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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

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205.黒い球体

 大勢の兵士に見守られる中、アルゴは前に出た。

 地面を踏みしめて少し進み、足を止めた。


「アルゴ……」


 と心配そうに見つめるメガラ。


「心配しなくても大丈夫。俺は絶対に負けない。これは好機だ。邪神を討てる機会は、これを逃せばもう二度とないかもしれない」


「ああ、分かっている。分かっているさ……。だからお前に頼むのだ。だが、奴はお前の強さを理解して尚、お前に戦いを挑んでいる。それが……余はとても不気味だ。なにかを仕組んでいるのかもしれない。けっして、油断するでないぞ……」


「分かった」


 アルゴは頷いて立ち上がろうとした。

 その時、アルゴは衣服の袖をメガラに掴まれた。


「待ってくれ」


 メガラはアルゴの首に両腕を回し、アルゴを抱きしめた。


「お願いだ……死んでくれるなよ。お前が居なくなってしまたら……余は生きてはいけない……」


 アルゴはメガラの背中をトントンと優しく叩いた。


「死なない。死ぬわけがない。だって俺は盟主の騎士だ。逆に、俺が負けると思う?」


 悪戯をする悪ガキのような笑みを浮かべるアルゴ。

 その言葉で僅かに表情を緩めるメガラ。


「馬鹿者。調子に乗るな」


「ハハハッ」


 と笑い、アルゴは今度こそ前に進む。


「じゃあ、いってくる」


「ああ」


 ここは平地。見晴らしのよい平原。

 空は晴れ。気温は暖かく、風は穏やかだ。


 そして、大賢者ロノヴェ・ザクスウェルと対面。


 ロノヴェは、胸に手を当てて深々と頭を下げた。


「サー・アルゴ。吾輩の申し入れに承諾頂いたこと、誠に感謝いたしますぞ。さて、詳細説明は必要ですかな?」


「いりません」


「結構」


 と言うと、ロノヴェは指を弾いた。

 すると、アルゴの目の前の空間に青白い文字が浮かび上がった。


 神ロノヴェ・ザクスウェルとアルゴ・エウクレイアは、互いに死力を尽くして戦うことをここに誓う。

 この契約に同意すれば、神ロノヴェ・ザクスウェルとアルゴ・エウクレイアは、お互いを殺し得る存在へと変化する。

 これに同意する場合は、名を刻まれたし。


 アルゴは人差し指を空中に走らせた。

 己の名前を刻む。


 その時、胸の奥がざわつく感覚があった。

 頭の中で鳴る警鐘。

 誰かに訴えかけられているような感覚。


 この感覚はきっと。


「ベリアル……?」


「―――ぷっはッ!」


 と大きく息継ぎをするような声が聞こえた。

 その者は、息を切らしながら言葉を放つ。


「はぁ……はぁ……ようやく浮上できだぜ。ったく、メガラちゃんの契約はとんでもねえな』


 今まで沈黙していたベリアルが、ここにきて突然息を吹き返した。


「ベリアル、いまどんな状況か理解してる?」


「ああ、なんとなくだが分かってるぜ。もう分ってると思うがよ、アイツがオレっちを嵌めたクソ野郎だ」


 それを聞いてアルゴは、目の前の老人を見据える。

 ロノヴェ・ザクスウェル。

 この老人こそが、ベリアルを陥れた張本人。

 皇帝マグヌスと共に、世界に破壊を巻き散らす邪神。


「ホホホッ。懐かしい気配がしますなあ。神ベリアル、そこにいるのですね?」


 ベリアルの代わりにアルゴが返事をする。


「神ロノヴェ、ベリアルの言葉を伝えます。言ってもいいですか?」


「ええ、構いません」


「―――くたばりやがれ、クソ野郎」


 それを聞いて、ロノヴェは口元を歪めた。


「ホホホホホホッ。くたばりやがれ……ですか。残念ですが、そういうわけにはいきませんな。吾輩もそれなりに必死でしてな。吾輩にとってこれは賭け。賭けというものは……吾輩は好きではないのですよ。不確かな運などというものに縋るしかないなどと……神としてあるまじき事態。ですが、そうでもしなければ盤面は覆せない。さあて、吾輩の運が如何ほどのものか……それを試してみましょうか」


 その直後、ロノヴェの体から黒い瘴気が漏れ出した。

 瘴気はロノヴェの全身を包み、やがてロノヴェの体を変化させていく。


 それは、黒い球体だった。

 大きさは半径一メートル程度。

 球体の表面は滑り気があり、手で触れば粘つく液体が糸を引くだろう。


 その球体から、太い触手が生え出した。

 触手の数は八本。


 八本の触手と本体である黒い球体。

 それらの表面を覆うのは、赤い瞳。


 無数の赤い瞳。八本の触手の生えた黒い球体。


 それはもう、完全に人の姿ではない。


 その姿を見てアルゴは確信する。

 間違いないと思った。


「あなたは神なんかじゃない。―――悪魔だ」

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