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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

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207.博打

「なんということだ……分かってはいたことだが……これは……」


 ロノヴェは、肩で息をしてアルゴを見据えた。


 ロノヴェの姿は黒球から人型に戻っている。

 もう姿を変化させることはできない。

 傷を治すこともできない。

 存在力を使いすぎたのだ。


 改めて思い知らされる。盟主の騎士の恐ろしさを。


 分かってはいたことだが……強い。


 手も足も出ない。

 残りカスだとは言え、自分は仮にも神だ。

 こうも一方的な戦いになるとは思わなかった。


「驚きですよ……貴方のような人材が奴隷に落ちていたとはね。もっと早く貴方を見つけることができていたならば……貴方を我が陣営に取り込むことができていたならば……それを思うと、悔やんでも悔やみきれませんな」


「それはどうでしょうか。俺が今こうしてここに立っているのは、俺だけの力じゃありません。俺はたくさんの人に助けられました。その人たちのお陰で今があります。仮に俺がアルテメデス帝国の兵士だったとしたら、俺はもう死んでるかもしれない。俺は運がよかった。ただそれだけです」


「ホホホッ。強い上に慎ましい。これは敵いませんな」


 アルゴは魔剣を上段に構えた。

 ロノヴェは地面に膝をつけた状態。

 ロノヴェはもう動けない。


「なにか言い残すことはありますか?」


「そう……ですな。では、その御厚意に甘えさせて頂きましょう」


 そう言ってロノヴェは続ける。


「ベリアル、聞こえてますかな?」


「聞こえています」


 ベリアルの代わりにアルゴが返事をした。


「吾輩は混じっている。ですからロノヴェの思いがよく分かるのです。ロノヴェは、貴方とアンジェラのことを本当に大切に思っていた。ロノヴェとして一つ言いましょう。いい加減、アンジェラに思いを伝えなさい」


 ロノヴェの言葉を聞いて、アルゴは疑問を浮かべた。


「ベリアル、この人は何を言っているんだ? 混じっている? どういうこと?」


「アルゴ、ちょっとだけ時間をくれねえか」


「時間? どういうこと?」


「コイツを殺すのは……ちょっと待って欲しい。頼む、ちょっとだけでいい」


「ちょっとって……具体的にはどれぐらい?」


「ちょっとだ」


「悪いけど、無理だ。相手は神だ。甘く考えてると痛い目を見る。殺せる時に殺さないと駄目だ。ベリアルも言ってたじゃないか、油断できない相手だって」


 アルゴは魔剣を握りしめる力を強めた。

 軽く息を吐き、魔剣を振り下ろそうとする。


「待て。待ってくれ」


「駄目だ」


 そう言って、アルゴは魔剣を振り下ろした。

 魔剣が煌めき、ロノヴェの頭部へと迫る。


 その瞬間、ベリアルの声が聞こえた。


「代われ」


 べリアルの言葉が頭に響いた瞬間、アルゴの体は止まった。

 魔剣はロノヴェの頭部直上で静止。


 これはアルゴとベリアルの間で交わされた契約。

 アルゴは、一度だけベリアルに体の制御を渡さなければならない。

「代われ」というベリアルの命令は絶対。

 それがアルゴに定められた絶対の縛り。


「悪いな、アルゴ。親友なんだ」


 アルゴの口を使い、ベリアルがそう言った。

 それから少し間を置いて続ける。


「ロノヴェ、聞こえてるか? 聞こえてるよな? だったらよ、いつまでこのクソ野郎の好きにさせてやがる。いつまでルキフェルのいいようにさせてやがる。おい! ロノヴェ! そこに居るんだろう!? とっとと戻って来い! オマエの意地を見せてみろ!」


 熱がこもったベリアルの叫び。

 その叫びを受け、ロノヴェに異変。


 ロノヴェの体が小刻みに震え出した。


「くッ……なんだと……これは……」


 右手で顔を覆い、ロノヴェは苦し気な顔をする。


「ロノヴェ……なのか……? 馬鹿な……制御は我にあるはず……」


 そのロノヴェの異変を見て、ベリアルは再び叫んだ。


「ロノヴェ! その調子だ! 気合を見せやがれ!」


「うッ……うッ……ベリアル……そこに……いるのですか……?」


「あ、ああ! ここに居る! オレっちはここに居るぞ! オマエの親友、ベリアル様はここに居る!」


「ホ……ホホッ。懐かしい……ですな……ベリアル」


「ああ! 会いたかったぜ! ロノヴェ!」


「……ベリアル、一つ……よいですかな?」


「ああ! 勿論だ!」


 ロノヴェは顔を上げた。

 その顔は、ベリアルの記憶にはないものだった。

 それは、この世の悪意を塗り固めたような、ひどく邪悪なものだった。


「その少年の強さの秘密は、器ではなく中身なのです」


「なに……?」


「つまり、貴方では吾輩には勝てない」


 その瞬間、ベリアルは痛みを感じた。


「うぐッ……」


 口から血液がこぼれた。

 自分の腹を見れば、複数の刃が突き刺さっていた。


 突然虚空から現れた刃。

 その刃に腹を貫かれている。


 ベリアルは、堪らず崩れ落ちた。


「ち、ちくしょう……ルキフェル……テメエ……」


「ホホホッ。致命傷、というやつですな。貴方は死ぬ。間違いなく」


 ロノヴェは天を仰いだ。


「勝った。吾輩は賭けに勝った! ホホッ……ホホホッ……ホホホホホホッ!」


「ルキフェル……テメエ……こうなることを……読んでいたってのか?」


「読んでいた? 何を言ってるのです? 勝ち負けが分からないのが博打というものでしょう? 吾輩はね、己の命を賭けたのですよ。神ベリアル、貴方は読めないところがありますからな。貴方がどのように行動するのかは、吾輩にも読み切れなかった。だから、これは賭け。貴方が吾輩を殺害すことよりも、友の救出を優先することに吾輩は賭けた。結果は―――吾輩の勝ち、ですな」


「その喋り方を……やめろ。ロノヴェの真似を……するんじゃ……」


 その時、ベリアルの口からまた血が溢れた。

 ベリアルは、もうまともに喋れる状態ではなかった。


「ホホホッ。苦しそうですなあ。なあに、今とどめを―――」


 底冷えするような強い殺気。

 その殺気を感じ、ロノヴェは言葉を止めた。


 金色の瞳がこちらを見ていた。

 それは、強者の眼差し。

 圧倒的上位者から向けられる強烈な殺気。

 ロノヴェはそのように感じた。


 今、アルゴの体の主導権はアルゴに戻された。

 アルゴは、射殺すように目の前の神を睨みつけた。


 ロノヴェは後ずさる。


「わ、吾輩は……神……だぞ。なんだこれは……これは……」


 恐怖。

 怖かった。目の前の死にかけの少年が、ただ怖かった。


「ま、まあいいでしょう……。貴方は時期に死ぬ。吾輩がわざわざトドメを刺す必要は……ない」


 そう発言した直後、ロノヴェの体が黒い霧と化していく。

 そして黒い霧は、空を漂いこの場から離れていった。


「い、痛い……なぁ……」


 アルゴは地面に倒れ込んだ。

 血が止まらない。

 体が冷えていくのが分かる。


 これはちょっと……まずいかも。


 その瞬間、地面を駆ける足音と、誰かの叫び声が聞こえた。


「―――アルゴ! アルゴ! 嘘だろう! 嘘だと言ってくれ!」


 薄れゆく意識の中、その叫びを聞いた。


 目を開けていることも難しくなり、視界が闇に閉ざされる。


 ごめん……メガラ……。

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