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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第七章

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214.迷い子

「落ち着いて、メガラ嬢。そしてどうか聞いて欲しい。メガラ嬢も聞いているでしょう? 凍り付いたケルネイア砦のことを。巨大な氷の壁のことを」


「勿論聞いているさ。大将軍ガブリエル・フリーニの仕業だな。だがそれがどうした。ケルネイア砦が陥落したことには変わりない。氷の壁も進軍の障害にはならんだろう。壁を迂回すればよいだけなのだから」


「そう、物理的にはね。問題は兵士たちに広がる不安と動揺。あの氷の壁は高さ約五十メートル、長さはおよそ一キロ。そんな巨大な物体が一人の手で造り出されたのよ? 私たちは大将軍の脅威をまざまざと見せつけられた。あの壁はまさに進軍を妨げる結界。物理的には問題なくても、精神的には大きな問題がある。軍の士気が大きく落ちている。そんな状態でこのまま進んでもいい結果にはならない。だから、私たちには必要なの。大将軍を超える真の英雄が」


「だから……アルゴが必要だと?」


「ええ、必要よ。私だって本当はこんなことは言いたくない。でも、アルゴ少年の力は本物よ。私はその強さを知っている。アルゴ少年こそが……世界最強。私たちにはその最強の力が必要なの」


「やめろ」


「どうかお願い」


「やめてくれ……」


 顔を俯けて拳を震わすメガラ。

 そのメガラへとアルゴは声を掛ける。


「メガラ、俺は……」


 メガラは右手をアルゴの左手に添えた。

 そして顔を振って意思を伝える。


「アルゴ、何も言うな。言わないでくれ……」


「……」


「メガラ嬢、貴方の気持ちは痛い程わかる。だけど……」


「リューディア、お前もだ。お前ももう、何も言うな。言ってくれるな。頼む。それ以上言うのなら、余は友を一人失うことになる……」


 それを聞いてリューディアは黙り込む。

 数秒後、リューディアは肩を落とした。


「……分かったわ。もう……言わない。私も友を失うのは嫌だから……」


「……助かる」


「ごめんなさい、メガラ嬢。私が悪かったわ」


「よい。お前と余の仲だ、今回だけは水に流すとしよう」


「ありがとう」


 リューディアはメガラに右手を差し出した。


「仲直りの握手を」


「ああ」


 メガラとリューディアの間で固い握手が交わされた。


 それで戦の話は終わった。


 それ以降、リューディアが館をあとにするまで、その話題が上がることはなかった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 エウクレイア家の館に住まう者が新たに一人増えた。


 魔族の女だ。

 特徴は澄んだ水色の長い髪。

 儚げな雰囲気を纏い、どこか気品漂う女だった。


 その女の名はカーミラ・リンドロード。

 メガラの器となったレイネシア・リンドロードの実母である。


 カーミラはイオニア連邦で療養していたが、体調が快復したためルタレントゥム魔族連合に戻ることとなった。

 だが、戦火により、もともと住んでいた家はとうになくなっていた。

 ゆえにメガラは、カーミラをエウクレイア家に呼び寄せた。


 メガラはカーミラに対し援助を惜しまないつもりだった。

 それがせめてもの報いだと思っていた。


 メガラは、カーミラのことを客人待遇でエウクレイア家に迎え入れた。

 だが、客人待遇であることはカーミラ自身が断った。

 レイネシアの傍に居たいという気持ちもあるが、名家であるエウクレイア家の客人として扱われるのは居心地が悪い。

 カーミラの心境はそのようなものだった。


 カーミラは料理が得意だった。

 ということで、エウクレイア家の料理人見習いとして働くことになった。


 休息を与えられたある日の朝。

 カーミラは館の三階から目撃した。

 庭園で懸命に木剣を振る人族の少年の姿を。


 あの少年は毎朝木剣を振っている。

 いつもの光景。だが、その日は何か違和感があった。


 迷い。


 何故か少年が迷いを抱えているような気がした。

 何故かは分からない。

 だが確かにそう感じたのだ。


 カーミラは人族が怖かった。

 自分を虐げた人族が。自分から全てを奪った人族が。

 ただ怖かった。


 だから、あの少年と関わることを極力避けていた。

 あの少年はエウクレイア家の者なのだから、本来なら誠心誠意仕えなければならないというのに。


 だが、どうしても植え付けられた恐怖がチラつく。

 だから今日も関わらないつもりだった。


 だが少年の姿を見ていると、別の感情が湧き上がってきた。

 見た目はまるで違うのに、レイネシアの姿と重なって見えた。

 迷いながら、悩みながら、それでも懸命に進もうとするその姿勢は、青く、そして若い。

 それは、大人になると維持することが難しくなるものだ。

 成長するとともに覚えてしまう。

 諦めること、妥協することの楽さを。


 だから、その瞬間を生きている若者のあの輝きは大切にしないといけないものだ。


 そして、子供に手を差し伸べるのは大人の努めなのだろう。


 そう思った時、カーミラの足が自然と動いていた。

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