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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

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203.青空会談

 古都クレイテネアは、アルテメデス帝国との国境付近に存在する都市だ。

 それゆえにアルテメデス帝国との大戦時、早々に帝国に占拠された都市でもある。


 現在はルタレントゥム魔族連合がその領土を取り戻しているが、大戦の傷痕は今も残っている。


 貴重な文化遺産である神殿は、その外観の一部が消し飛んでいる。

 都市に建つ家々の瓦礫が、今も撤去されず残っている。

 地面に入った大きな裂け目は、この先数十年と残り続けるだろう。


 そんな古都クレイテネア近郊の平原にて。


 青い空の下、木製の机が置かれていた。

 用意された座席は四つ。

 その内の三席に座るのは、以下の者たち。


 ルタレントゥム魔族連合盟主、メガラ・エウクレイア。

 イオニア連邦議会義長、イヴェッタ・ラヴル。

 パルテネイア聖国聖女、シエル・カルノー。


 この三人は横並びで座っている。


 この三人と机を挟んだ向かいの位置に、残る一席が置かれている。

 その席に座るのは、アルテメデス帝国大賢者、ロノヴェ・ザクスウェルだ。


 ロノヴェは一人だった。

 正真正銘の一人。

 ロノヴェは護衛も供もなしで、この青空の会議場に現れたのだ。


 ロノヴェは唖然とする面々をよそに、大仰に両手を広げた。


「これは素晴らしい! 美女三人が吾輩の相手をしてくださるのですね! これは役得ですな!」


 空気を読まないロノヴェに対し、メガラは言う。


「ロノヴェ・ザクスウェル、変わり者だとは聞いていたが、それを通り越していかれているとしか思えんな。護衛も付けず一人で乗り込んでくるとはな」


「ホホホッ。吾輩、意外性ならば誰にも負けない自信がありましてな。既存の枠にとらわれないこと。それを信条としておりますゆえ」


 楽しそうに笑うロノヴェ。

 そのロノヴェを無視し、シエルは口を開いた。


「盟主様、先に申し上げてもよろしいでしょうか?」


「許可する」


「わたくし、この方が生理的に受け付けませんわ。ゆえに、わたくしは基本的には黙っていることにします。そもそも、わたくしは聖王の耳としてここに遣われたのでありますから、わたくしが余計な口を挟むことは聖王の望むところではありませんので」


 シエルは若い人族だ。

 誰もが見惚れる美しい容姿。

 その美しい顔をわずかに歪め、嫌悪感を露わにしている。


「それは、余とイヴェッタの意見に従うということでよいか?」


「ええ、それで構いません」


「よかろう」


 と言ってメガラはロノヴェに視線を向けた。


「では、さっそくだが始めよう」


「畏まりました盟主様。では協議を始めましょう。と言っても、吾輩から言えることは多くありません。我々が提示する停戦に関する条項は、たった一つだけ」


 ロノヴェはそう言って、人差し指を立てた。


「ルタレントゥム魔族連合、イオニア連邦、パルテネイア聖国は、我々アルテメデス帝国の下につき、我々の意に沿うよう努めなさい。そうすれば恒久的な平和を約束しましょう」


 そのロノヴェの言葉に、メガラたち三人は耳を疑った。


 イヴェッタは言う。


「私の聞き間違いでしょうか? アルテメデス帝国の下につき、と聞こえましたが?」


「聞き間違いではありませんぞ。吾輩はそう申し上げました」


「私は……この場を停戦に関する協議の場と思っておりましたが……どうやら違うようですね」


 イヴェッタはメガラに視線を向けた。

 その視線を受け、メガラは言う。


「ロノヴェ、お前の置かれた状況が分かっていないのか? お前たちは今、追い詰められている。本来、条件を付けるのは我々のはずだ。お前たちにその権利はない。言うまでもなく、そんなふざけた条件を飲めるはずがない」


