206.光線
黒い触手がアルゴに迫る。
それをアルゴは魔剣で斬り裂く。
斬られた触手は地面に落下し、ピチピチと跳ねるように動いている。
地面に散らばる触手。その触手と接地する地面から細い煙が上がる。
その様子からアルゴは理解する。
もし触手に触れたら、皮膚が溶かされてしまうだろう。
だから触手に触られるわけにはいかない。
それを頭に入れて、迫りくる触手を斬り裂いていく。
触手は八本。その全てを斬り裂いた。
黒い球体は無防備を晒した。
そう考え、アルゴは黒い球体へと接近。
魔剣を振るう。
その時、黒い球体は触手を再生させた。
一瞬で全ての触手が再生され、アルゴに迫る。
「まあ、そうくるよね」
触手が再生されると予想していたアルゴは、焦ることなく後ろに下がった。
距離と取って考える。
触手が再生した。
おそらく黒い球体も同じ機能を持っているだろう。
人間であれば、首を刎ねられれば死ぬ。
心臓を貫かれれば死ぬ。
だがこの化け物は違う。
そもそも急所というものが存在しない。
どこを斬っても再生してしまうだろう。
ならば、この化け物は死なないのか。
この化け物を殺す手段はないのか。
アルゴは感覚的に理解している。
殺せる。
多分この化け物は、生命力を削りながら戦っている。
その生命力が底をつけばこの化け物は死滅する。
当然、生命力を早く削る方法は攻撃を与え続けること。
つまり、このまま戦っていればいずれ勝てる。
「その通りだぜ、アルゴ。生命力つーか、存在力って言う神々が持つ力でだけどな」
ベリアルの話を聞きながらアルゴは魔剣を振る。
魔剣が触手を裂き、続けて球体を傷つけた。
触手と球体は再生するが、化け物の存在力が目減りしていく。
魔剣を振り続ける。
球体はダメージを負い続ける。
このまま押し切る。
そう気合を入れ、アルゴは魔剣を振り続けた。
だがその時、アルゴは咄嗟に後ろに下がった。
化け物の表面には無数の赤い瞳が浮かび上がっている。
その瞳の一つから、赤い光線が放たれた。
光線は到底目で追える速度ではなかったが、アルゴは余裕で避けた。
アルゴには、光線が放たれるタイミングが分かった。
ゆえに避けるのは容易い。
光線が放たれ続けた。
化け物は無数の赤い瞳を持つが、光線が放たれるのはその内のどれか一つからだ。
光線に当たればどうなるかは考えるまでもない。
赤い光線は全てを貫く。
もし光線に頭を射抜かれれば即死してしまうだろう。
だがアルゴには当たらない。
余裕だった。速いだけではアルゴには通じない。
「ベリアル、神ロノヴェの他の攻撃手段は?」
「ない。触手攻撃と赤い光線しかないはずだ。けど油断するな。新たな攻撃手段を手に入れてる可能性はある。それに、このまま奴が終わるとも思えねえ』
「大丈夫。油断なんてしない」
その言葉通り、アルゴに油断も慢心もない。
ここで確実に殺す。
そう決意する。
盟主の騎士を前にしては、ロノヴェには為す術がなかった。
確実に死へと近付いている。
ロノヴェはそれを自覚していた。




