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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第一章

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22/250

22.先行

 キュクロプスの痕跡を辿りながら、森を駆け抜ける。

 キュクロプスの姿はまだ見えない。

 だが確実に近づいている。


 上空より飛来する巨大な塊。

 大質量の凶器と化した森の巨木。


 巨木は、地面から聳え立つ樹木を破壊。

 破壊された樹木はへし折れ、アルゴたちへと迫る。


 リューディアは樹木を避けて、周囲に目を向ける。

 全員の生存を確認。まだ誰も脱落していない。

 集められたのは精鋭揃い。

 修羅場を潜り抜けてきた猛者たちだ。


 しかし。


 キュクロプスの攻撃は止まない。

 空から巨木が舞い降り、森に破壊を巻き散らす。


 このままでは不味い。

 集中力と体力は無限ではない。

 これは時間との闘い。可能な限り早くキュクロプスと接敵しなければ。


「リューディアさん」


 右隣りから名前を呼ばれた。

 その方向へ目を向ける。

 そこには、薄茶の髪色をした少年がいた。切り札として連れて来たアルゴだ。

 何を考えているのか読み取りにくい表情をしていた。

 自信があるようでもなく、かといって不安気でもない。


「アルゴ少年、どうしたの?」


「俺に先行する許可をください」


「先行? 君一人で?」


「はい」


 リューディアはこの時、全速力に近い速度で森の中を駆けていた。

 先行するということは、アルゴは更に速度を上げることが可能だということ。


「そう……君ならできるのね?」


「はい。俺ならできます」


「そうする理由を教えて」


「分かりません」


「え?」


「すみません、分かりません。でも、そうしないといけない気がします」


 リューディアは考える。

 このまま全員で固まって動いていれば、いずれ誰かが巨木の餌食になってしまうかもしれない。

 だから、足の速い者が先行し、キュクロプスの猛攻を止めることが出来れば、それは大きな利になる。

 しかし問題は、その者が単独でキュクロプスとやり合えるかだ。


 リューディアは、小さく息を吸い込んで尋ねた。


「……いけるのね?」


 アルゴは平然と答えた。


「いけます」


「分かったわ。君に私たちの命運を託す」


「了解」


 短く返事し、アルゴは前方に視線を向ける。

 乱立する樹木に視界を遮られ、キュクロプスの姿を確認できない。

 だが、それは問題ではない。

 キュクロプスが通った跡が、はっきりと残っている。

 それに、なんとなく分かる。キュクロプスの居場所が。

 何故だろう。気配……とでも言うべきか、それを感じる。


 アルゴは己の内側に意識を向ける。

 魔力の存在を知覚。

 魔力の存在を意識し、操作する。

 脚に魔力を溜める。

 熱を感じる。魔力が凝縮される感覚。


 そして、凝縮された魔力を一気に解き放った。


 他の者の目には、アルゴが消えたように見えた。

 アルゴが地面を蹴り上げた瞬間、その体が加速した。

 アルゴが地面を蹴り上げるごとに速度が増す。

 疾風の如く速度で木々の間を抜ける。


 団員たちを置き去りにし、アルゴは森を進む。


 近い。


 気配を強く感じる。キュクロプスが近い証拠。

 更に速度を上げ、前進。


 そして、辿り着いた。


 アルゴの目の前に巨体が聳え立っていた。

 人型ではあるが、決して人ではない。

 腕と脚は巨木よりも太く、胴体は岩を合わせて造り上げられているのかと錯覚するほど。


 アルゴはキュクロプスを見上げた。

 キュクロプスもまたアルゴを見下ろした。


 鈍く光る一つ目。禍々しい赤。

 その瞳がアルゴを見据えている。


「なるほど」


 実際にキュクロプスを見たのは今回が初めて。 

 だが、アルゴには分かった。

 このキュクロプスはきっと、特別な個体。

 あの赤い目には、なにか特殊な力が宿っている。


 それは、千里眼と呼ばれる異能の力。

 キュクロプスは、その力でアルゴと団員の姿を捕捉したのだ。


「さて、やるか」


 軽い調子で、何でもないことのようにアルゴはそう呟いた。

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