192.浮上するもの
凍り付いた地面を魔剣で砕き、砂地にマティアスの亡骸を埋葬した。
そしてアルゴは、改めて周囲を見回す。
青い空のもとに、白い神殿のような建物が乱立している。
ここは結界の中。
この世界の果てまで歩き続けたとて、この世界から出られる確証はない。
「やっぱりこれ、閉じ込められてるよな? もしかしてこのまま一生でられない……のか?」
そう独り言を呟いて空を見上げる。
当然、独り言に返事する者はいない。
「それはねえ。安心しろ」
「―――なッ!?」
驚いた。
独り言に返事があった。
しかもその声は耳から聞こえたというより、頭の中で響いてるようだった。
「ま、まさか! 神ベリアル!?」
「おうともよ! 偉大なる神、ベリアル様よ!」
「お、驚きました。なんでいまさら……俺に話しかけてくるんですか?」
「おう。その件に関して、言いたいことがある」
「な、なんですか?」
「アルゴ、オレっち以外の奴と既に契約してやがったな。その契約に邪魔をされて時間が掛かっちまった。おいおい、困るぜ。そういうことは事前に言っといてくれよ!」
「そ、そういうことでしたか。メガラとの契約に邪魔をされて、今まで意識が出てこれなかったんですね……」
「メガラ? 誰だそりゃあ? カワイ子ちゃんか?」
「カワイ子ちゃんって……。あー、まあ……はい。そうですね」
「なら許す」
「軽いですね」
「まあな。で、話を戻していいか?」
「あ、はい」
「この結界は随分高度なものだが、永遠に在るものじゃねえ。時間が経てば結界は自壊し、外に出られるはずだ。だから安心しろ」
「……良かった。安心しました。でも、よく考えればそうですね。俺を永遠に閉じ込める結界なら、大将軍二人とマティアスさんが俺と戦う理由がないですもんね……」
「あん? この結界内で戦ったのか? オレっち、いま表に出られたところだから、これまでのことは分からねえ」
「はい。戦いました。二人は逃げ、一人は……俺が殺しました」
「……そうかい」
「それで……この結界が自壊するのは、あとどれぐらい掛かるんですか?」
「さあな。けど、それほど待たなくていいと思うぜ。まあ、焦っても仕方がねえ。少しのんびりしようや」
「のんびりしてて、いいんでしょうか?」
「焦れば早く出られるってわけでもねえ。だから、心を落ち着けろ」
「……はい」
「それにしても、こりゃあ懐かしい光景だなあ」
「懐かしい?」
「ああ。この都市は、神が地上に居た時代……つまり、神代にもっとも栄えていた都市を模倣して創られたものだな」
「え、そうなんですか? なんでその都市を模倣したんですか?」
「そりゃあオレっちに訊かれても分からねえよ。創った本人に訊いてみねえとな。あー、それからな、一ついいか? アルゴ」
「はい」
「オレっちの声は、オマエにしか聞こえない。今やオレっちとオマエは相棒と言っていい。だから、もっと気安い口調で話せ。敬称も不要だ」
「いいんですか? 仮にも神なので気を使っているんですが……一応」
「その発言で、オマエがオレっちのことをどう思っているか理解したよ。オレっちは偉大で、器の大きい神だ。オマエの無礼を全て許そう。だからよう、ヘイ、カモン」
「分かりまし……分かったよ、ベリアル」




