚くアルゴに対し、ガブリエルがそう言った。
「ガブリエルさんに転移させられた世界もこんな様子でした。なにか意味があるんでしょうか?」
「私はただ、ロノヴェの真似をしただけよ。ここはロノヴェが創った世界。彼が言うには、ここは彼お手製のダンジョンとのことよ。私はこの場所を真似てあの世界を創り上げた。だから私のは、模造品の模造品ってとこかしらね」
「神ロノヴェが創ったダンジョン……ですか。あまり長居したい場所ではないですね」
「そう。なら早く進むわよ。この大通りを真っ直ぐ進めば、そこに天界の門があるわ」
「分かりました」
白い建物の間に大通りが伸びている。
どこまでも続いており、終着点が見えない。
アルゴが先へと目を向けた時、視界の端で動く物体を捉えた。
それは人の形をしていた。
それは白銀の鎧を全身に纏った騎士だった。
兜で顔は見えないが、おそらく中身は空だろう。
「生物の気配を感じない……」
「その通り。あれは動く鎧。この世界を守護するガーディアンね」
「ガーディアン……ですか」
ガーディアンは剣を抜き、こちらに対して敵対行動を取った。
そして厄介なことに、ガーディアンは一体だけではなかった。
建物の隙間から、ガーディアンたちが現れる。
その数は、軽く百を超える。
「数は……五百……いや、千……」
数が多すぎる。
流石にこの数を全滅させるのは無理だ。
「駆け抜けますか?」
そのアルゴの提案に、ガブリエルは首を横に振る。
「私、殲滅は得意な方なの。貴方が規格外すぎて、私の凄さが霞んでいるかもしれないけどね」
「そんなことはないですけど……。それで、どうするんです?」
こうして会話している間にもガーディアンたちが近付いてきている。
速度はゆっくりだが、隙がなく連携の取れた動きだ。
ここでガブリエルは意外な動きをした。
ガブリエルは突然しゃがみ込んだ。
そしてアルゴに言う。
「乗って」
「はい?」
「私の背中に乗りなさい。安全なのは私の背中だけだから」
「え? の、乗るんですか?」
「そうよ」
「いいんですか?」
「早くして」
「わ、分かりました」
アルゴはガブリエルの背中におぶさった。
遠慮がちに体重をかけ、ガブリエルの両肩を軽く掴む。
ガブリエルは細身だが、アルゴに体重を掛けられても体幹のぶれはない。
「軽いわね。ちゃんと食べてるの?」
「え、ええ、まあ」
「そう」
ガブリエルは右手を地面に付けた。
その瞬間、ガブリエルの右手から白い靄が出現。
それは、一瞬にして広がった。
白い靄が同心円状に広がっていく。
地面の砂が凍り、建物が凍り、ガーディアンが凍る。
世界が一変した。
すべてが氷結した氷の世界。
「すごい……」
「まあ、こんなもんよ」
「人間業とは思えません。本当に人間なんですか?」
「れっきとした人間よ。まあ、驚くのも無理はないけど。そもそも神代の術者は現代の術者とは格が違う。その神代の術者の中でも、私は天才中の天才。私の実力をなめてもらっちゃあ困るわ」
「御見それしました。あ、でも……」
「何かしら?」
「あそこ、まだ動いているガーディアンがいます」
遠くへ目を向ければ、そこに活動を続けるガーディアンが居た。
それも一体だけではない。十体以上は居る。
「あら……」
ガブリエルは軽く咳ばらいをして言う。
「まあ、敢えてよ、敢えて。少しぐらい残しておかないと、貴方の出番がなくなるでしょ?」
「……」
「何よその目は」
「いいえ何も。さて、ガーディアンの弱点はどこですか?」
「頭よ。兜を破壊すれば活動を止めるわ。でも―――」
でも硬い兜を破壊するのは一筋縄ではいかない。
そう言おうとした。
だがアルゴは、あっと言う間にガーディアンたちに接近し、難なく兜を叩き斬っている。
バターでも斬るような感覚で、ガーディアンの兜が斬られていく。
「なにあれ……本当に人間なの?」




