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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第一章

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21.飛来

 キュクロプスの様子を探るため、バートが単独で偵察に行った。

 そのバートがたった今、戻ってきた。


「キュ、キュクロプスが……いねえ……」


「え? それは本当なの?」


 バートの報告を受けて、リューディアがそう尋ねた。

 バートは「本当っす」と返事をした。


 以前キュクロプスが陣取っていた場所は、ウトレイ銀山の四合目地点。

 アルゴたちが今いる地点は、ウトレイ銀山の三合目付近だ。


「隊長、どうします?」


 魔術師の女が指示を求めた。


 リューディアは思案する。


 キュクロプスはどこへ行った?

 分からないが、冷静に考えてあの場所でいつまでもジッとしているわけはない。

 キュクロプスと言えども食料を確保しなければならない。

 森の奥に動物を狩りにでも行ったか?


 ならば、この隙にキュクロプスの寝床に罠を仕掛けるか?

 しかし、戻るとしたらそれはいつ頃だ?

 分からない。キュクロプスの生態は殆ど明らかにされていない。

 それゆえに、キュクロプスの行動を予想しにくい。


 リューディアは、数秒間考えて答えを出した。


「このまま進みましょう。キュクロプスがいないのなら好都合。罠を仕掛けましょう。罠を仕掛け終わる前にキュクロプスが戻ってくるかもしれないから、警戒は怠らないこと」


 その指示を受け、団員たちとアルゴは動き出した。


 ウトレイ銀山坑道の入り口は四合目に存在する。

 入り口から見て半径五十メートルの半円の範囲には、樹木は存在しない。

 無論、元からそうだったわけではない。

 資材や鉱物の仮置き場や、野営をするための場所として、森の一部が人の手で切り拓かれている。


 アルゴたちは、坑道の入り口前へ到着した。

 バートの報告通り、キュクロプスは居なかった。

 切り拓かれた場所より外の範囲は、背の高い巨大な樹木が生い茂っている。

 樹木に視界を遮られ、遠くまで見通すことは出来ない。


「いないわね。いいわ、罠の準備を!」


 リューディアの指示を受け、団員たちはキビキビと動き出した。

 魔術と肉体を使って作業を進めていく。


 仕掛けた罠は、驚くほど原始的なものだった。

 落とし穴を掘り、その底に鉄の杭を敷き詰めた単純な罠。

 しかも、落とし穴といっても、キュクロプスの片足が入る程度の大きさ。


 あまりアテにはならなさそうだな。

 と、手伝いながらアルゴはそう思った。

 しかし、こういった単純な罠こそが、大きな効果を発揮するのだと団員たちは言う。

 それもそうか、とアルゴは思う。

 もし自分の足の裏に太い針が刺さってしまったら、その状態で戦闘に集中するのは難しい。

 きっとどこかで隙が生まれるだろう。

 命を懸けた戦いに於いては、そういった少しの隙が命運を分けるのだ。


 罠を仕掛け終わり、リューディアがまた指示を飛ばした。


「全員、警戒態勢を維持!」


 団員とアルゴは、その指示に従った。

 周囲に注意を向ける。

 聞こえてくるのは鳥のさえずりと草木が揺れる音。

 日の位置は高く、暗くなるまでにはまだ時間がある。

 気温は暑くもなく寒くもない。

 悪くない環境だった。


 危機などないかのような穏やかな日和であったが、あちこちに残る巨人の痕跡がそれを否定する。

 大きく窪んだ地面。樹木が破壊された痕跡。

 キュクロプスの足跡と、キュクロプスが森を通過した跡だ。


 キュクロプスは、間違いなくここに居た。

 そして、ここを寝床と定めた以上、ここに戻ってくる可能性が高い。


 気を抜かず警戒を続けよう。

 アルゴが己に喝を入れた時だった。


 団員の誰かが叫んだ。


「―――上からだ! 避けろ!」


 叫び声が聞こえた直後、暴力が襲来した。

 振動。衝撃。土が大量に飛び散った。


 それは、巨大な樹木だった。

 巨大な樹木が上空から降ってきたのだ。


 リューディアは無事だった。

 咄嗟に跳び退いたので、樹木の下敷きにならずに済んだ。

 素早く周囲に視線を走らた。

 団員たちの様子を確認。自分を除いて九人いる。全員無事。


 皆、流石ね。


 心の中でそう褒めつつ、リューディアは思考を加速させる。

 巨木が降ってきた理由を考える。

 無論、自然現象ではありえない。


 巨木は北東方向から飛んできた。

 そう、飛んできたのだ。それはまるで、何者かによる投擲。


「キュクロプスが……投げた?」


 そう答えを出した時、再び団員の叫び声が聞こえた。


「また来るぞ!」


 上空より迫る巨木。 

 その巨木を躱し、リューディアは思考を継続する。


 間違いない。これはキュクロプスによる攻撃だ。

 ここからではキュクロプスの姿は見えない。

 だが、キュクロプスは我々のことが見えている。

 その理由は分からない。だが確実に、我々は捕捉されている。


 ならばどうする? 一旦退却するか。それとも森の奥へ進むか。


「リューディアさん!」


 団員に名を呼ばれる。

 その理由は分かっている。団員は判断を求めている。

 逃げるか、戦うか。


 あのキュクロプスは知恵が回る。

 キュクロプスが遠距離攻撃を仕掛けてくるなんてことは、夢にも思わなかった。

 これ以上、キュクロプスに学習する時を与えてはいけない。


 リューディアは、アルゴの姿をチラッと覗き見た。


 大丈夫。こちらには切り札がある。


「総員戦闘開始! キュクロプスは今日、必ず仕留める!」

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