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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

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200.賑やかな者たち

 夜。

 エウクレイア家の館、食堂にて。


 食卓には料理が並べられていた。

 並べられているのは肉料理とパンとスープ。


 エウクレイア家の食卓は意外にも質素だった。

 ここが一般家庭ならば意外でもなんでもない。

 だがエウクレイア家はルタレントゥムで最高の格を持つ家である。

 その家の者たちが一般家庭で出されるような料理を口にしているというのは、意外を通り越して違和感を持つ者も居るだろう。


 勿論これには理由がある。

 今はアルテメデス帝国との戦争中。

 食料は不足しがちだ。

 必然的に食事は質素な物になってしまう。


 それと、もう一つ理由がある。

 家長であるメガラは贅沢を好まない。

 王や貴族というのは、往々にして贅沢を好むものではあるが、メガラは違う。

 メガラは節制することを心掛けている。


 食卓に設けられた席は二十以上だが、席に着いているのは二人だけだった。

 家長であるメガラ・エウクレイアと、その眷属であるアルゴ・エウクレイアだ。


 今、この食堂に居るのは五人。

 アルゴとメガラ、それから魔族の侍女三人だ。

 魔族の侍女たちは食堂の隅で待機している。

 身分の違う者が同じ食卓に着くことはありえない。

 アルゴはそれを侍女長であるベアトリクスから聞かされた。

 そういうものだと頭では理解する。

 だが、やはり慣れない。

 庶民の出であるアルゴには、かなり違和感のあることだった。


「アルゴ、勉強の方は捗っているか?」


 メガラからそう尋ねられ、アルゴは食事の手を止めて答える。


「うん。まあ、頑張ってるよ。覚えることが多すぎて頭が破裂しそうだけど」


「フフッ。気持ちは分かるぞ。余も子供のころは苦労したものだ」


「へー。メガラなら楽勝かと思ってた。意外と勉強は苦手なの?」


「苦手……ということもないかもしれんな。苦労した理由は……そうだな、余の後ろを追いかけて来る者がいたからな。その者に追いつかれぬよう、必死だったのさ」


「後ろを追いかけて来る者? 誰のこと?」


「サラミス・エウクレイア。余の妹だ」


「……サラミス・エウクレイア。そう言えば妹さんのことは、ちゃんと聞いたことがなかったね。いまさらだけど、聞いてもいいかな?」


「ああ。構わない」


「性格や顔は、メガラと似てたの?」


「いいや。はっきり言ってまったく似ていない。余が激しく燃える炎なら、あいつは流れる清流だった。あいつは、人を笑顔にさせる天才だった。よく笑う女だった。他人のために怒り、他人のために泣くことができる女だった。本当に……亡くすには惜しい妹だった……」


「そっか……。素敵な人だったんだね」


「お前にも会わせたかったよ」


「うん。俺も会ってみたかったよ……」


「……すまんな。湿っぽい空気になってしまった。食事は楽しんでするべきだ。サラミスの話はここまでにしておくか」


「謝る必要なんかないよ。聞かせてくれてありがとう」


「ああ。―――ところで」


「ん?」


「余の気のせいか? お前たち、初めからそこにいたか?」


 メガラの視線は、アルゴの後ろに向けられていた。


 アルゴは、その視線を辿って後ろを向いた。


 後ろには魔族の侍女が三人。

 三人とも若い魔族だ。

 茶髪のクラーラ。

 金髪のドロテー。

 青髪のユッタ。


 この三人は食堂の隅で待機していたはずだが、確かに距離を詰めて来ていた。


 クラーラが声を上げた。


「いえいえいえ! 勘違いっすよ、盟主様! ワタシたちは初めからここにいたっす! だよね? ドロテー」


「ええ、ワタクシたちの定位置はここですわ。ワタクシたちは一歩も動いておりません。ですわよね? ユッタ」


「そう。わたしたちは動いていない。もしそう思うのだとしたらそれは間違ってる。食卓の方がわたしたちに近付いている、と言うべき」


 三人の弁を聞いてメガラは、やれやれと首を振る。


「お前たち、流石に誤魔化すのは無理がある。サラミスの話が気になっているのなら、正直にそう言え」


「そそそ、そんなことはないっすよ! そんな盗み聞きみたいな真似するわけないじゃないっすか!」


「そうですわ!」


「そう」


「もういいもういい。別に責める気はない。サラミスが慕われていたというのは、十分理解したよ」


 そこでアルゴは、すかさず発言した。


「ねえ、メガラ。やっぱり俺もサラミスさんの話をもっと聞きたい。だからもっと聞かせて欲しい。勿論……メガラが嫌じゃなかったらだけど」


 メガラは少し笑って返事をした。


「よかろう。そこまで言うのならとくと聞かせてやろう。こうなったら思う存分語ってやろうともさ。分かっていると思うが余はお喋りだ。途中で飽きたなどと言うでないぞ」


「ハハッ。望むところだ」


 そしてアルゴは、侍女たちに言う。


「ささ、皆さんも席に着いてください。ああそうだ。厨房に料理の残りがあるはずなので、俺、皆さんの分を持ってきますよ。メガラ、ちょっと待ってて!


 そう言ってアルゴは飛び出して行った。


 侍女たちはそのアルゴの行動に慌てた。


「ぼ、坊ちゃま! 待ってくださいっす! そんなことされたら侍女長に殺されるっす! なので、自分でやるっす!」


 と言ってクラーラはアルゴを追いかけた。


「食べることは食べますのね。流石クラーラですわ」


 ドロテーがそう言うと、ユッタがそれに反応した。


「じゃあ、ドロテーは食べないの?」


「ユッタ、お優しい坊ちゃまの心遣いを無下にしますの? ワタクシには、できませんわ―――!」


 そう叫び、ドロテーは飛び出した。


「わたしも、坊ちゃまのお気持ちを無視できない。わたし、坊ちゃま好き。ということで……わたしも行く。盟主様、それでは失礼します。すぐ、戻ります」


「あ、ああ……」


 メガラの返事を聞いて、ユッタはスタスタと立ち去った。


 食堂に一人の残されたメガラは、独り言を漏らした。


「我が家は、愉快な者たちが揃っているな。なあ、お前もそう思うだろう? サラミス」

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