 そう言われ、ロノヴェは肩をすくめた。


「そうですか」


 ロノヴェが返した言葉はそれだけだった。


「なるほどな。お前たちは端から停戦をするつもりなどないのだな。それはいい。それはいいが……ならば何故、お前はここにいる? 何故お前は、この場を設けた?」


 ロノヴェは、少し考えるような仕草を見せてから口を開いた。


「突然ですが……吾輩は神なのです」


「……は?」


「突然ですが……吾輩は神―――」


「やめろ、繰り返すな。聞こえてはいる。神だと? 何を言っている?」


「説明もめんどくさいので、手っ取り早く証拠を見せましょう。お三方の誰でもいい……吾輩の体を剣で貫いて頂けませんか? 剣は後ろの兵の誰かに借りてください」


「お前は本当に何を言っている? お前は余を―――」


 メガラが苛立ちを露わにした時、シエルは椅子から立ち上がった。


「よいではありませんか、盟主様。この方の望む通りにして差し上げましょう。帝国は停戦をするつもりがない。であれば、ここで大賢者の命を獲るべきでしょう」


「だが―――」


 メガラの意見を聞かず、シエルは背後に控える兵士の元まで歩き出し、兵士から剣を借り受ける。

 そして剣を抜き、正眼に構える。


「わたくし、多少腕に覚えはありますの。一撃で楽にして差し上げますわ」


「ホホッ。美女に殺されるなら本望ですぞ」


 殺意を込めるシエルと朗らかに笑うロノヴェ。

 その二人の様子を見てメガラは言う。


「シエル、落ち着け。殺すのは早計だ。こうなった以上、こいつを帰すつもりはないが、こいつの利用方法は色々とあるはずだ。だからその剣を―――」


「斬り捨て御免」


 と言ってシエルは剣を振り下ろした。


 剣はロノヴェの左肩から入り、そのまま心臓へと到達。

 間違いなく致命傷。まず助からない。


 だが。


「ホホホッ」


 ロノヴェは笑う。何事もなかったかのように。


「う……うそ……でしょ……」


 シエルは腰を抜かし、尻を地面につけてしまった。


「ホホッ。これで分かっていただけましたかな?」


 ロノヴェはそう言って、己の体に深く入った剣を抜いた。その際、血は一滴も流れなかった。剣を抜いた途端、ロノヴェの傷が修復されていく。


 その光景に、この場に居る兵士たちがざわつき始めた。


 そんな中、メガラは冷静だった。


「なるほどな。我が騎士から聞いていたよ。お前が邪神か。あるいは……大将軍どもと同じ化け物か」


 ロノヴェは肩をすくめて返事をした。


「邪神とは失礼な。それに、吾輩は大将軍たちと同じではありません。吾輩は神。彼らは異次元から呼び出された精霊。似て非なるものですぞ」


 それにメガラが言葉を返そうとするが、その前にイヴェッタが止めた。


「盟主様、この者は危険です。ひとまずこの場からお逃げください」


 イヴェッタはそう言って、メガラを庇うように前に出た。


「いや、その必要はないのだろう。こいつがその気なら、我らはとっくに殺されている。そうなっていないのは、何か理由があるからだ。そうなのだろう? ロノヴェ・ザクスウェル」


「ええ。その通りでございます。貴方たちでは、神である吾輩を殺すことはできない。ですが逆に、神である吾輩もまた、貴方たちを殺すことはできない。これは世界が定めた縛り。たとえ神であろうとその縛りには逆らえません」


 それを聞いてメガラは言う。


「正直に言って、この場からすぐに立ち去りたい気持ちはある。お前のような得体の知れない者とこれ以上相対するのは御免被る。だが、このような機会は二度とないのかもしれん」


 メガラはそう言って席に座り直した。


「せっかくの神との対話だ。この機会を存分に活用させてもらおう」


「ホホホッ。流石は盟主メガラ・エウクレイア。なかなかの胆力ですな。いいでしょう。心ゆくまで、話し合いをしましょうぞ」

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